過去編《ある男の過去》

2-1 生存者”達”

迫りくるゾンビの大群から逃れるべく全速力で走る。と言っても、齢13の体での全力も限界がある。


「お前の限界はこんなもんじゃないだろう、まだまだ行けるよな、生きる屍ゾンビ何かに負けてんじゃねーぞ!!。体のブレーキをぶっ壊して、心のギアは全速力だ!!行くぞ坊主カイト!!」


眼の前のガタイのいい男は相変わらず根性論が好きなようだ。元自衛隊、ゾンビパンデミック前この前までは鳶職人をしていた男、「川崎 祐大かわさき ゆうだい」。(非常に癪だが、)俺等をまとめるリーダーでもある。


「そうだぞ、車があるとこまであと800mだ!!走り切るぞ!!」


白いシャツに身を包んだそれっぽことを言う細マッチョインテリもどき野郎で元警察官の「市川 護いちかわ まもる」。生存者サバイバーの守護神と呼ばれる男は、やけに早いゾンビが近づくと腰につけたホルスターから拳銃を取り出し、脳天を正確に、そして無慈悲に撃ち抜く。もちろん走りながらだ。


「「さっさと来い!!青二才」」


「だ、、から、、全力で走ってんだよ〜」


筋肉バカこいつら達は全力で走る俺の横をジョギングでもするかのように野次を飛ばしながら走り抜ける。(しかも、約40キロ近い缶詰めや水などの食料品が入ったリュックを背負いながらだ。こいつら本当に人間か?)息を切らしながら言われた通り根性で全速力を維持しながら走り抜ける。曲がり角を曲がると、目的地が見えた。


「お〜い、こっち〜」


道の奥から声が響く。そこには武装したオフロード車の窓から手を伸ばす女性がいた。ゾンビパンデミック世界がこうなる前からの走り屋で道なき道どんな道でも突き進む(またもや)根性論大好き、「小野 千春おの ちはる」がいた。


「ようやく、つい、、た、、、」


「全員乗ったね?「「「オウ」」」」。よしOK、突っ走るよ〜」


アクセル全開、ゾンビの群れを背に先ほどとは比べ物にならないほどの速度で突き放す。ようやく一息つけたと思ったら、両肩に衝撃が乗っかる。


「「食料調達、及び周辺偵察任務、完遂だ〜」」


狭い車内で暑苦しい声が響く。厚い肉壁にぎゅうぎゅうに挟まれたが、不思議と不快感はななかった。それから少しして、四人は生存者集団の拠点サバイバーコミュニティー・キャンプのショッピングモールに戻ってきた。


■■


「で、食を分け与え、無償の愛を注ぐ外部調査隊一班私達はこんなとこに閉じ込められてんの〜?意味わかんない〜」


物品搬入用の倉庫の一角のテントの中、千春が叫ぶ。


「しょうがないだろ。感染して無いとわかるまで菌の潜伏期間の一週間はなるべく人とかかわらないようにしなきゃなんだから」


「正論言うなしー」


「いや、何その語尾、、」


疲れた体をゴロゴロと癒やしている時にそういうことを言われるとイライラするからやめてほしい。いや、本当に。


「でもさ、もうちょっと待遇良くしてくれてもいいんじゃない?、そこ二人はどう思う?」


一緒に雀卓で麻雀をしている二人に話す。


「おー、おかしいなー」「そうだなー。あ、できた」


「え、すごい!!純粋九蓮宝燈(九面待ち)じゃん!!」


ガヤガヤと話す大人を尻目に寝転んでいると、後ろから声がした。


「おうおう、盛り上がってんじゃないかよ、、、て、すげー役出来てんじゃん。写真取らせて、て、カメラなかったわww」


そう話すのはこの拠点キャンプのリーダーで、元外部調査隊一班の班長、「城崎 遊雲しろさき ゆくも」だった。


「おお、おっさん腕の調子は?」


「どっちの腕の話かい?って、もう一本しかなかったんだった!!」


以前の食料調達で左腕を噛まれ、感染が回る前に切り落としたその出来事以来、後方支援に回っている。


「ようし、全員集まったところで、乾杯と行こうか!!お前ら、ビールを持てあ、「佐々木」はジュースな」


瓶のコーラを投げ渡される。このコーラといい、こいつらの持っているビールといい、一体いつくすねてきたのか、、。そう思いながらも、瓶の栓を開ける。他の奴らも缶ビールを開ける。カシュっといい音が四回、倉庫の一角に響き渡る。


「じゃあ、現リーダーの俺が合図をする。お前ら、腕を掲げよ〜」


まだ飲んですらいないのに、呂律が回らない脳筋が声を上げる。


「かんぱーい」


「「「かんぱーい」」」


「全く、このバカどもは、、」


そんな大声を出して、馬鹿じゃないか。まあ、今日はいいや。そう思って自分も呟く。


「、、かんぱい」


瓶を握りしめ。コーラを口に含む。うん、うまい。


俺の名前は「佐々木ささきカイト」、ゾンビパンデミックがおきた世界で今もなお希望を信じてる、13歳の世間知らずバカだ。

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人類最後の逃避行 数多怜悧 @amamiyayuiti

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