第10話 これで服を作ったら怒られるかな?


「うっ、痛ったぁ……」


 目覚めた私は、頭を押さえながら起き上がる。どうやら私は、ベッドに寝かされていたようだ。


「ここは……?」


 初めて経験するフカフカのベッド。両手を伸ばしても端に届かないくらい広くて、私なら二回は寝返りがうてそうだ。

 シーツなんて真っ白だし、これで服を作ったら気持ちが良さそう。それになんだか良い匂い……新緑の柔らかな香りだ。


 この匂いに包まれてこのまま二度寝をしたい……なんて思ってしまった。



「……あの後、気絶してしまったのかしら」


 掛布団の中を見ると、私は裸のままだった。

 そして頭には、グルグル巻きの包帯が。


 たしか浴室ですっころんじゃったのよね、私。

 とすると、ここに運んでくれたのはメイドのオーキオさんかしら。



「はぁ、さっそくやらかしちゃいましたわ……早く起きてオーキオさんに謝らなきゃ……」


 身体がちゃんと動くことを確認した私は、周囲を見渡す。

 随分と広い部屋のようで、ベッドの他にも机やテーブルなどがある。だけど肝心のオーキオさんがいる気配はない。



「誰も居ないのかしら……誰っ!?」


 すっかり気配を感じなかったから分からなかった。部屋の壁際にある椅子に、知らない男性が座っていたのだ。


 反射的に自分が裸であることを思い出し、咄嗟にシーツを自分の身体に巻いた。



「……寝ているのかしら?」


 その人は腕を組んだまま、下を向いている。

 耳を澄ませば、クークーと寝息を立てているのが聞こえた。



「すぅ、すぅ……フィオレ……絶対に僕が護るから……」

「この方は誰なのかしら……」


 見た感じでは20代前半ぐらいだろうか。いや、エルフだからもっと上かもしれない。ビックリするほど整った顔つきをしている。


 金色の髪は短めで、少しボサついている。目元にはクマが出来ていて、あまり健康的ではない印象だ。


 服装はとてもラフな格好をしていて、ズボンにヨレヨレのシャツを一枚しか着ていない。

 まるで寝る前のような格好だった。



「この人もジェルモさんと同じ、お城の兵士なのかな……勝手に部屋から出て行っても、大丈夫かしら」


 相当疲れているようだし、起こしてしまうのはなんだか忍びない。

 シーツを体に巻いたまま、私は部屋の中をそっと歩く。そして物音を立てないよう、そっと隣りを通り過ぎて、扉のドアノブに手を伸ばした。



「――どこへ行くつもりだ」

「ひゃあぅ!?」


 背後から掛けられた声に驚いて、思わず変な悲鳴が出てしまった。


 振り返れば先程まで眠っていたはずの彼が、こちらをじっと見つめていた。

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