第32話 まだまだ先は長いけどね
街に来て2カ月が経った。
そして今日も元気に冒険者として、そしてヨテヅさんと一緒に外壁工事の依頼に取り組んでいるところだ。
ついでにいうと僕らはまだ……Gランク。
まあね、そう簡単に信頼と実績を積むことなどできないということだろうさ。
ただ、聞いた話によると、コツコツ真面目に依頼を消化していれば、2カ月を経過する辺りからポツポツとFランクに昇格する人が出てくるらしい。
そこで、ヨテヅさんたちと相談して定期的に身体を休める日を設けているものの、それ以外はほとんど毎日依頼に取り組んでいる。
ということはだよ……そろそろFランクに昇格する日が近づいているんじゃないかな!?
フフッ……これは期待が持てますねぇ。
「……ほう……この部分の作業をやったのは、アンタかい?」
「ん? そうだが……何かマズかったか?」
「いや、なかなか出来がいいと思ってな……それでアンタ、名前は?」
「ヨテヅだ」
「ふむ、ヨテヅか……ああ、邪魔をしたな、作業を続けてくれ」
「ああ、分かった」
作業現場を監督しているオッチャンにヨテヅさんが声をかけられていた。
あんなふうにお褒めの言葉を頂くなんてのは、なかなか珍しいんじゃないだろうか。
少なくともここ2カ月、名前を聞かれるなんて光景は見た記憶がない。
まあ、休憩とか仕事が終わったときに「お疲れさん!」って感じの、ねぎらいの言葉をかけてくる担当者のオッチャンは割といるけどね。
でもまあ、それもヨテヅさんなら納得できるってもんだよ。
というのが、ヨテヅさんはホツエン村にいたとき、農作業の傍ら木工細工なんかをしていたからね。
それがまた、なかなか上手いんだ。
ちなみに、うちの家でも新しい家具のいくつかはヨテヅさんが作った物だったはず。
あぁ……それも思い出したら、村での生活が懐かしくなってくるなぁ……
……っと、いかんね……作業に集中しなくちゃだ。
そうして作業を続け、本日の終了時刻がやってきた。
「よぉ~し、今日のところはここまでッ! みんなよく頑張ってくれた! 完了印をもらった者から順次解散してってくれ、そんじゃあ、お疲れさんッ!!」
ふぅ……なかなか重い石材なんかも運んだし、やっぱそれなりに疲れたね。
でもまあ、こうした肉体労働でお腹ペッコペコにして食べるご飯っていうのが、またカクベツでね!
なんていうのかな、こう、肉体の隅々が「美味しい!」って叫んでるとでもいえば伝わるだろうか……肉体労働ってやつは、それぐらい夕食の時間を、幸せなひとときにしてくれるのさっ!!
そんなこんなで、担当者のオッチャンに完了印を押してもらい、冒険者ギルドへ報酬をもらいに行く。
「おかえり~ノクト君」
「どうもどうも~」
受付のお姉さんに対して、最初よりはちょっと砕けた話し方できるようになったかもしれない。
そんなことを思いつつ、完了印の押された受注書を提出。
「うんうん、今日もよく頑張ったね~そんなノクト君に、今日はスペシャルなお知らせです!」
「……スペシャル? えっ、それってもしかして……」
「そうです、おめでとう! Fランクに昇格です!!」
「おぉっ! やったぁ!!」
もうそろそろなんじゃないか……そういう期待はしていたけど、ついにそのときが来た!
日々頑張ってきた僕の努力を、冒険者ギルドが認めてくれたってわけだね……ははっ、よかったぁ。
そして父さん……まずはFランク、僕も冒険者として一段上ることができたよ!
でもまあ、父さんのCランクまで……まだまだ先は長いけどね。
「ふふっ、ノクト君の頑張りはお姉さん、いつも見てたからねぇ~」
「これもお姉さんのご指導のおかげです、ありがとうございます!」
「ううん、私は受付の仕事をしてただけで、たいしたことはしてないよぉ」
「いえいえ、日々とてもお世話になっております!」
「まあ、そんなふうにいわれて悪い気はしないわねぇ~それで、これまでノクト君がやっていたGランクの依頼は街中でやる仕事ばかりだったけど、Fランクからは薬草採取なんかで街の外に出る依頼も出てくるわ。そこで、薬草採取は戦闘しに行くわけじゃないし、Fランクだと森の浅いところに生えている物を採取してくるとはいえ、モンスターと遭遇する可能性はゼロじゃない。冒険者として危険と隣り合わせの生活が始まるのはここからだといってもいいぐらい……だから、本当にここからは注意してね! 絶対だからね!!」
そう話すお姉さんの雰囲気は、いつになく真剣なものだった。
たぶんだけど、調子に乗ってやらかす奴が毎回いるんだろう。
それで、ちょいとミスったってレベルならまだいいんだろうけど、取り返しのつかないケガをしたりなんかすると大変だからね……
うん、僕も気を付けなくちゃだ。
「……肝に銘じておきます」
「よろしい……それでね、薬草採取の講習とかもギルドでやってるから、街の外に出る依頼を受ける前に受講しておくといいわ。ああ、内容によっては有料の講習もあるけど、薬草採取の講習は無料だから心配しないでね?」
まあ、父さんに教えてもらっているから、必要ない気もしないではないけど、一応受けておこうかな?
それに、この街周辺の森特有の事情なんかもあるかもしれないしさ。
「分かりました、必ず受けるようにします」
「ええ、そうしてちょうだい。それじゃあ、講習を受けたい日が決まったら教えてね、予約を入れておくから」
「はい、そのときはよろしくお願いします」
とりあえず、ヨテヅさんと今後の予定を相談してからって感じだね。
とまあ、こうしてFランクに昇格を果たしたのであった……やったね!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます