第12話 幸せな結婚とはいずこ


「わ、私は貴方の妻じゃないんです……」

「今さら怖気づいたのかい? まぁそんなに怯えずとも、冷遇はしないから安心してよ」

「そ、そうじゃなくて!」

「ああ、分かってるよ。我がセミナ国はドワーフから多大な援助を受けている。その恩を返すためにも、誠意は最低限示すつもりだから」


 そう言ってコルティヴァ様は「はぁ……」と深い溜息をつく。


 困ったわ。誤解だと伝えようとしても、ぜんぜん聞く耳を持ってくれない。


 ……それにしても。エルフ側はドワーフの姫をめとることに関して、あまり乗り気じゃなかったのかな。お兄様は嬉々としてトラスを送り込もうとしていたけれど……コルティヴァ様は本当に嫌そうな顔をしているし、彼自身が望んだことではなかったのは確かね。


 それもそうよね。これだけ美形の持ち主なら、エルフの国でも引く手数多でしょうし。いくら子孫を残すことに種族の問題はないとはいえ、わざわざドワーフを嫁にする理由がないもの。


 でもどうしよう。

 このままトラスと勘違いされたままなのも、ドワーフのイメージが最悪なのもマズいわよね。事情を理解してもらったところで、ここから追い出されてしまうようでは……。


 それは絶対に嫌だ。私はもう、あの牢獄には戻りたくない。


 どうにかして私が役に立てることを示さないと。でも私が持つ聖女の力は話してはならないって、お兄様に言われているし……。


 私が必死になって考えていると、コルティヴァ様は呆れたように口を開いた。



「僕としては愛のない結婚なんて、まったくの不本意なんだけどね。まぁキミがここでどう過ごすかは、追々決めるとしよう」

「は、はい……」


 どうやら多少の猶予は貰えるらしい。ホッとしてつい安堵の溜め息が出てしまう。



「それから僕のことはコルティヴァではなく、コルテと呼んでくれ。長ったるい名前で呼ばれるのも面倒でね」

「は、はい。分かりました、コルテ様」


 コルティヴァ……じゃなかった、コルテ様は少し疲れた様子で言った。


 私が疲れさせてしまったこともそうだけど、結婚に対してかなりナーバスになっているみたい。他に大事な人が居るって言っていたし、コルテ様の本心ではそちらの方と結ばれたかったのかな。


 私はそう思いながらコルテ様を見つめる。彼は眉間に深いシワを寄せたまま難しい顔をしている。どうやらシワが寄ってしまうのは癖みたい。なんだか普段から苦労をしていそうね。なるべく陛下のご負担にならないよう気を付けなきゃ……。


「それで、キミの名前は?」

「え?」


 あれ……?

 出会い頭のハプニングで、自己紹介するのをすっかり忘れていたわ!



「も、申し遅れました! 私の名前はヴェルデです!」

「ヴェルデか。ん? 事前に聞いていたドワーフの姫はそんな名前だったか……?」

「いえ、実は――」


 良かった、気付いてもらえた!?

 よし、言うならこのタイミングしかない!


 ――そう口を開きかけた瞬間。部屋の扉が開かれ、一人の女性が入ってきた。

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