第31話 この生活にも慣れてきた

 冒険者になって1カ月が経過した。

 それはつまり、この街に来て1カ月経ったということでもある。

 そして僕は、相変わらずGランク冒険者のまま。

 いやまあ、日々コツコツ真面目に活動していても、みんなそんなものらしいけどね。

 よくある英雄物語だと、いきなり強力なモンスターをやっつけて、その功績でもって一気に高ランクに駆け上がる! みたいなストーリーが展開されがちだろう。

 でも、僕はそういう感じとは無縁の生活を送っているわけだ。

 とはいえ、もし仮に僕が今そんなヤバいモンスターに遭遇したところで、アッサリ負けるだけだろうから、そういうのとは出会いたくないけどね……

 ただ現状では、街の外に出ることもないから、そうなる可能性は限りなく低いだろう。

 ……もしあるとしたら、ホツエン村のときのように、街がモンスター共の襲撃を受けるってことだ……ああいうのは、二度とごめんだ。

 もう、誰も失いたくないからね……

 そんなことを思いつつ、今日も早朝稽古に勤しむ。

 きっと、この一振り一振りが、未来の僕を強敵と戦える男に鍛えてくれるはず!

 そしていつか、あのオーガを倒せるように……

 こうしている今も、奴は僕の脳内で醜悪な笑みを浮かべているんだ。

 加えてその笑みは、「お前の剣など、恐るるに足りん」といっているようでもある。

 悔しいけど、そのとおりだと思う。

 でも、だからといって、へこたれるわけにはいかない。

 僕は、勝つんだ……奴に!


「ハァッ! セイッ! ヤァッ!! …………ハァ……ハァ……フゥ……」


 素振りをし、息を整えているあいだに、一緒に素振りをしていたヨテヅさんが話しかけてきた。


「……俺は剣のことに詳しいわけじゃないが……お前の素振りにはいつも、なんというか鬼気迫るものがあるなぁ……」

「そう……かな? まあ、僕には倒さなければならない相手がいるからね……」

「……それって、フィルが倒したオーガのことだろ?」

「……うん……奴の肉体は既に滅んでいるけど……それでも、今もまだ僕の頭に……心に棲み着いたままだからね……」

「……そうか……だが、あまり根を詰めすぎるなよ? そして、目標を持つことも大事だが、あまりそのオーガに囚われ過ぎるのも考え物だからな……気を付けろよ?」

「うん……そうだね……」


 まあね、そればっかりっていうのも、心にあまりいい影響を与えないであろうことは、僕にだって一応理解はできているつもりさ。

 ただ、僕の心に棲み着いた奴を斬り捨てるそのときまでは……心の平穏は訪れてくれないだろう。

 ……いや、それを成し遂げたとしても、あの日失った大切な人たちは帰ってこないんだ……そう思うと、本当の意味で平穏が訪れることはないのかもしれない。

 でもまあ、それはそれとして! 今はとにかく頑張って強くなるだけ!!


「さぁて、もういっちょ行くぞぉ! エイヤッ!!」

「フッ……今はまあ、俺が見ててやるから、納得できるまで打ち込んだらいいさ……」


 こうして今日も、充実した早朝稽古となっただろうと思う。

 そして稽古が終われば朝食。

 朝食が終われば、またいつものように冒険者ギルドで依頼をこなす。

 ちなみに、だいぶこの生活にも慣れてきたので、既に街中の見物も済ませている。

 とはいえ、無駄遣いする余裕もないので、本当にただ見て回っただけって感じ。

 まあ、街の外に出て活動……特にモンスター狩りなんかをする頃には、剣はともかく防具類は整えなきゃいけないだろうし、何かあったときのためにポーションなんかも購入しておく必要が出てくるだろう。

 そのときに備えて、武器屋とかの場所は覚えておいた。

 といいつつ、Gランクの僕にはまだまだ先のことだろうけどねぇ……

 また、この1カ月のあいだに野菜の選別以外にも、街中の清掃とかいろいろやった。

 どれも仕事内容自体は難しいものではない、ただ疲れるだけって感じかな?

 そして今日は、道路の補修工事をやることにした。

 まあ、日々の冒険者活動により、徐々に体力も付いてきているような気もするし、単純に慣れてきたっていうのもあるからね、肉体労働にも従事しちゃうのさ!

 というわけで、ギルドのお姉さんに指示された場所に向かう。

 ちなみに、ヨテヅさんも一緒だ。

 それから、もちろんというべきか、ササラさんたち女性陣は一緒ではない。

 まあ、体力的にキツいだろうからね……

 いや、僕もササラさんたちのほうに誘われたんだけどね……でも、そっちは野菜の皮むきでさ……それはそれで微妙に神経使いそうだなって思って、こっちにしたってワケ。

 というわけで、この現場の担当者であるオッチャンに受注書を見せる。


「おう、ボウズもこの仕事をやるのか! いいだろう、気合い入れてけよ!!」

「はい、よろしくお願いします」

「よっしゃよっしゃ! 作業内容の詳細はあそこにいる奴から説明を受けてくれ、そんじゃあ、頑張れよっ!!」

「分かりました、それでは失礼します」


 そうして、指示されたとおりに作業に取りかかる。

 まあ、石材とか道具の運搬作業がメインって感じ。

 そして、基本的には人力の作業が多いのだが、表面部分になってくると、魔法士が地属性の魔法で締めるみたいだ。

 正直、魔法を見る機会など普段あまりないので、それを見れてラッキーって気もしてくるね。

 とまあ、こうして道路の補修工事に取り組んだのだった。

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