第38話 きっとこれからも

 薬草採取の講習を受けてから、1カ月が経過した。

 そのあいだ、報酬が高めだったり、仕事内容が楽めだったりといった、いわゆるオイシイ依頼を狙いつつ、それ以外は薬草採取の依頼を受けるようにしてきた。

 まあ、オイシイ依頼っていうのは、当然みんな選びたがるものだけど……意外と書類仕事なんかは残っていたりするので、そういうのはありがたく頂くようにしている。

 父さん、母さん……僕にあれほどうるさく読み書きを教え込んでくれてありがとう!

 おかげで楽めな依頼を多めに受けることができているよ!!


「Fランクだと書類関係の依頼って割と残りがちだから、ノクト君が受けてくれてギルドとしても助かっちゃうわ~」

「そうですか? 精神的なことはともかく、体力的にはそこまで疲れないから、僕としては狙い目だと思いますけどね?」

「まあ、読み書きが必須だからねぇ~それに、体力的に楽な代わりといってはなんだけど、報酬はそこまでじゃないのが多いし……」

「確かに、それはありますね……でもまあとりあえず、しばらくのあいだは僕が受けさせてもらおうかなって思いますよっ!」

「ふふっ、この調子でいけば、そう遠くないうちにEランクに昇格できるかもしれないからねぇ~それまでって感じかなぁ?」

「あははっ、だといいですね!」


 そんなことを話しつつ、本日の依頼完了報告を終える。

 そして装備も整った今、日々の生活にかかるお金以外はコツコツと貯めることができている。

 フフッ……いい感じだ。

 しかも、受付のお姉さんの口ぶりでは、Eランク昇格も近いみたいだからね! ひゃっほう!!

 そうして、これまた報告を終えたヨテヅさんと一緒に宿屋へ戻ることに。

 ちなみに今日は、終了時間がほぼ同じみたいだったけど、ヨテヅさんと同じ依頼ではなかった。

 まあ、Fランクに上がってから徐々に違う依頼を受けることが多くなってきたからね。

 ただし、薬草採取のときだけは一緒に受けることにしている。

 正直、こうして何度も続けていて、森の浅いところぐらいならソロでも大丈夫なような気がしないでもない。

 いや、別に調子に乗っているわけではない……つもりだけどね。

 でもやっぱ、ヨテヅさん的には僕のことが心配っていうのがあるんだろうと思う。

 そんなふうに気遣ってもらえて、ありがたいもんだね。


「ノクト、今日の依頼はどうだった?」

「うん、書類をチョチョイっと整理するだけだったから、そんなに大変じゃなかったよ!」

「そうか……それはよかった」

「それで、ヨテヅさんは?」

「おう、俺んところも順調だったぞ! やっぱ、分かる奴には分かるみたいでな、俺の手際がいいって監督してるオヤジにも褒められたぐらいだ!!」

「おぉっ! やったね!!」

「……なあ、お前はこの先……やっぱり、モンスターと戦うつもりか?」

「うん? まあ、そのつもりだね」

「……そうか」

「なんで? やっぱり、危険だから反対?」

「まあ……な、お前も街中で完結する依頼だけで上手くやっていけそうだし……わざわざ危険に身をさらすこともないんじゃないか……って気もしなくはない」

「確かに、僕もFランク書類整理マンとして、ギルドから期待もされているみたいだからねぇ……」

「……だろ?」

「でも、父さんみたいな冒険者という道を完全に外す気にはならないかなぁ……それにやっぱり、あんなことが再びあったとき、戦えるようになっておきたいしさ……」

「……まあ、そうだな……すまんな、惑わすようなことをいって」

「そんなことないよ、ヨテヅさんのいってることも分かるつもりではあるからね!」

「そうか……とはいえ、本格的にモンスターと戦うようになるのはEランクからだし、それまでは……いや、Eランクに昇格してからもだな、進路についてはじっくり考えていこうぜ!」

「うん、そうだね!」


 ごめん、ヨテヅさん……きっとこれからも、僕の意思は変わらないと思う。

 少なくとも、僕の心に棲み着いた奴を倒すその日まではね……

 そんなこんなで宿屋に戻り、しばしくつろいだあと、夕食をいただく。

 そのとき、近くのテーブルで食事をしていたオッチャンたちから気になる話題が聞こえてきた。


「……なあ、もう聞いたか? 近頃また1つ、村が壊滅したらしい……」

「ああ、そのことなら俺も既に聞いたよ……」

「でも、それって確か……他領の話だろ?」

「いや、今回のは確かに他領のことだけどよ……」

「ああ、ウチの領だって、もう何カ月も前のことだけど……1つやられたわけだしな……」

「それもモンスター共が襲撃してきて……ってことなんだろ? 最近、なんなんだろうなぁ?」

「実際のところは分からんが……モンスター共が活気づき始めているってことなのかもしれんな……」

「おいおい、やめてくれよ……そんな予想、聞きたくねぇ……」

「で、でもまあ……この街はガッチリとした壁に囲まれてるから大丈夫……だよなっ!?」

「まあ、そのためなのか、新しい壁も建設中だしなぁ……」

「ああ、そのおかげもあって、こうやって俺たちもメシを食えてるわけだしな……」

「ははっ! ホント、壁さまさまだよなっ!!」

「でも、もしものときを考えておく必要はあるかもしれんな……」

「それは、この街を捨てて逃げる……ということか?」

「えぇっ!? に、逃げるったって……どこに逃げりゃいいんだよ……」

「ま、なんにせよ、常に最新の情報に触れるようにはしとかないとな……」

「はぁ……この先、何事もなければいいが……」

「そうだっ! どっかで新しく始めるとか、そんなのめんどくせぇ!!」

「俺に怒鳴られても、どうにもできんよ……文句があるなら、モンスター共にいってくれ」

「まあ、そうだなぁ……」

「チッ……頼むぞ、モンスターのクソッタレ共……」


 残念ながら、ヨテヅさんの思うとおりにはいかないかもしれない……

 というか、街中でやる仕事をメインにしたとしても、やっぱり戦えるようになっておく必要がありそうだ。

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