第39話 これぐらいはね?
夕食を終えて、部屋に戻ってきた。
「ノクト……どうやら、お前の判断のほうが正しかったようだな……」
「えっ?」
「お前も、あのオヤジたちの話を聞いてたんだろ?」
「ま、まあね……」
察するものがないではなかったが、やっぱり、その話だったんだね……
「モンスターの襲撃を受けたのは、俺たちの村だけじゃなかった……そして、俺が今まで生きてきて、こんなに頻繁に村が壊滅したなんて話、聞いたことがなかった……もちろん、モンスターが襲ってきたので撃退したって話はそれなりに聞いたことがある……そうなんだよ、撃退できる規模の襲撃しか、今までなかったんだよ……」
「うん、そうだね……僕も村にいたとき、行商人とか旅人のオッチャンに撃退成功の武勇伝みたいな話しか聞いたことがないよ」
「まあ、そうだろうな……ああ、それはそれとして、やはり……俺たちも戦えるようにはなっておく必要があるってことだな……」
「うん、そう思う」
「とはいえ、あのオヤジたちが話してたとおり、この街には立派な壁がそびえ立っている、それも何重にもな……それに衛兵や、ある程度戦える冒険者たちだってそれなりにいるはずだし……何より、魔法を使えるお貴族様だって、この街にはいらっしゃるんだ……だから、そこまで心配することもないかもしれない……」
「まあ、さすがにこの街まで壊滅するなんてことは、考えたくないもんね……」
「ああ、そのとおりだ……それでもやっぱり備えは必要ということで、お前の考えていたとおり戦いの準備はしつつ、でも、できることなら街中の依頼をするようにしていくってことにしよう」
「オッケー! でもまあ結局、もともと考えていた方向性に変わりはないってことだね」
「ああ、違いない」
そんな感じで、あまり変わり映えはしないものの、再度これからの方針を固めたのだった。
それにしても、あのオッチャンたちの話に出てきたこの領で壊滅した村っていうのは、たぶん僕たちの住んでたホツエン村のことだろうね……
そして、やっぱりというべきか……そこに住んでいる人でなければ、他人事なんだなって思った。
まあ、僕だって、他領の村が壊滅したって話を半ば他人事として聞いていたから、人のことはいえないけどね……
そんな後ろ向きなことも考えたりしたが……ともあれ、これからはより気を引き締めて、日々活動していかなければならないということなんだろうね。
加えて……こうも、モンスターの動きが活発だというのなら、僕がオーガと再び相まみえる機会も、そう遠くないうちにやってくるかもしれない。
今の僕では、どうやったって勝てない……だからこそ、もっと鍛練を積んで強くならねば!
よし! 明日からの剣術稽古は、もっと気合いを入れていくぞ!!
……いや、明日からじゃ遅い! 今からだッ!!
「おい、ノクト……まさか、今から剣術の稽古に行くつもりじゃないだろうな?」
「フフッ……そのまさかだよっ!」
「待て……お前の気持ちは分からんでもないが、もう夜だ……危ない奴に出くわさないとも限らんから、朝まで我慢しろ」
「えぇ~っ!」
「それにな……頑張るのも結構なことだが、休めるときにしっかり身体を休めておくのも大事なことだぞ?」
「はぁ~い……」
ふと思い出したけど……ジギムもこんな感じで「訓練だ! 訓練だ!!」っていってたね……
やっぱり、なんだかんだいって、僕らは似たもの同士だったのかもしれないなぁ……
そう考えると、アイツも今頃どっかで「訓練だ!」っていいながら頑張ってるのかな?
というか、またモンスターに襲われてないといいんだけど……ま、それは僕にもいえることかもしれないけどね……うん、気を付けよう!
そうして明日に向けて、ちょっと早いかもしれないけど、寝てしまうことにした。
まあ、ヨテヅさんのいうとおりに、身体を休めておくってことさ!
………………
…………
……
他領の村が壊滅したって話を聞いてから、またしばらく経過した。
その間、特に大きな出来事はなかったといえるだろう。
まあ、いつもどおりにFランク冒険者として、オイシイ依頼があったら、すかさずゲット!
そして、これはという依頼がなければ薬草採取。
まあ、薬草採取の場合、採取したぶんだけ報酬になるからね……だから、上手く薬草を見付けることさえできれば、より儲かるってわけなんだ。
その点が、報酬金額の決まっている依頼より魅力的なところだね。
とはいえ……探すのがヘタクソだと全然稼げなくなっちゃうっていうのは……まあ、悲しいけど、当然のことでもある。
ちなみに、僕の薬草採取マンとしての腕前は……まあ、悪くないっていえるレベルじゃないかな?
なぜなら、「うわぁ~ん! 全然見つかんなかったぁ~!!」って泣くようなことは、今のところないからね。
……とはいうものの、「これなら、微妙でも街中の依頼を受けたほうがよかったかな?」って思うような日もなくはないけどね。
「ギギィッ!」
「セイヤッ! まあ、気付かれてないと思ってたらしいけど、残念……気付いてたよ」
1体のゴブリンが接近してたんだけど、気付かない振りをして寄せ付け、最終的に返り討ちにしてやった。
たぶんだけど、こっちが子供と見て油断したんだろうねぇ。
というか、体格としてはそんなに変わんない……下手したら、こっちのほうがちょっとデッカいぐらいだっていうのにさ。
「おう、やったみたいだな!」
「まあ、これぐらいはね?」
「カッコ付けやがって、コイツめ」
「フッ……」
なんてニヒルに笑ってみせる。
「しかしながら、やっぱり……徐々にではあるが、モンスターが増えつつあるな……」
「うん、そうみたいだね……」
僕らがこの街で薬草採取を始めた頃は、モンスターに出会わない日のほうが多かった。
それが最近では、こんなふうに出会う日のほうが多くなってきている。
とはいえ、今のところゴブリンとかホーンラビットといったそんなに強くない奴だけなので、そこまで脅威を感じているわけでもないけどね。
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