第50話 執念

 重い、重~いオークを担ぎながら、ようやく街に帰ってきた。

 また、その足で冒険者ギルドへ向かう。

 ただし、直接受付には行かず、先に解体場へ向かう。

 それはなんでかっていうと……このオークを自分で解体するからさ。

 まあ、この持ち帰ってきたオークを、そのままギルドに納入することもできるんだけどね……

 しかしながら、その場合は税金などと一緒に解体手数料まで差し引かれて報酬を受け取ることになってしまう。

 この解体手数料だけど、僕みたいにお肉が欲しいからそれを切り分けてもらうため……とかそういうことは関係なく、オークを解体せず1体丸々納入すれば強制的に取られるお金である……そんなのはもったいないもんね!

 だから、よっぽど時間がないとき以外は、面倒だけど自分で解体するようにしている。

 幸いにして、解体場は無料で使わせてもらえるしさ。

 でもまあ、自分で解体することによって、そのとき食べたいお肉の部位をピンポイントで選べちゃったりするから、これはこれでアリだとは思っていたりもする。

 それにやっぱ人によって解体の仕方も微妙に違うっていうか、僕の思い描いているお肉の捌き方と違うことも割とあるし……

 そんで解体が面倒で他人に任せたとき、そういう僕の期待した感じとは違う捌き方のお肉を渡されて「これなら自分でやればよかった……」って思うこともあったからね……

 フッ、今となっては、それも懐かしい思い出さ………………嗚呼、でもやっぱ、もっと美味しく食べることができたはずなのに、もったいなかったな……

 とまあ、そんなふうに思うとさ……村で暮らしてたとき、父さんに解体の技術をみっちり仕込んでおいてもらったのは、本当にありがたいことだったね。

 おそらく父さんは、僕が冒険者になったときのこういう場面を想定して解体のやり方を教えておいてくれたのだろう。

 そう思うと、よりありがたさが増すってもんだね。

 父さん、ありがとう、本当に……この解体技術のおかげで無駄なお金を取られずに済むし、思ったとおりのお肉も食べられるよ……

 ちなみにこの解体だけど、ただやればいいってわけでもない……ヘタクソだったら、そのぶん査定が下がって報酬を減らされちゃうからね。

 そんなわけで、確かな技術と気持ちを込めて解体しなければならないというわけだね。

 なんて思いつつ、解体作業を進めていく。


「……フゥ、こんなもんかね」


 時間がしばらく経過し、ようやく作業が終わった。

 そうして、今日食べたい感じの部位を手元に残し、それ以外は解体場に併設された保管場へ持って行く。


「おう、ノクト! ごくろうさん!!」

「どうもどうも、こちらが今日のぶんになります。いやぁ、このオークもなかなか活きがよかったですからねぇ~きっと、美味しいお肉ですよ!」

「ほほう、そいつは楽しみだな! どれどれ……ふむ、なるほど……」

「どうです? 凄いでしょう!?」

「ああ、悪くなさそうだ……査定額としてはこんなもんだな、どうだ?」

「はい、文句なしです!」


 ギルドのオッチャンは、なかなかステキな値を付けてくれたものである。

 それでまあ、仮にギルドの査定に異議を申し立てたところで、どうにもならないだろうけどね……嫌なら売らないだけって感じ?


「そんじゃあ今回の引取証明書だ、またよろしくな!」

「はい! こちらこそよろしくお願いします!!」


 こうして、保管場をあとにする。

 そしてようやく、受付へ向かう。


「……おい見ろ、ミートボーイのお出ましだぞ」

「おお、もうそんな時間か……」

「ん? なんだその、ミートボーイっていうのは? 見た感じ、肥満児ってわけでもなさそうだが……っていうか、子供にしては割と戦う者の面構えをしているような?」

「お前……知らないのか?」

「ああ、そうか……お前はこの街に来て日が浅いんだったな……」

「それで? ミートボーイっていうのはどういうことなんだ? あの子供がなんかやらかしたのか?」

「お前……オークをソロで狩れるか?」

「それも無傷でな……」

「ソロで? いやぁ、本気出せばできなくはないだろうけど……正直仲間と一緒のほうがいいな……そして、仲間と一緒って発言から察しているだろうけど、無傷っていうのは無理だ」

「だろうな……」

「そして、それをできるのが……あのミートボーイってわけだ」

「そ、そうなのか、それは凄いな……って、それでミートボーイという二つ名にどう結び付くんだ?」

「まあ、ここからが本題なわけだが、ミートボーイはな……新鮮な肉を求めてオークをターゲットとしてるんだ」

「それも毎日な……」

「ま、毎日!? それも肉が欲しいからだって!? おいおい、頭おかしいのか!? パーティー単位ですら、週に2回でも狩ればじゅうぶんだろ!? つーか、肉なんか、その辺の肉屋に行けば買えるだろ!!」

「だからいったろ? アイツは『新鮮な肉』を求めてるってな……」

「しかも、切り方にもこだわって、自分で解体までするときたもんだ……まったく、奴の肉への執念は常軌を逸している……」

「わ、分からねぇ……俺みたいな凡人には意味が分からねぇよ……」


 ほ~んと、いつもいつも失礼なオッチャンたちだなぁ……僕は何度も「お肉大好きマン」と名乗っているのにさ……

 なんでか、そう呼んでくれないんだよねぇ。

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