第9話 結婚相手が〇〇!?

 それって妹のトラスが、この国へもう来るってこと!?

 私が焦りながらそう尋ねると、オーキオさんの目が大きく見開いた。



「……あ、あはは。真面目な顔をして、ヴェルデちゃんも案外面白い冗談を言うわね?」

「え?」

「え?」


 お互いに話が全く噛み合わず、しばし無言の時が流れた。



「いや、この国の王……コルティヴァ様と結婚するのは、ヴェルデちゃんでしょう?」

「えぇえぇえぇええっ!?」


 私は思わず大きな声で叫んでしまった。

 だって、どうしてそんな話になっているのか全く理解できなかったから。


「えっと、ヴェルデちゃん? どうしたの?」

「そ、それはこっちのセリフです! どうして私がその、コルティヴァ様と結婚するなんて話になるんですか!」

「待って、あまりにも事情が掴めないわ……お風呂に入りながら、貴方の話を詳しく聞かせてくれる?」

「え? あ、あれ? いつの間に私、裸に!?」


 気付けば私は着ていたはずの衣類がすべてかれていた。

 そして手を引かれ、浴槽の方へと連れて行かれる。



「……なるほどね。つまり、殆ど何も聞かされぬままここへ連れて来られちゃったわけだ」

「はい……」


 私はオーキオさんに全身を隈なく洗われながらも、自分の身に起こったことをなんとか説明することができた。



「ふぅん。ドワーフの国は本当に酷いところなのね」

「正直、あの国に良い思い出はあまりありません。物心がついてからずっと、地下で独りぼっちだったので……」

「ヴェルデちゃん……」


 オーキオさんは心配そうな顔をしながら私を見つめていた。


 なんだかその視線がくすぐったくて、私はつい目を逸らすように俯いた。



「大丈夫よ、ヴェルデちゃん。エルフの国は貴方を閉じ込めたり、酷い扱いをしたりなんてしないから!!」


 オーキオさんの力強い言葉を聞いて、私の目頭が熱くなった。今まで私にそんな言葉を掛けてくれる人なんて居なかった……。


 でも泣く訳にはいかない。

 今泣いてしまうと、せっかく綺麗にしたばかりの顔が涙で汚れてしまうから。


「ともかく、その妹さんのことは私に任せておいて。ちゃんとエルフ総出で丁重に出迎えてあげるから」

「え、いや……あのぉ」

「ヴェルデちゃんは安心して過ごしてくれたらいいわ。……ね?」

「は、はい……」


 なんだか恐ろしい笑みで言われてしまい、私はただコクコクと頷くことしかできなかった。



「ありがとうございます、オーキオさん。……それにしても、オーキオさんはすごいですね。とても綺麗だし、スタイルも良いし。私もいつかオーキオさんみたいな素敵な女性になりたいです」


 そう言うと、オーキオさんは急にオドオドとし始めた。



「べ、別にそんなことないわよ。私なんて全然普通だから! まったく、ヴェルデちゃんは無自覚でそんなことを……恐ろしい子ね」

「え? すみません失礼なことを……」

「そういう意味で言ったんじゃないわ! それよりも、そろそろお風呂から上がりましょう!? 陛下くんも、そろそろ城に戻ってくる頃だろうし」


 そう言ってオーキオさんは浴室の出口の方へ歩き出した。たしかに、あまり待たせてしまうのは失礼だ。

 私はそれに続いて立ち上がって、浴室から出ようとした時だった。



「きゃあっ!?」

「ちょっと、大丈夫? た、大変!!」


 ついうっかり、濡れた浴室の床で足を滑らせてしまった。

 オーキオさんの声がゆっくりに聞こえ、身体が浮遊感に包まれる。


 後頭部にゴンという音が響き渡り――私はそのまま意識を失ってしまった。

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