第52話 ダブル
「それではハーシィさん、今後ともよろしくおねがいします!」
「ええ、こちらこそよろしくね」
こうしてハーシィさんと挨拶を交わして、冒険者ギルドでの用事は終わり。
「……見た目には、まだまだガキにしか見えねぇのに……なんでか、大きく見えちまうな」
「だな……存在感がデッケェ……」
「アタシも、あと5年若ければほっとかないんだけどなぁ……」
「……えっと、10年の間違いでは?」
「あぁ!? 今なんつった!?」
「あッ! スンマセン!!」
「アイツがどこまで行くのか……それも少し、楽しみではあるな……」
「それにまあ、最近さらにモンスター共も活発になってきたからなぁ……強い奴はいくらいてもいい……いや、むしろたくさんいるべきだろう」
「……そういう存在に、俺たちもなってかねぇとな!」
「そうだな! 俺たちが街を守るってぐらいの気概がいるってもんだ!!」
「よっしゃ! そうと決まれば……英気を養うため飲むぞ!!」
「まったく、お前はそればっかだな……」
「いいから、いいから!」
……なんて会話が、僕がギルドの建物を出る際に背中側から聞こえてくる。
僕もまだまだ頑張るつもりだし、それがみんなへの刺激となったのなら嬉しいところだね。
それに……あの日みたいに、この街がモンスター共に襲われないとも限らないしさ……
そんなことを思いつつ、宿屋へ向かう。
「たっだいまぁ~!」
「おう、帰ったか」
2年経ったけど、いまだに宿屋でヨテヅさんと一緒の部屋を取って暮らしている。
まあ、稼ぎとしては1人で暮らすことも可能なんだけどね……でも、このスタイルがずっと続いている。
このことから察するものがあるだろうけど……ヨテヅさんはまだ、ササラさんとゴールインしていない……このへたれマンめ。
そしてそのヨテヅさんだけど、今は工房で職人見習いとして働いている。
フッ……これもあのときの、僕の魂を込めた説得が効いたってところかな?
そうしてヨテヅさんは、コツコツと経験を積んでいる真っ最中ってところだね。
まあ、そんな見習いの身分だからこそ、ササラさんにプロポーズできてないっていうのはあるんだろうけどねぇ……
それはそれとして……僕のDランク昇格を報告しよう! きっと喜んでくれるはずさ!!
「それでね、ヨテヅさん……今日は一つ、報告したいことがあるんだ……」
先ほどのハーシィさんをマネて、シリアスな雰囲気を作ってみる。
そうすることでサプライズ感を演出するってわけだね。
フフッ、ヨテヅさん……驚いてくれるかなぁ?
「そうなのか? 実はな、俺も報告したいことがあったんだ……」
「えっ!! ヨテヅさんも!? 何!? どんなこと!? 悪い内容ならイヤだよ!?」
驚かせるつもりが、反対に僕のほうが驚かされてしまった格好だ……でも、なんだろう?
「お前を変に心配させるのもなんだから、俺が先にいわせてもらうとするか……その報告したいことっていうのはな、正式に職人として採用されることに決まったってことなんだ」
「えっ! えぇっ!! ホントに!?」
「ああ、本当だ」
「わぁ~っ! 凄い! 凄いやぁ!! やったね! ヨテヅさん!!」
「フッ、まあな」
実際のところ、なんのコネもない田舎者が村から出てきて職人として採用されるっていうのは、冒険者のランクを上げることより難しいことかもしれないからね。
まあ、それだけヨテヅさんには才能があったってことなんだろうし……それに何より、凄い努力をしたんだろうなぁ……さすがだよ!
「それで、お前の報告したいことってのはなんだ?」
おっと、そうだったね……ヨテヅさんのインパクトが強くて、忘れるところだったよ。
「フッフッフッ……聞きたいかい?」
「そうだな……聞かせてくれるか?」
わざともったいぶってみれば、ヨテヅさんも乗ってくれる。
こういうところがいいんだよねぇ。
でも、引っ張り過ぎるのも悪いからね、そろそろいっちゃう!
「なんと! 僕は今日! Dランクに昇格しましたっ!!」
「ほう! そいつは凄いじゃないか!!」
「いやぁ~とはいえ、正直ヨテヅさんのインパクトには負けた感があるけどねぇ~」
「いやいや、そんなことないぞ? なんせ、Dランクってのはそう簡単になれるもんじゃないってことを俺でも知っているぐらいだからな……それをノクトの年齢で成し遂げるとは……そんな奴、なかなかいないんじゃないか?」
「まあ、そのときギルドにいた冒険者たちも早いっていってた気がするね」
「だろうなぁ……それにきっと、フィルも喜んでることだろうよ」
「ホントに!? 父さんも喜んでくれてるかな!?」
「ああ、もちろんだ」
「やったね!」
「しかし、Dランクかぁ……凄いし、おめでたいことなんだろうが……それでもやっぱり、心配にはなるなぁ……」
「より一層の注意をしていくつもりだから、心配ご無用さ! それに、父さんに並ぶ冒険者になるためには、まだまだここは通過点に過ぎないんだし!!」
「そうか、まだまだ通過点か……そうだなぁ……それは俺も同じだ……お互いもっともっと精進が必要ってことだな」
「うん! そうだね!!」
こんな感じで、今日はダブルで嬉しい出来事があった日となったわけだ。
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