第53話 急に切なくなってきたね

「それにしてもヨテヅさん、正式に職人として採用が決まったってことは……それはつまり……」

「つまり、なんだ?」

「……今こそ! ササラさんにプロポーズするときってことだね!!」

「ハァ……やっぱりそれか……」

「フッフッフッ……ごまかそうったって、そうはいかないよ!?」

「いや、ごまかすつもりはないさ」

「それでそれで!? もちろん、男らしくビシッとキメるんでしょ!? だって、もう職人になったんだもん! 遠慮も気兼ねも何も必要ないでしょ!?」

「……まあな、そういうことにはなるだろうなぁ」

「それにササラさんだって、きっと待ってるよ? いや、待ちくたびれてるんじゃない!?」


 だって、ササラさんは美人さんなんだもん! いくら婦人服専門店に勤めてて男性との接点が少ないとはいえ、この2年間のうちにお誘いがなかったなんてことはなかったハズ!!

 というより、ササラさんの魅力の分からん男なら、ソイツはもう男と名乗るのをやめたほうがいいレベル!!

 そんなササラさんが今まで誰とも結婚どころかお付き合いすらしていない……それはつまり、ヨテヅさんからのプロポーズを待ってるってことに違いない!!


「ノクト……お前にそこまでいわれなくても、俺だってここが決め時だってことぐらいは分かってるつもりだ」

「おっ! おぉぉぉぉぉっ!!」

「それに……お前もDランクに昇格したとなれば、いよいよもって俺が近くにいる必要もないだろうしな……いや、お前はお調子者なところもあるが、基本的にはしっかりしていたからな……もっと早く独り立ちさせてもよかったかもしれないとは思っているが……」

「……ヨテヅさん」


 自分の幸せよりも、僕を見守ることを優先していた……

 まあ、そんなヨテヅさんだから、ササラさんも待ってくれているんだろうなぁって気はする。

 でも、今こそヨテヅさんは自分の幸せを追うときだ。


「今までありがとう、ヨテヅさん……こうやって一緒にいてくれたから、僕は今まで孤独にならずに済んだって思ってる……それに、ヨテヅさんと一緒でなければ、モンスターへの復讐心が強過ぎて破滅の道を歩んでいたかもしれない……」

「まあ、俺だって奴らへの憎しみがないわけじゃない……だが、お前のそれは俺から見ても危ういと感じるほどだった……だから、ほっとけなかったっていうのはあるな……もちろん、この生活を俺自身が楽しんでいたのだから、感謝するのは俺のほうだ、ありがとう」

「うん、うん……なんだろう、一生のお別れってわけじゃないのに、急に切なくなってきたね」

「ああ……それに、今すぐ部屋を別々にするってわけでもないのにな?」

「あははっ……そうだね……でも、こうやって2人で生活するのも、残りわずかなんだねぇ……」

「そんなに寂しいなら、もうちょっとこのままでいるか? なんだかんだいって、お前はまだ成人を迎えてないわけだしな……それまで一緒にいてやってもいいぞ?」

「ほぁっ!? ……魅力的な提案ではあるけど、それはダメだよ! っていうか、ホントにササラさんが待てなくなっちゃうよっ!!」

「ハハッ、それもそうだな!」

「まったく、ヨテヅさんは……どうせ『ササラさんが待ってるっていうのは自分の思い込みで、全然違ったら恥ずかしい』とか思って、先延ばししようとしてるんでしょ?」

「おっと、バレてしまったか……ハッハッハツ!」

「もう、へたれマンなんだから……」

「おう、俺は王国一のへたれマンだからな!」

「自慢になんないよ……」


 なんておどけて見せるヨテヅさんだけど、本当は心の強い人だからね……


「さて、腹も減ってきたことだし、そろそろ夕食にしようか……」

「よしきたっ! じゃじゃーん! 今日もオーク肉の出番だよっ!!」

「お前は……本当に好きだなぁ……」

「うん、僕は『お肉大好きマン』だからね!」

「といいつつ、お前……ギルドで『ミートボーイ』って呼ばれてるんだろ?」

「うぐぅ……」

「しょうがないなぁ……俺がお肉大好きマンって呼んでやるよ」

「ホントに!? ありがとう、ヨテヅさん! やっぱヨテヅさんこそが真の男前だよっ!!」

「そんなんで男前といわれても微妙だけどな……」

「えぇっ! とっても大切なことなんだよ!?」

「はいはい……それじゃ行くぞ、お肉大好きマン」

「がってんだ!」


 こうして、夕食前のリラックスタイムは過ぎていった。


………………

…………

……


 その後の展開は早かった。

 ヨテヅさんがササラさんにプロポーズをガツンとキメて、ササラさんもさらりとオーケーを出した。

 やっぱり、ササラさんも待ってくれていたみたいだね。

 いや、客観的に見ていて、それはすぐ分かることではあったんだけどさ。

 それでね、結婚の決まったササラさんの美人度がさらに増したって感じでさ、まったくもってヨテヅさんがうらやましい限りなんだよ!!

 あんにゃろ、これからササラさんを泣かせるようなことがあったら、僕がシバキ倒してやるんだからね!!

 そして、その流れのまま、2人は部屋を借りて暮らすことになった。

 ちなみに、家の購入には住民登録が必要なんだけど、それはこの街に3年以上暮らした実績がなければできないからね、もうちょっと先になるだろう。

 ま、それまでにしっかり稼いできっちり貯めておくんだよって感じだ。

 ……そんなこんなで僕は、宿屋の1人部屋に移った。


「部屋自体は狭くなったのに……なんだか、妙に広く感じちゃうな……」

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