第20話 時すでに遅し
「ジェルモは私の血の繋がった方の弟よ。陛下くんとは従兄弟の関係ね」
「おろ? 言ってなかったっけか? まぁそういうわけで姉弟ともども、よろしく頼むよ」
「は、はい! こちらこそよろしくお願いします!」
突然の事実に頭が追い付かない私は、思わず椅子から落ちそうになりながらも立ち上がって頭を下げる。
ジェルモさんは「そんな畏まらなくても良いのに」と苦笑いを浮かべた。……そう言われてもやっぱり王族だし、そんなすぐには無理ですよ。
ただ……あぁ、たしかに?
まじまじと二人の顔を見比べてみて、私は納得した。確かに顔立ちなんかはどことなく似ている気がする。ただ性格や口調が対照的だから気づかなかっただけで。
「お二人とも、仲が良いんですね」
自分とは大違い……なんて心の中で思いつつ私がそんな事を言うと、二人ともあからさまに嫌そうな顔を浮かべた。
「やめてくれ。俺と姉上は似ていないだろ?」
「私だってこんな生意気な弟なんて願い下げよねぇ」
二人はお互いに睨み合っているけれど、それは本気で怒っているようには見えなかった。むしろ、仲が良いからこその距離感に見える。
「まぁでも」
ジェルモさんは自分の口元を指で軽く掻くと、言葉を続ける。
「俺にとって姉上は……掛け替えのない存在だけどな」
そう言ってそっぽを向くジェルモさんの顔には、心なしか朱が差しているように見える。よほどオーキオさんのことが好きなのだろう。それにしても……。
「あの、皆さま。ご歓談も良いのですが、お食事の準備が整いましたのでそろそろ……」
給仕をしていた人たちの中でも一番年長に見える執事が、凄く気まずそうに私たちに声を掛けた。そうだよね……。このままじゃ折角のご飯が冷めてしまう。私もお腹がペコペコだ。
「あら、いけない。それではそろそろ頂きましょうか」
オーキオさんのその言葉で、全員が一斉にナイフやフォークを手を取って食事をスタートした。
マナーを気にしなくていいと言ってくれたけれど、不作法になり過ぎるのも嫌よね。
ということで、私はオーキオさんを真似てみることにする。オーキオさんも私の意図に気が付いたのか、少しだけ食べる手のペースを緩めてくれた。
「どう、美味しい? エルフ料理は初めてじゃない?」
「はい、初めてです! とっても美味しいです!!」
刺激的なスパイスが効いた骨付き肉や、表面がパリッとした川魚。ドレッシングに濃厚なチーズが使われたサラダなど、そのどれもが美味しくて食べるのに夢中になっていた。もうジュースひとつとっても美味しい。……エルフ料理凄いな。
「それは良かったわ。陛下くんから『最初はヴェルデの好みが分からないから、事前にシェフへいろいろと取り揃えてもらうよう言っておいてくれ』って頼まれていたの。あと『あの様子だとマトモな食事を食べていないから、胃に優しいメニューも』って」
「コルテ様が……!?」
てっきり、私のことは政略結婚だから関心が無いと思っていたのに。私のことを心配してくれていたと聞いて、顔が熱くなる。
「ま、お腹の心配は不要だったみたいだけれどね?」
その言葉を聞いて、私はむせそうになる。たしかにお粥やスープなどには殆ど手を出していなかった。あまりの恥ずかしさで、今度は顔どころか全身が真っ赤になってしまった。
「こっ、コルテ様には秘密にしておいてください!!」
「ふふふっ。おかわりもあるから、遠慮なく言ってね?」
私のお願いに笑みで返すオーキオさん。あの様子だと、コルテ様に私の行動の全てを伝えるつもりだ。あー、もうどうしよう! 絶対にはしたない女だと思われてしまうじゃない……!
「ヴェルデ様、デザートはいかがなさいますか?」
「ください……」
だけど食欲には勝てなかった。執事さんが持って来てくれた果物のタルトケーキに手が伸びてしまう。
食べた感想?
泣きそうなくらい美味しかったです……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます