8.終末世界の五条大橋

廃車を跨ぎながら橋を渡る。歩道に突っ込んだ車が多いため、車道を歩いているが、ふと疑問が浮かぶ、なぜこの橋に大量の車が乗り捨てられているのか。そんな疑問はすぐに解決した。


「橋が落ちてる、、」


横にある橋は真ん中が爆破されている。おそらく暴徒の沈静化、又は死体の行進ゾンビの動きを止めるためか、、


「どちらにせよ、さっさと渡っちまおう」


何年も検査されていない橋だ。いきなり落ちるなんてことはないだろうが、万が一を考えて行動する。"あの日"以来心がけていることだ。


ガチャン


後ろから嫌な音がした。


ガチャン


聞き間違えじゃない、鉄を叩き合わせたような固い音が静寂を突き破って耳をつんざく。後ろを向くと同時にショットガンの銃口を音の発生源へ向ける。


ガチャン、、ガチャン、、ガチャン、、


だんだんと大きくなる音に思考を巡らせていると、橋の外側から"足"が伸びる。といってもその足は、人のものでも、獣のものでもない。


「蜘蛛の、、脚、、」


バキバキと音をならしながら橋へ上がるそれは、胴体?人間部分は他個体より腐っているが、黒光りしている脚は金属の様な艶がみられる。


「昨日ぶりだな、蜘蛛脚やろう」


そう言って改めて銃口を構える。刹那、振り上げられた脚が脳天めがけて振り下ろされる。横に体を回転させ回避し、すかさず頭に鉛玉をぶちこむ、が。間髪いれずに脚が何度も襲ってくる。


「頭は吹き飛んだってのに、まだ動くのかよ」


通常、腐肉共ゾンビの弱点は頭だ。正確には脳幹、そこを破壊すると死体ゾンビは急速な分解が始まる。詳しいことはわからないが、脳幹はゾンビにとっての「核」の役割をこなしているのは間違いない。だが、目の前の化物は首から上が吹っ飛んでいると言うのに動き続けている。だが、今までも頭が無いゾンビ似たような個体は何度か見ている。故に、対処方も知っている。


「おまえのハート心臓を撃ち抜いてやるよ!!」


迫り来る猛攻をかわし、照準をあわせ、引き金を引く。少し動いた後、その巨体はアスファルトの上に崩れ落ちた。


「、、改めて見るとでかいな」


人間部分は180cmくらいだが、腹から伸びる脚は1本2mはある。少し観察していると、脳天めがけて脚が突き出す。ショットガンの引き金を反射的に引き、脚の間接部を砕く。


「惜しかったな。だが、いい突きだった」


言葉が伝わるかはわからないが最後まで抵抗した化物は二度目の死を向かえる。晴れ空の中、静寂の仲間入りをする化物の散り様は弁慶を思わせる様な貫禄を醸し出していた。そんな誇り高き化物戦士を背に一礼した後、橋を歩き出す。橋をこえると、相変わらず静寂が纏わりつく灰色と緑の街が見えてきた。


■■


橋を超えてからも歩き続け、日没と共に近くの民家に入る。地図を広げ、ルートと現在地を照らし合わせる。確認が終われば、銃の整備を始める。


「ずいぶん弾を消費したな、」


銃の整備を終えてから、弾数を確認する。普段は朝だが、今日は銃を使用したため早めに確認しておきかった。ライフルの弾を16発、ショットガンの方は3発、一見すると少ないが目的地までの計画があやふやでかかる日数も分からない現状を考えると不安になる。


「補給地点を確保できればいいが、、」


第一目的地のコロニーまではまだ距離がある。オイルランタンの明かりに照らされた自分の顔は相手からどんな受け取り方をされるだろうか。微かな希望を胸に込め、その日は眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る