第7話 着替えはこの中で


「あ、あの……ジェルモさん」

「おう、なんだ?」

「あの、私歩けますから!! それに私、重いでしょうし!!」


 世界樹の城は、中が空洞になっていて、木の香りが漂う落ち着いた雰囲気だった。

 文官らしきエルフやアルベルトさんと同じドライアードが城内を往来している中、ジェルモさんはずんずんと歩いていく。


 通り過ぎる人の誰もが、いったいアレはなんだろうとこちらを振り返る。

 まるでたるを担ぐかのような恰好で運ばれていく私は、さぞ滑稽こっけいに映っていることだろう。



「いや、全然重くねぇよ? むしろヴェルデは痩せすぎ。今までちゃんと飯を食ってたのか? 嫁入り前の女だからって、過度な減量は身体に毒だぜ?」

「……え? よ、嫁入り!?」

「あん? そうだろうがよ」


 肩にいる私を見て、首をかしげるジェルモさん。


 どうしよう、今まで罪人として地下の牢獄に居たなんて言えないし……。



「……ま、いいか。それよりも急いで着替えちまおうぜ。こんなボロ布みたいな服装じゃ、陛下の前に出せねぇしよ。いや、案外裸を見せた方が興味を示すかもな?」

「そ、そんなの有り得ませんっ……!」


 顔を真っ赤にさせて叫ぶと、ジェルモは愉快そうに笑った。


「ははは、冗談だ! ヴェルデは本当に揶揄からかい甲斐があるな。――よし、最初の目的地に着いたぜ」


 ジェルモさんは扉の前で足を止めると、私の腋に両手を入れてゆっくり下ろした。


 酷いわ、これじゃ完全に子供扱いじゃないの。



「ほら、この部屋で着替えてくると良い。中で怖いエルフがドレスを片手に、お前さんのことを待ち構えているからな。覚悟しておけよ?」

「ええっ、怖いエルフさんですか!?」


 怖いという単語に反応した私は、反射的にビクッと飛び跳ねる。

 ジェルモさんはそんな私を見て、お腹を抱えて再度笑い始めた。


「もうっ! また私のことを揶揄ったんですか!?」

「ははは、悪い悪い。ただ、怖いってのはある意味本当っていうか……俺はちょっと苦手でさ。じゃ、俺はここで待ってるから」

「うぅ……ちゃんと待っていてくださいよ!?」


 ジェルモさんはそう言うと部屋の中に私を押し込み、扉を閉めた。


 私はしばらく呆然としていたが、ハッとしてすぐに振り返り、ドアノブに手をかける。



「あれ……開かない……」


 鍵が掛かっている。どうしよう。これでは何かがあった時に逃げられないわ。


「――っ!?」


 背後から忍び寄る気配を感じ、私はおそるおそる振り返る。するとそこには、メイド服を着た緑髪のエルフが恐ろしい笑みを浮かべながらたたずんでいた。

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