第51話 最速

「ノクト君、おかえり~」

「どうもどうも~そしてこれが、引取証明書になります」

「は~い……うん、今日もノクト君は頑張ったんだねぇ~」

「いえいえ、それほどでもありませんよ。愚鈍そうなロンリーオークを見つけて、こう、バチコーンと一発かましたっただけですからね!」

「うふふっ、そうなのね」


 よっしゃ、受付のお姉さんから笑顔をゲット!

 ここで、今日戦ったオークの名誉のためいっておいてやるとするなら、特別どんくさい奴だったってことはない。

 ただ、お姉さんの笑顔を引き出したいから、滑稽そうに語っただけ。

 フッ、名も知らぬオークよ……お前の尊い犠牲は無駄ではなかったぞ!


「……とはいえ、オークという種族は私たち人間族にとってなかなか恐ろしい相手のはずなんだけど……ノクト君にとってはそうでもないのよね……?」

「まあ、そうですね」


 ひゅ~っ! 我ながらカッコよくキマッちゃったね!!


「……ハァ……ソロで活動するって聞いたときは心配だったけど……まったくの杞憂だったからねぇ……ノクト君がオークを狩ってくるたび、もう何度も思っていることだけど……」

「アハハッ、そのように気にしてもらえてありがたい限りです」

「まあ、ノクト君に関しては、初めて冒険者登録をしたときから雰囲気のある子だなって思ってはいたけどね……でも、まさかここまでとは……」

「僕がここまでやってこれたのは、ハーシィさんのご指導のおかげですよ」

「私は受付の仕事をしているだけだけで、そこまでいってもらえるほどじゃないんだけどね……でも、ありがたくその言葉を受け取っとくわ」

「ええ、そうしてくれると嬉しいです」

「それでね、ノクト君……」

「はい、なんでしょう?」

「あなたは、今日……」


 なんだろう、ハーシィさんが急にシリアスな感じになったんだけど……

 そんなふうに間をたっぷり取りながら、ゆっくり話すのやめてくれないかな?

 なんだかどんどん、ドキドキしてきちゃうからさ……


「……おめでとう! Dランクに昇格ですっ!!」

「ほぁっ?」

「Dランクだよ! ノクト君!!」

「……D……ランク……Dランク!! えっ! 僕が!?」

「そうだよ、ノクト君……ここまでよく頑張ったねぇ……」

「それこそ、ハーシィさんのご指導あってのことです! いつも、ありがとうございます!!」

「ううん……どれも純然たるノクト君の努力による結果だよ!」


 ついに……ついにDランク!

 平民冒険者が到達できる、ほぼ最高のランク!!

 その先は、お貴族様みたいな魔力を持っていたり、平民の中でも特別な才能を持った人間にしか許されない高み。

 父さん……ここまできたよ。

 僕に特別な才能があるかは分からないけど……父さんのCランクまであと1ランク……もうちょっとだよ。


「……おい、今の聞いたよな? ミートボーイの奴……Dランクだとよ……」

「あんな子供が……」

「いやいや、冒険者にトシなんか関係ねぇべ?」

「そうだとも、俺たちゃこの腕っぷしのみで生きてる、ホンモノの冒険者なんだからな!」

「……カッコいいこといってるけどお前……確かFランクだよな?」

「うっ……お、俺だって、もうちょっとでEランクに上がれるはずだ! たぶん!!」

「だといいけどな……ま、ガンバレ」

「それよか、これからはアイツのこと……ミートボーイ『さん』って呼んだほうがよくねぇか?」

「えぇ~? でも、『さん』なんて付けないで、ミートボーイだけのほうがかわいくな~い?」

「姐さん……かわいいかどうかってことよりもですね……」

「それにしても……奴が冒険者になって、そんな経ってないよな?」

「う~んと……なんぼなんでも1年ってこたないと思うが……」

「2年だ……俺もほとんど同時期に冒険者になったからな」

「2年でD!? か~っ! 早ぇなぁ!!」

「つーか、この街の冒険者で歴代最速じゃねぇか?」

「ああ、可能性はあるな……」

「うむ、スタート地点の違う貴族を除けば、おそらく最速だろう」

「そりゃ、オークだって毎日狩れるわな……」

「むしろ、オークを毎日狩ったからこそともいえるな……」

「まあ、俺はアイツの戦いぶりを見たことがあるけど……やっぱ、その辺の奴と違ったからなぁ……なんというか、納得だよ」

「だなぁ……」

「つーか、オークはもちろん、アイツの獲物を見るときの目って、まさに『肉!』って感じだったもんなぁ……」

「……それはある」

「奴のことだから美味い肉を求めて、そのうちオークナイトとか……下手したらそれ以上の上位種を狙うようになったりしてな……」

「そうすると……Cランクも見えてくるんじゃないか?」

「肉のためにCランクとか……マジかよ……」

「……俺、ミートボーイただ1人に壊滅させられたオークの集落が幻視できちゃったね……」

「恐るべし……ミートボーイ……」


 僕が感動に打ち震えているあいだ、ギルド内にいた冒険者たちが好き放題いってくれている。

 だから僕は「お肉大好きマン」だといっているのに……

 でも、なんだかんだいいながら僕にCランクの期待をかけてくれているのは、ちょっと嬉しい。

 父さん、きっと僕も追いつくからね!


「……ノクト君、改めていうけど、そして何度もいうけど……無理しちゃだめだからね? それにDランクともなれば、さらに危険な依頼も出てくるだろうし……」

「はい、肝に銘じておきます」


 それに、この程度の実力では、まだまだオーガには届かないからね……浮かれてばかりもいられない。

 僕の心の中で、今もなお醜悪な笑みを浮かべている奴がいるのだから……

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