5.ラジオに耳を傾けて

《私はもともと自衛隊の世話になっていたんだが、感染者が紛れてたようでな。たった数時間で阿鼻叫喚の渦に巻き込まれたよ》


静かに、しかし確かに、単語一つ一つを噛み締めるように話す。雑音の混じった言葉が静寂の空間に響き渡る。全身が熱くなっていることがわかるが、それがどんな感情が由来かはわからない。何度か咳払いをした後、声の主は話し出す。


《仲間数人となんとか基地からは出れたが、もはや満身創痍でね。今はこの電波塔にいるんだが、、。ここに逃げ込む前に噛まれてしまってね、もはや時間の問題だよ》


枯れ始めた涙を拭い、眼の前の声の主を思い浮かべる。どんな顔で、どんなふうに笑うのか。どんな姿で、どんな姿勢で歩いているのか。


《もしもこれを聞いている人がいたら、2つ頼みたいことがある。1つ目はわたしの殺害後処理を頼みたい。この電波塔の第二機材室で待っている。そして2つ目は、、》


■■


「んん、、、っと」


朝5時、いつものごとく腕時計のアラームが鳴る。伸びをして体を起こす。


「あぁ、永遠に起きたくないくらい気持ちが良かった」


溜まっていた疲れがすべて抜け落ちた体は清涼感に包まれれいた、昔良く飲んだ瓶ラムネを思い出させるほどに。


「ルーティーンをこなしますかな」


体を拭いて、弾数確認をする。リュックの中身を確認した後、塞いだドアを開け、来るときに使った裏口(強引)からホテルを出る。


「電波塔の場所は関東北部、今は神奈川と静岡の県境付近。ノンストップなら2日だが腐肉共あいつらから逃げながらとなると一週間、いや二週間はかかるか、、」


少し歩いて見つけた本屋で関東近辺の地図を見つける。大体のルートを決めた後、ラジオの電源をつける。コンビニで奪った拝借したイヤホンをつける。


《この放送を聞いている生存者に次ぐ》


昨日と同じ言葉が聞こえる。雑音混じりの声が続き、最後のメッセージが流される。


《なお、この放送は一日に四回繰り返される、、はずだ。また、施設の発電機が動く限り、放送は続く、、はずだ。どちらにせよ、この放送が誰かに届くことを祈っている》


楽しみと、目的ができた。そう思うと体が軽くなった気がする。もう一度伸びをして、体をしっかり起こす。


「今日はどこまで行けるかなっと」


寒くなってきた街は独特の碧さを醸し出している。ほんのり冷えた携帯ラジオを手に握りしめ、誰もいない街を歩き出した。

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