第36話 お眼鏡に適う物

「それじゃあ、夕方までには剣のメンテナンスを終わらせておく。それ以降なら、いつ受け取りに来てくれても構わん。そしてこれは預かり証だ、一応顔は覚えているが、念のためなので持っておいてくれ」

「分かりました、それでは、よろしくお願いします!」

「おう、きっちり仕上げといてやる」


 こうして武器屋を後にした。

 また、革鎧は先に受け取り、武器屋で既に装備して今に至る。

 ただ、ある程度街中は治安が守られているので、装備をガッチガチに固める必要はないといえば、ない。

 だからといって、全ての人が装備をしていないというわけでもない……衛兵はもちろん、冒険者や旅人らしき人など、フル装備のまま街中で行動している人もちらほら見かけるからね。

 そんな中で、僕が今装備を身に付けているのは、今しがた買ったばかりの革鎧に浮かれているから……という気持ちがないとはいわない。

 ただし、どちらかというと、これからのためである。

 というのが、これから先薬草採取などで街の外に出る機会が増えるようになっていくことから、早めに装備をした状態に慣れておこうという考えからなんだ。

 ちなみにヨテヅさんも今、装備を着込んでいる。

 フッ……これでどこからどう見ても、立派な冒険者だね! もちろん、戦う者としてのね!!


「どうだ……鎧の重さやなんかで、疲れたりはしていないか?」

「うん、大丈夫だよ!」

「そうか、ならよかった……とはいえ、まだ着始めたばかりなんだから、あんまり無理するなよ? 辛くなったら、すぐいうんだぞ?」

「オッケー!」

「まったく、浮かれてるなぁ……それはそうと、武器屋のオヤジが認めるほど、フィルの剣は凄かったんだなぁ?」

「うん、あの剣は父さんだけじゃなく、爺ちゃんやそのまたずっと前から、うちに代々受け継がれてきた剣なんだってさ」

「らしいなぁ……フィルもそんなようなことを昔いってた気がする」

「へぇ、そうなんだ?」

「ああ、アイツが冒険者時代のことを話してくれたとき、『この剣があったからこそ、命を拾う場面が少なからずあった……』とか懐かしそうにしみじみ語ってたよ」

「そうなの? 僕にはもっとカッコいいことばかりを話していた気がするけどなぁ……?」

「まあ、アイツも息子にはカッコ付けたかったんだろうさ」

「アハハッ、そうかもね! 父さんって、いつも冒険者時代の話をするときは無駄にシブい顔を作ってたし!!」

「フフッ、そうか……」

「でも、そうだなぁ……冒険者心得みたいなことを話すときは、真面目な顔になってたような気もするね!」

「ほう、そうだったのか……そのときはバッチリ父親の顔だったんだろうなぁ……」

「うん、そうだねぇ……」

「……ま! 今は俺を父親……いや、それよりは兄貴のほうがいいな……とにかく、そのつもりで接してくれればいいさ」

「……なるほど、ササラさんを口説くには、オジサン感は出したくないもんね?」

「……あほ」

「あ~っ! そんなこといっていいのかなぁ? ササラさんに、『ヨテヅさんがヒドいこという!』っていいつけちゃってもいいんだよぉ?」

「まったく、口の減らない奴だ……まあ、それはそれとして、薬草採取をするなら、それ用の道具も今のうちに用意しとくか?」

「露骨に話題を変えてきたね……まあ、それはともかくとして……そうだね、イケてるやつを探してみよっか?」

「まあ、そんなに選ぶほど種類があるのかは知らんけどな……とりあえず、ギルドの姉ちゃんに勧められた錬金術師の店にでも行ってみるとするか」

「さんせ~い!」


 というわけで、錬金術師の店へ向かったわけだけど……

 うん、やっぱりといってはなんだけど……薬草の「かほり」が凄いね……

 そして店に入ってみると、年齢が高めの……お姉さんがいらっしゃった。


「いらっしゃい、冒険者のようだが……ポーションかい?」

「こんにちは! そうですね、ポーションもこれから必要になってくるとは考えていますけど、まずは薬草採取の道具をそろえたいと思いまして……」

「一応、地元の村でも薬草採取をやったこと自体はあるんだが、ほとんど独学で道具も割と適当だったからな……お勧めがあれば教えてくれ」

「そうさねぇ……それなら、この初心者用セットでよかろう。必要な物がひととおりそろっておるからの」

「へぇ、初心者用セットなんて物があったんですねぇ……じゃあ、それでいいかな……ね、ヨテヅさん?」

「ふむ、そうだな……」

「まあ、これぐらいのセットなら、どこで買っても値段に差はないだろうねぇ」

「値段に差はない……ということはつまり?」

「差がある部分があるということか?」

「ああ、そうとも……ウチのは初心者用とはいえ、このワタシが吟味してそろえた道具たちだからねぇ、そこらの物とは違うよ……まあ、口であれこれいうより、その目で確かめてみるといいさ」


 そうして、いわれたとおり出されたセットを確認してみる。

 とはいえ……専門家でもないため、いうほど良し悪しについてはよく分かんないんだけどね。


「ふむふむ……なるほど……」


 とりあえず、それっぽい顔をしながら眺めておいた。

 まあ、この辺についてはヨテヅさんのほうが、僕より理解があるだろう……村で木工細工とかやってたぐらいだしさ。


「……うん、なかなか使いやすそうだし、いいんじゃないか?」

「まあ、当然さね」


 ほほう、ヨテヅさんのお眼鏡に適う物だったようだねぇ?

 といいつつ、ヨテヅさんは眼鏡をかけてないけどさ。

 というわけで、このお店で購入を決定した。


「……こいつは、サービスしとくよ」


 とかいいながら、ポーションを付けてくれた!

 お姉さん、最高です……


「ありがとう、ございますっ!」

「どうもな」

「なぁに、気に入ったらまた買っとくれ」

「はい、ぜひ!」

「そうだな、必要になったらまた来させてもらうよ」

「まあ、ポーションを使うような事態にならないのが一番だろうから、気を付けるんだね」

「はいっ! ありがとうございます!!」

「それじゃあ、俺たちはこれで」


 こうして、錬金術師の店を後にしたのだった。

 ……うん、いい店を見つけたもんだね。

 ケガをしたくないが、これから贔屓にさせてもらうとしようかな。

 こんな感じで僕たちは休息日を過ごし、明日からまた始まる冒険者活動に気持ちを新たにするのだった。

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