第40話 経験
「あ~あ、しっかり倒したのはいいけど、ゴブリンじゃなぁ……コイツがホーンラビットだったらよかったのに……」
だって、ホーンラビットなら……お肉が食べられるからね!
最近、モンスターの出現頻度が上がってきたおかげもあって、たまにホーンラビットのお肉をいただける日があるんだ。
これがもう、ありがたいのなんのって……ジュルリ……って感じ。
うぅ、思い出したら、ホーンラビットのお肉が食べたくなってきたよ……これから出てきてくれないかな?
……なんて、都合よく出てきてくれるわけないよね、あはは……はは……はぁ……ホントに出てきてくんないかな……
ああ、ちなみにだけど、ゴブリンの肉も食べることが可能か不可能か……っていうと、可能ではあるらしい。
ただし……どうしょうもないぐらい不味いらしいから、基本的に食べる人なんかいないって話だね。
まあ、そういう僕だって、食べたことないしさ。
そう……あの「お肉大好きマン」を自称する僕ですら食べようと思わないレベルだからね、どれだけ不味いのかってことが分かろうというものだろう。
いやね……村で暮らしていたときだけど、ジギムと一緒に試しに食べてみようかってチャレンジしようとしたことがあったんだよ。
それで父さんが森に見回りに行ったとき、狩ってきてもらってね……もちろん、そのときの解体は、僕たちがさせられたことはいうまでもない。
まあ、それはともかくとして、切り分けたゴブリンの肉を串に刺して……いや、ここまででもあんまり美味しそうな雰囲気がなかったんだけど、とりあえず気にしない振りをして火に炙り、焼き上がったのを口に近づけようとしてみたら……これが物凄く! 強烈に臭いのなんのって、ヤバ過ぎだった!!
もう、目に染みるぐらい刺激強過ぎ……あれには、さすがの僕も意識を手放しかけたね……そして、ジギムも当然というべきか、失神しかけてた……
そんな僕らを見て、父さんは「ま! これも経験だな!!」とかいって笑ってた……あのときばっかりは、薄れかけた意識の中で「分かってたんだったら、もっとちゃんと止めといてよ!」って、思わずにはいられなかったね。
まあ、チャレンジしたいと言い出したのは僕たちだってことから目をそらしつつね……
また、そのときだけど、ルゥは不参加だった……基本的に僕らの企てには、どんなにアホなことでも、文句をいいながら渋々でも付き合ってくれていた……そんなルゥが、このときばっかりはとても強い拒絶を見せていた。
あの姿は、今でも鮮明に記憶しているぐらいだ。
まあね、ルゥはおそらく、ああいう事態に陥るであろうことを察していたのだろうね……
そういえば、僕たちにも「やめておいたほうがいいと思う」っていつになく真剣な目をして訴えていたっけ……ハハッ、あの言葉を聞いておけば……
フフッ……それでも、あんなアホなことだって、今では懐かしい思い出さ……
「ノクト、その顔……また、村でのことを思い出していたのか?」
「……えっ? あ、うん……そうだね」
「どうせ、ゴブリン肉を食おうと試みて、失敗したときのことでも思い出してたんだろ?」
「な、なぜそれを……」
「なぜって……俺もガキの頃に同じようなことをやった経験があるからな……というか、だいたいの男は挑戦したことがあるんじゃないか? 大人たちからワルガキとか呼ばれるような奴だと特にな……ああ、フィルだってガキの頃にやったことがあるはずだぞ?」
「へぇ、父さんもかぁ……むむっ? まさか、そんなツライ経験も半分このつもりだった!?」
「ま、それも男の通過儀礼みたいなもんだ……とでも思っとけばいいだろ」
「えぇ……そんな通過儀礼、イヤだよ……」
「ハハッ! 確かにイヤだな!!」
「うん……思い出しただけで目と鼻……そして心への刺激が凄いんだからさ……」
「ああ、分かる分かる! そんでちなみにだけど、あのゴブリン肉……なんとか食えるようにする調理法があるらしいぞ?」
「えぇっ!! ……ウソでしょ!?」
「ウソかホントか、かなりの研鑽を積む必要があるとかなんとかって話だがな……」
「いや、そんな研鑽を積んでる暇に、もっと凄い技術を磨けるでしょ……」
「まあ、俺もそう思わなくもないが……世の中には物好きな奴もいるからなぁ……」
「えぇ……」
「それとな……そんなゴブリン肉を調理することができる料理人が、この街にもいるらしい……なんだったら、行ってみるか?」
「……はっ? えっ? シンプルにイヤだよ……絶対に行きたくないよォ!!」
「ま、そうだろうな……というか俺も、お前が『行ってみたい!』とかいいだしたらどうしようかと思っていたぐらいだ……」
「いやいや、そう思うんだったら、提案しないでよ……」
「……ま、それも経験かと思ってな! そんで、お前の意思が固いようなら、俺も覚悟しなきゃだろうなって思ってたわけだ」
「待って! その覚悟はいらない!! 絶対にそんなこといわないし! むしろ『行かない』という方向に意思が固いから!!」
「ハハハ、お前がそこまで慌てるとはな! お前にとって、よっぽどキツい経験だったというわけだ……ハハハハハ!!」
「……クッ、そのイジり……いつか、何倍にも返して進ぜよう!」
「おう、楽しみにしてるぜ!」
そんなこんなで今日も薬草採取を終え、ギルドへ完了報告に向かうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます