第33話 やらなくちゃならんことがたくさんある

 冒険者ギルドをあとにし、宿屋へと戻った。

 そして今は、Fランクに昇格したという達成感によるものか、心地よい疲労感とともにベッドでくつろいでいる。

 いやぁ、この2カ月……我ながら、ホントによく頑張ったなぁ……

 定期的に休息日は設けたものの、ほとんど毎日依頼をこなしていたもんねぇ……

 そんな努力を、冒険者ギルドはちゃ~んと見ててくれたのだろうね、比較的早い昇格だったんじゃないかと思う。

 なぜなら、2カ月を過ぎても昇格してない人だって普通にいるみたいなんだからさ!

 フフッ……フフフフフ……!


「まったく、ニヤニヤしやがって……まあ、昇格できたんだから、気持ちは分からんでもないけどな」


 なんて、ヨテヅさんがちょっとあきれつつも、僕の気持ちに理解を示してくれている。

 また、ヨテヅさんやササラさんたちも今日、昇格を果たしている。

 まあね、みんな同じペースで依頼を消化してきたんだから、当然といえば当然だよね!

 そうして、この2カ月の冒険者活動について思いを馳せてみるが……

 なんというか、どれも地味というか……言い方は悪いかもしれないけど、泥臭い仕事ばっかりだったね。

 さらにいえば、村で子供たちが憧れているであろう英雄譚とは、どれもほど遠い内容だったといえるだろう。

 いやまあ、ああいうのは「物語だからこそ」っていうのはもちろんあるだろうと思う。

 でも、それを期待して街に出てきて、こんな現実に直面してガッカリっていう人も少なくないだろうなって気もする。

 それで「思ってたんと違う!」ってヤル気をなくしちゃう……とかね。

 そんなこんなで、場合によってはFランクに上がる前に諦めて村に帰るって選択をする人もいたかもしれない。

 実際ホツエン村を旅立った兄ちゃん姉ちゃんたちの中には、半年もしないうちに帰ってきた人もいたぐらいだしさ。

 ……まあ、僕の場合はさ、そうやってガッカリしたところで帰る村はもうないんだ。

 だからこそ、ここで歯を食いしばって頑張るしかないって事情も、あるにはあるんだけどね……ははっ……


「おいおい、ニヤニヤしてたと思ったら、急に暗い顔になりやがって……ほれ、今日ぐらいもっと明るい顔しとけっての」

「……うん、そうだね」

「まあ……村のことを思い出してたんだろ?」

「……うん、そうなんだ」

「俺も、今さらなんで街に出ることになっちまったんだ……って思わねぇこともないから、お前の気持ちも多少は分かるつもりだ」

「……うん、そうだよね」

「それはたぶん、俺もお前もこれから先ふとしたときに思い出して頭ん中をいっぱいにするだろうさ……でも、そればっか考え過ぎるのもよくない……分かるな?」

「うん……そうだね、もちろんだよ!」


 あまり沈んでいると、ヨテヅさんが心配しちゃうもんね……よっしゃ、元気を出そう!


「ま、とりあえずはだな! お前がFランクに昇格できて、きっと今頃フィルも喜んでることだろうぜ!!」

「う~ん、父さんのことだから、シブい顔を作りながら『フッ……まだまだだな!』とかいってるかもね!!」


 そういいながら、父さんの顔マネをしてみる。


「おいおい、その顔はフィルのマネか?」

「どう、似てる?」

「ふ~む、そいつぁ……足の小指を家具にぶっけて、痛みを堪えているときのフィルの顔だろうな!」

「えぇ~っ、そんなぁ~!」

「ノクトよ、シブい顔っていうのはな……こういう顔のことをいうもんだ」


 とかいってヨテヅさんは……おそらくキメ顔をしているのだろう。


「……イカツさが10割増し?」

「おいっ、それだと2倍じゃねぇか! 増し過ぎだろ!!」

「まあ、普通にしてても、小さい子だと泣いちゃうだろうけど……あの顔なら、もっと泣くだろうね?」

「……ったく、言いたい放題だな?」

「まあ、つまりは……僕らはもっとシブさを研究しなきゃいけないってことかもしれないね……特にヨテヅさんはさ、ランクも上がったことだし、これからもっとササラさんのハートをつかみにいかなきゃなんだし」


 といいつつ、定職に就くまではそうもいってられないかもしれないけどね……


「……ま、まあ、ササラさんのことはともかくとしてだ……俺たちには、まだまだやらなくちゃならんことがたくさんあるってことだな!」

「そうだね……差し当たっては、薬草採取の講習を受けることかな?」

「薬草採取の講習か……まあ、村である程度経験はあるけど、それでも改めて教わっといたほうがいいだろうな……それに、そのほうがギルドからの受けもいいだろうし」

「やっぱり、そのほうがかわいげがあるってなもんだよね!」

「まあな、一応ちゃんと理解して依頼を受けるのだと向こうも思ってくれるだろうさ……ただし、それはほかの街中でできるFランクの依頼をある程度こなしてからにしないか?」

「ほかの?」

「ああ、既に村で経験もある薬草採取とはいえ、やっぱりモンスターと遭遇するかもしれない危険な場所に行くわけだからな……もうちょっと金を貯めて、ちゃんとした装備もそろえておいたほうがいいだろうし、なんかあったときのためにポーションなんかも持っといたほうが安心だろ?」


 まあね、僕もヨテヅさんも、戦闘をする者といえるほどガッチガチの装備があるわけじゃないからね……

 とはいえ、村から出てきたばっかの人はほとんどそんなもんだろうとは思うけどね。


「そうだね……薬草採取だけがFランクの依頼じゃないもんね! うん、準備をしっかり整えてから街の外に出よう!!」

「ああ、そういうことだ……それじゃあ、そろそろ夕食の時間だ、今日は昇格祝いとして、ちっとだけ奮発すっか!?」

「さんせ~い!!」


 こうして今後の方針が決まり、少しだけ豪勢な夕食を食べに行くのだった。

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