第11話 最悪のタイミング


「うひゃあっ!? お、起きていたのですか!?」

「君が動いた気配で起きたんだよ……まったく、ようやく仕事を終えて休めると思ったら……キミが聞いていた、例のドワーフ姫だな?」


 私は姫……ということになるんだろうか。

 いちおうはドワーフ王の娘ではあるけれど、オーキオさんの勘違いを見るにこの人も……。



「は、はい。あの、貴方は……?」

「なんだ、僕のことを知らないのか?」


 彼は不機嫌そうに眉根を寄せた。


 ど、どうしよう、怒らせちゃった!?

 もしかして、とても偉い人だったのかな……。


 まだエルフの国に来たばかりで右も左も分からないとはいえ、私が無礼だったわよね。



「ご、ごめんなさい……」

「まぁいい。僕はエルフの王コルティヴァ・ツィオーネ。一応、エルフの国の王を務めている者だ」

「うぇ!? 貴方がコルティヴァ陛下だったんですか!?」


 コルティヴァと名乗った男性は、私を見下ろしながら「そうだけど?」と頷いた。


「しっ失礼しましたぁあっ!? 陛下とは知らず、とんだ御無礼を……!!」


 背筋を伸ばして深々と頭を下げた。途中でシーツが落ちそうになるのを必死で抑えながら、とにかく何度もペコペコと謝った。



「で、でもそんな偉い方がどうして、こんなところに……それに、ここは一体……」

「こんなところって言われても、ここは僕の寝室だ。ちなみにキミがさっき寝ていたのは、僕のベッドだ」

「コルティヴァ様のベッド!?」


 そう言われてみると、確かに高貴な匂い(?)がした。

 汗と酒臭いドワーフの男たちからは一度も嗅いだことのないタイプの香りだ。


 ……え、ちょっと待ってください?


 とんでもないことに気が付いた。

 じゃあ私は今、彼のベッドのシーツを服代わりにまとっているってこと――!?



「きゃぁ! ごめんなさい!」


 慌ててシーツを脱ごうとするが、焦って上手くいかない。いやいや、待て私。今ここで脱ぐわけにはいかないでしょうが!?


 あぁ、もう最悪だ。終わった。殿方のベッドの中に全裸でいたなんて、とんでもない変態だ。でもどうしてこうなっちゃったの!?


 コルティヴァ様は私の様子を見ながら、薄っすらとした笑みを浮かべていた。



「それは僕を誘っているつもりなのかい? さすがは悪女と名高いドワーフの姫だな」

「え……?」

「ドワーフ王から姫をやると言われた時は仕方なく承諾したが、やはり断っておくべきだったな」


 ちょ、ちょっと待って……!?

 やっぱり、妹のトラスポルテと勘違いしていませんか?


「ち、違います! 私は気が付いたらここに……」

「あいにくだけど、キミとの婚姻は政治上のお飾りだ。肌を寄せ合うつもりもなければ、感情を寄せるつもりもない。それに今の僕には大事な人が居るし、キミの相手をする暇は――お、おい!? どうして泣いている!!」


 誤解を解こうとする私の瞳から、勝手に涙がポロポロと流れてきた。




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