第19話 テーブルの上には


「よ、良かった……あの、私。こういうところでの食事の仕方って、よく分からなくて……」


 なにしろこれまでの十年間、私が居たのは光のない地下牢獄だ。

 囚人生活で得られた食事と言えば、生えていた苔ぐらい。そう、苔なのだ。

 それを自分の力で栽培し、どうにか飢えをしのいでいただけ。


 ぶっちゃけその辺の野生動物たちの方が、マトモな食事をしていたと自負している。そんな私が作法なんて分かるわけがない。


 この席にコルテ様が居なくて本当に良かった。また幻滅されてしまったらどうしよう、なんて不安になりながらじゃ、折角の美味しい食事も味わえないじゃない。



「そんなに心配しなくても、ここでの食事は身内だけだから畏まらなくても大丈夫よ? ……それにしても、本当に姫としての教育をさせてもらえなかったのね」

「ごめんなさい……」

「気にしないで。知らないのなら、これから覚えていけばいいだけの話よ。ふふふ、でもそうね。教え甲斐がありそうだわ……」

「うっ!? お、お手柔らかにお願いします」


 手をワキワキさせながら舌なめずりをするオーキオさんに、私の背筋がゾクゾクとした。


 ……でも、うん。オーキオさんの期待に応えられるように、頑張ろうと思う。どうにかして自分の居場所を作らなくっちゃ。



「あの、オーキオ様とお呼びした方がいいんですよね……?」

「あら、どうしたの? そんな他人行儀な呼び方をして」

「だって、コルテ様の従姉妹ということは……」

「あぁ、王族なのはそうなんだけど、過度に敬われるのは嫌いなの。特にヴェルデちゃんみたいな可愛い子からは特にね。だからさっきみたいに呼んでちょうだい」


 なるべく私が委縮しないように。そんな気遣いを感じられるような、優しい口調だ。思わず心がじんわりと温かくなる。


 オーキオさんとは出会ってまだ間もないけれど、それでも彼女の人柄の良さは伝わってくる。なによりちゃんと私を同じ人間として見てくれている。対等に扱ってくれているからこそ、私はキチンとお礼を言葉にした。



「ありがとうございます。私、こんなにも優しくされたことが無いので、いちいち戸惑ってしまって……でも、オーキオさんとは仲良くなりたいです」

「ヴェルデちゃん、貴方って子は……!」


 椅子から飛び出したオーキオさんは私の元へ近寄ると、いきなりギュッと抱きしめた。私はオーキオさんの胸の中で息が詰まりそうになる。


「私のことはお姉ちゃんだと思って、好きなだけ甘えてくれていいのよ!?」

(く、苦しいっ)


 オーキオさんの腕を振り解こうと必死でもがく。しかし彼女は華奢な見た目に反して異様に力が強く、びくりともしない。


 あ、やばい……意識がまた遠くなりそうだ……。


「オーキオ様、あまりヴェルデに無理強いをしてはいけませんよ?」

「あら、ジェルモ。せっかくの触れ合いの時間を邪魔しないで頂戴」


 ナイスです、ジェルモさん! 

 貴方が救世主でしたか!!


「ヴェルデを気に入ったのは理解できますが、時と場合を選んでくださいませ。彼女も困っていますよ」

「もぅ、分かったわよ」


 はぁ、はぁ……ようやく解放された!!

 ありがとうジェルモさん。貴方のおかげでまた気絶せずにすみましたよ……!


「それにしても、相変わらず貴方は私に対して他人行儀ねぇ?」

「……俺は姉上と違って、仕事中は真面目なんでね」

「え? え??」


 ジェルモさん今、姉上って言いました?

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