6.キャンプ


「ようやく着いた、、」


腐肉ゾンビ共にかかわらないようにと山の中を歩いてかなり時間が経っていた。元いた街を出てから約6時間、ようやくたどり着いた。


■足柄峠■


昔、登山が趣味の祖父とここに来たことがあった。枯れてうっすら茶色くなった芝生、不自然なほどに透き通る空。気付いたら口につけたマスクを外し、大きく深呼吸をしていた。


「、、次にこんなふうに深呼吸するのはいつになるんだろうな、、、」


体を伸ばした後、いいアイディアを思いつきすぐさま実行に移す。近くから枝を集め、火を付ける。鉄製のフライパンスキレットを取り出し、火の上に直接乗せる。油を入れ、パチパチと油が跳ねる音が響く。


「奮発しちまおうかねー」


そう言ってコーンビーフを取り出し、ぱぱっと混ぜ合わせる。今更になるが周りを確認するが、もちろん賞味期限切れの人肉ゾンビはいない。が、確信はしない。急襲されないように警戒しながら晩飯を作る。


「仕上げにするか」


近くの木製のテーブルに向かい、リュックを下ろす。同じ木製の椅子に座り、リュックからクラッカーの入った袋を取り出した。クラッカーを何枚か出し、焼いたコーンビーフを上に塗りつける。本音を言えばパンに塗りたかったが、贅沢はもうしている。これ以上の贅沢はいえない。そう思いながら口に運ぶ。


「アッツ」


■■


贅沢な夕食を食べ、片付けを終えると辺りは暗くなっていた。満点の星の下、草むらに体を投げ出すと、眠気が体を襲う。


「そろそろ寝る準備をするか、、」


雑音一つ無い、沈黙の世界。だからこそ、物音には自然と敏感になった。だからこそ、不自然な足音に気がつけた。


パキ、パッキ


テーブルの下に体を隠し、ショットガンを構える。月が雲で隠れ辺りが暗くなり、森の奥から音が聞こえる。草木をかき分け、いびつな姿が見える。


「何だ、こいつは」


3メートルを超えるであろう巨体が、雲から漏れた月の明かりを浴びる。人の死体から蜘蛛のような足が8本、人形の腐肉ゾンビの腹から内蔵を引きずりながら伸びている。そいつは特に何もせず、森の奥へと消えていった。


「何なんだよ、、あれ」


今まで見てきた奴らとは明らかに違う異質さをまとったあれは何なんだ。そう考えていると、ゾンビがこうなるまえに見たテレビ番組を思い出していた。


彼らゾンビはいわば寄生されている状態です。もしかしたらハリガネムシがカマキリの体を使うだけ使ったあとに水に体を落として成体になるように、彼らゾンビが人類を襲っている理由は我々の体を乗っ取るのが目的ではなく、その先があるのではないでしょうか、、』


「ジョークじゃないのかよ、、」


人口が多い都会は早い段階で感染した者が多かっただろう。すなわち菌の潜伏期間も長くなる。ならばこうなるのも自然ではある。が、受け止めきれない膨大な情報量を前に、眠気など飛んでしまった。


「、、行くか。ここにいても何も変わらない」


夜の下山は危険らしいが、道路を使えば比較的安全に行けるはず。それより、今は何も考えたくない。そんな思いを胸に、ゆっくりと歩き始めた。

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