第35話 使い手を選ぶ

「ノクトよ……そろそろ薬草採取の講習を受けるか?」

「おおっ! ついに!?」


 Fランクに昇格してから、そろそろ3カ月が過ぎる頃だろうか……ついに、ヨテヅさんからゴーサインが出た!

 いやまあ、ゴーサインというか……単純に装備やポーションを買えるだけのお金が貯まったというだけの話なんだけどね。

 Fランクで得られる報酬から日々の生活費を引いたら、そんなに残らないからさ……それをコツコツ貯めて、ようやくって感じだ。

 うぅ……ここまで長かった。

 まあね、装備とか適当で、さっさと街の外に出て稼ぐっていう選択をする人もいるんだけどね……

 やっぱり命の危険がある分、それなりに報酬も高くはなるみたいだし。

 といいつつ、ホーンラビットとかゴブリンぐらいまでならそこまで命に危険もないことから、基本的にそれらしか出ない森の浅いところでは、そこまでたくさん稼げるわけでもないらしいけどね。

 というか、僕だってあの日……割と無意識に近い部分もあったけど、特に大きなケガを負うこともなく、かなりの数のモンスターを倒したぐらいだしさ。

 そうはいうものの、あの日と同じことを今できるかというと……ちょっと難しいような気もしないではない。

 でも、剣術の稽古は欠かしていないし、日々身体も成長してきているのだから、戦闘能力自体は上がっているかもしれないけどね!

 ま! 結局のところFランクで選べる依頼だと、街の中でも外でもそこまで極端に差はないって感じかな?


「……それじゃあ、この次の休息日にでも、装備品を見に行ってみるか?」

「うん! ガッテンだ!!」

「フフッ……とはいえ、あんまりはしゃぎ過ぎるなよ? Fランクのうちは、積極的に戦いに行くようなものでもないしな」

「もちろん、その点についても心得てるよっ!」

「……ならいい」


 とまあ、そんな感じで、今度の休息日に装備品を整える約束をしたのだった。


………………

…………

……


 僕は待った。

 休息日がくるまでの数日間、待ちに待った!

 そしてようやく、その日がきた!!

 今日こそ……装備品を買いに行けるぞ……!

 そんなワクワク感とともに、宿屋の庭で早朝の剣術稽古に張り切って取り組む。


「おう! 今日もやってんな!!」


 そんな僕に、ヨテヅさんが声をかけてくる。


「おはよう、ヨテヅさん!」

「……まあ、ここ数日、お前はソワソワしてたもんなぁ」

「えっ……そんなに?」

「いや、そんなに激しくはなかったから安心しろ、まあ、ほんのりとって感じだな……ただ、受付の姉ちゃんには、おそらく気付かれてただろうけどな!」


 僕がいつもササラさんのことでヨテヅさんをイジるせいか、たまにこうやって受付のお姉さんについてイジってくる。


「ふ、ふ~ん? まあ、別に構わないけどね!」

「おう、そっか! 若干、声が震えてるけどな!!」


 まあ、そりゃぁね、ソワソワしてるのを見透かされてたってなると、ちょっとした気恥ずかしさみたいなものを感じちゃうのも仕方ないと思うんだ……

 それはともかくとして、早朝稽古と朝食を終えたところで、街の武器屋へ向かう。

 まあね、まだまだ駆け出しの冒険者だし、資金が潤沢にあるわけでもないので、そこまでカッチョイイ装備を購入することはできないだろうとは思うけどね……でも、ワクワクしちゃう!


「いらっしゃい……見たところ、新人冒険者ってところか?」

「はい、Fランク冒険者をやってます! お金が貯まったので、装備品を購入しに来ました!!」

「同じくだ」

「ほう、Fランクで装備を整えるか……いい心掛けだな。どれ、いい装備を見繕ってやろうじゃないか」

「本当ですか!? ありがとうございます!!」

「よろしく頼む」


 なんて挨拶を交わし、早速こちらの予算内でおすすめの装備品を見せてもらうことにした。


「ふむ……ボウズは子供の割になかなか鍛錬を積んでいるようだな?」

「え、本当ですか?」

「ああ、商売柄それなりに見る目はあるつもりだ」

「おぉっ! それは凄い!!」


 この武器屋のオッチャン、なかなか人を乗せるのが上手いようだね! こっちの気分もアゲアゲだよ!!

 そんな感じで気分よく、おすすめの革鎧を試着してみる。


「……うん、動きやすくていい感じ!」

「丁寧に手入れもしていけば、成人するぐらいまでじゅうぶん使えるはずだ」

「なるほど!」

「もっとも、身体の成長がそこまでじゃなければ、もっと長い期間使えるかもな?」

「……そ、育ちますとも! 身長だってニョッキニョキですとも!!」

「ハハッ、だといいな」


 本当に……大きくなれますように!!


「ついでだから、剣のほうもメンテナンスしてやろうか? 初回サービスということで、無料にしといてやるぞ?」

「おぉ、それはありがたいです!」


 そうして、父さんから受け継いだ剣を武器屋のオッチャンにメンテナンスしてもらうことにした。


「……ふぅむ、見れば見るほど、いい剣だな」

「父さんの形見の剣なんです」

「そうか……なかなかの腕前だったのだろうな………………おやっ? どうやらこの剣、使い手を選ぶ剣のようだ」

「使い手を……選ぶ?」

「ああ、剣が認めた相手にはいくらでも力を貸してくれるが……反対に認めなければ鈍ら同然にもなり得る……なかなか個性の強い剣ともいえるな」

「え、えぇ……」

「この剣をこれから先も使っていきたいのなら、剣に失望されるなんてことがないよう、しっかりと鍛錬を積んでいくことだな……でなければ、簡単にそっぽを向かれるかもしれん」

「そうですか、分かりました……」

「おっと、勘違いしないようにいっておくが、モンスターと戦いまくればいいとかいうわけでもないからな? ボウズがどれだけ本気でこの剣と向き合えるかってことが大事だ」

「はい、肝に銘じておきます」

「おう、そうしてやってくれ……そうすれば剣も喜ぶだろう」


 うちに代々伝わってきたこの剣はどうやら、なかなかクセの強い剣だったらしい……まあ、魔剣だし?

 でもま、そのほうが相棒感があって、よりいいかもしれないよね!

 というわけで、改めてよろしくって感じだ!!

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