第44話 誓い

 Eランクに昇格して早数ヶ月……だいぶモンスターとの戦闘にも慣れてきた。

 つい先日なんて、ほかのパーティーと一緒だったとはいえ、ゴブリンの集落を1つ潰したからね!

 フッ……どんなもんだい!! って感じである。

 まあ、僕自身、日々の剣術稽古を熱心にやっているからっていう自負は、もちろんある。

 でもやっぱ、この父さんから譲り受けた剣によるところが大きいと思うね。

 なんていうのかな、よく斬れるのは当然として、自分の腕の延長のような感覚があるとでもいえばいいのか、凄く振りやすいんだよね。

 もうね、この剣の扱いやすさに慣れちゃうと、木剣は当たり前として、ほかの剣なんかも「無理!」って感じになっちゃいそうだよ。

 もしかしてだけど、これが武器屋のオッチャンがいってた、「剣が力を貸してくれる」ってことなのかな?

 ということはだよ……僕は今のところ、この剣に認められちゃってるってことォ!?

 ひゃっほう! やったね!!

 フフッ……これは、さらなる精進を重ねて、もっともっと認めてもらわなければならないね!!

 それにしても、ここまで凄いとさ、父さんがCランクに昇格できたのも、この剣のおかげによるところが大きいんじゃないかなって気もしてきちゃうね。

 ……あっ、想像上の父さんが今「その点も認めないわけではないが、俺の頑張りによるところだって大きいんだぞ!?」っていってるよ。

 フフッ、分かってる、半分冗談だよ……半分はね!

 ……なんて、想像上の父さんをおちょくってみるが……やっぱり、直に会いたいな。

 まあ、この剣を振ってモンスターと戦っているとき、父さんを身近に感じられるような気はしているんだけどね……

 ……おっと、そんな弱気なことをいってると、この剣に見捨てられちゃうかな?

 強気、強気! よっしゃぁ!!

 ……ああそうだ、一応念のためいっておくと、僕がこの剣を振る際、魔力とかは使っていない……というか、使えないといったほうが正しいかもしれないけどね。

 だから、あのときの父さんみたいに、生命力を削って剣の性能を引き出してるってわけではない。

 あくまでも、僕自身の技術と剣そのものの性能によってのみ戦っているだけ。

 まあ、いっちゃ悪いけど、ゴブリンごときにそんな捨て身の戦い方しかできないんだったら、おとなしく街で仕事を探したほうが身のためだろうっていうのは、自分自身にもいってきたことだしさ……

 そんなことを思いつつ、今日も早朝の剣術稽古はいい感じでできたんじゃないかって気がするね。

 この調子で、どんどん実力を付けていって……必ず、オーガを倒せるだけの男になってみせる……

 そして、僕の心に棲み着いた奴を斬り捨ててやるんだ!

 待ってろ……いつか、その醜悪な笑みをぶっ潰してやるからな!!


「……ノクト、今日も凄い気迫だな」

「フッ……込めてる気合いが違うからね!」

「そうか……Eランクに上がって本格的にモンスターの討伐を始めたあたりからだろうか……お前の剣が日に日に冴え渡っていくのを感じるよ……俺みたいな、さほど才能のない奴にすら分かるぐらいにな……いや、まあ、それまでにも上達は感じていたが、その速度が違うって感じだな……」

「ふぅん、そうなんだ? でもまあ、僕なりに『強く! もっと強く!!』っていう意識をもって稽古に励んでいるつもりではあるからね!」

「まあ、その向上心は素晴らしいものだとは思うが……あまり戦いというものにのめり込み過ぎないようにも注意しとけよ? そうじゃないと、間違った方向に堕ちる可能性もないわけじゃないからな……」

「もしかしてヨテヅさん……『黒き勇者の物語』が愛読書だったりする?」

「……ま、まあ……ガキの頃、周りの連中がハマっててな、その影響っていうか、話を合わせるために俺もちぃ~っとばかりは……な」


 これはヨテヅさん……自分自身が大ハマりしてたって感じだろうね!


「もしや……そのために、字を覚えたとか!?」

「い、いやぁ、まあ……読み書きは、その……な? ほら、それなりにできといたほうがいいって親たちにいわれたし……何より俺は、木工細工の設計図を書くのに読み書きは重宝したからな!!」

「そっかぁ……最愛の妹の命を奪った者への復讐を誓い、黒き力を受け入れるあのシーン……僕は手に汗握ってページをめくったものだけどね?」

「おっ! 分かる分かる!! 俺もあそこはなぁ……勇者の心情を思うと、切なくて切なくて……ちょっと泣いちまったもんだよ……」

「ほらっ! やっぱ、好きなんじゃん!!」

「しまった!」

「ま、僕もあれにハマった者の1人だからさ、大丈夫……仲間だよ!」

「分かった、降参だ……俺もハマっていたよ………………だが、だからこそってわけでもないが、お前も黒き勇者のようにはなるなよ? 復讐を果たすまでは熱かったが……物語とはいえ、その後の悲劇は見てられなかったからな……入れ込み過ぎと思われるかもしれないが、お前にも、ああはなって欲しくないと思っているんだ」

「……うん、気を付ける」

「ああ、そうしてくれ」


 まあ、僕がモンスター狩りを熱心におこなうものだから、ヨテヅさんもそういう危惧をしたのかもしれない。

 ……それに、奴への強い闘争心も隠せてないだろうからね。

 そんなこんなで、今日の剣術稽古を終える。

 さて、今日は久々の休息日……ちょっとのんびりしましょうかね。

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