第34話 順調に

 ヨテヅさんと相談して決めたとおり、Fランクに上がってからもずっと、街中でできる依頼をこなしている。

 別にそれで誰かに文句をいわれることはない。

 そして当然のことながら、冒険者ギルドからも「そろそろ街の外に出てみては?」なんていわれることもないし、それで評価が下がるってこともない……と思う。

 まあ、実際のところギルドがどう判断しているのかなんて、いち冒険者の僕らに分かるわけもないからね。

 とはいえ、受付のお姉さんが「うっわ、このヘタレ……また街中の依頼を選びやがった」みたいな顔をしていないから、大丈夫だとは思う。

 それはそれとして、Fランクの仕事内容だけど……なかなか幅が広がった。

 というかGランクだと、大人数で流れ作業みたいな感じのものが多かった。

 そのため、個人の能力だとか人格みたいなものは、ほとんど気にされていなかったんじゃないかな?

 それでFランクだと、個人で経営しているお店とかに派遣されるようなものがかなり多くなった。

 よって、それまではギルドから指示された場所に大勢でズラズラ行くって感じだったけど、個人のお店なんかだと、少人数……場合によっては1人で行くようなものもあるのだ。

 そこでやはりというべきか、1人で行くとなるとなかなか責任重大だなって気もしちゃうよね。

 ただ、そうはいっても、お店側もある程度理解があるのか、そこまで厳しいことはいわれない……まあ、それも人にもよるだろうけどさ。

 まあ、Fランクに上がってみて実感できたといえばいいのか、Gランクのあいだはギルドから何より人柄を吟味されてたんじゃないかなって思う。

 やっぱりさ、急に街に出てきて、その人がどんな人なのかってことを最初は分かんないもんね。

 そうして、Gランクで管理しやすい仕事をさせていくうちに様子を見て、「この人なら個人のお店とかに派遣しても大丈夫!」ってなったら、Fランクにめでたく昇格となるんだろうなって感じがする。

 また、僕の場合は、父さんと母さんのおかげで読み書きなんかも割と得意なほうだ。

 それでFランクからは書類仕事も、そこまで数は多くないものの出てくる。

 そういうのは体力的に楽なので、あれば選ぶようにしている……しかもFランクのレベルでは、そこまで難しい内容でもないしさ。

 ちなみに、ほかの冒険者の様子を見てみると、読み書きが得意じゃなさそうな人もそれなりに多くいる。

 まあ、ホツエン村での記憶を思い起こしてみても、そこまで必須の技能ではなかった気がするからね……というか、めんどくさがって覚えようとしない人が多かったと思う。

 なんというか、面倒なことは村長とか、村を運営する人に任せとけばいい……みたいな?

 そんな中で、ルゥみたいに「恋愛物語を読みたいっ!」って熱心な子は、頑張って覚えていた気がする。

 反対にジギムは、大人の人とかが語る英雄物語を聞くだけで満足していたように思う。

 まあ、冒険者になるんだったら……ってことで、最低限は分かるようになってたと思うけど、あんまり熱心じゃなかったね。

 そのジギムだけど……今もどこで何をしているかは分からない。

 この街での生活にも慣れてきたところで、僕たちより先に村を出た人にも会って聞いてみたんだけど、誰も知らないとのことだった。

 まあ、ホツエン村から出て、この街にしか来ることができないってわけでもないからね。

 きっと、違う街に向かったのだろう……そう思いたい。

 それに、あの日以降で行方の分からない人っていうのはほかにもたくさんいるからね……

 ジギム……どこにいるか分からないけど、無事でいてくれよ!

 アイツがルゥにしたことを忘れたわけじゃないが……それでも、無事でいて欲しいとは思うんだ。


「……おう、お前さんたち! 今日のところはそんなもんでいいぞぉ!!」

「はい、分かりましたぁ!」


 そんなこんなで今日は、個人商店の倉庫整理の依頼を受けていたのだ。

 まあ、名前のとおり倉庫内の整理整頓をしたり、在庫の数を数えたりって感じの仕事だね。

 それから、個人商店というだけあって、少人数で請け負った依頼だった。

 ちなみに、ここでも僕の読み書き能力が火を噴いた……といえばカッコいいけど、単に数を数えてそれを書類に記入したってだけだね。

 とまあ、こうして今日の依頼をやり遂げたので、意気揚々とギルドに報酬を受け取りに向かった。


「お帰りなさい、今日も頑張ったね!」

「はい、頑張っちゃいました!」

「ふふっ、偉い偉い」


 今日も受付のお姉さんは、優しく迎えてくれる……嬉しいもんだね。

 また、おそらくほかの男性冒険者たちも、お姉さんのこの笑顔に癒されながら、日々のツライ仕事に邁進していることだろう。

 だからというべきか、あまりにもお姉さんに馴れ馴れしい態度を取っていると、男性陣から鋭い視線が飛んでくるので注意が必要である。

 とはいっても、僕はまだ子供だからね、そこまで極端に鋭い視線を飛ばされることはない……と思いたい。

 まあ、子供だからって容赦しないって人もいるかもしれないので……あまり調子に乗らないよう、節度ある態度を心がけておこう。


「今日の分も口座に貯めとく?」

「はい、それでお願いします」


 フフッ……宿屋でも信用を高めることができているので、今では1週間分を後払いできるのだ!

 しかも、ちょいと割引付き! やったね!!

 といいつつ、割引に関しては長期割引が適用されるってだけの話なんだけどね……

 ただ、まとまったお金がない場合は、後払いを認められないとできないことだから、やはり意味があるのさっ!

 そんなこんなで、Fランクライフも順調に進んでいるのであった。

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