第3話 嘘だと言ってほしかった


「な、亡くなったですって!?」


 そんな……お父様が!?



「不運にも、鍛冶中の事故でなぁ。灼熱の聖火に焼かれて、呆気なく死んじまったよ」

「アンタを産んだ第二王妃も、後を追うように病気で死んだわよ。可哀想に、最期はアンタを産んだことを後悔しながら息を引き取ったわ。腕輪は勿体ないからアタシが貰い受けてあげたのよ~?」

「う、嘘よ……」


 私が牢獄にいた間に大事な家族は変わり、亡くなってしまった。


 頭が真っ白になり、意識が遠のいていく。だめ、こんな状況で倒れるわけには……。



「なっ、なんだコイツは!?」


 再び意識がハッキリしたときには、誰かに体を支えられていた。でも差し伸べられていたのは、人の手じゃない。ガサガサとした茶色い手だった。


「……だ、誰ですか?」


 私を助けてくれたのは、ドワーフの二倍ほども背丈のある――枯れたトネリコの古木だった。



「ひいっ!? な、なんなのよこれぇ!?」


 木が自ら動くというその異様な光景に、トラスが悲鳴を上げた。一見すると魔物のように見えるけど、たしかこれは――。



「くそ、驚かせがって……何かと思えば、エルフが飼っている木精霊のドライアードじゃないか」

「ドライアード? お兄様、何か知っているのですか?」

「あぁ、あの不愛想なエルフ王の仕業だ。トラスを迎えに使いを出すと言っていたが、まさかこんなでくの坊を寄越すとはな!」


 お兄様はずかずかとこちらへ近寄ると、私を支えてくれていたドライアードを足蹴にし始めた。


 彼の身体は大人のドワーフが両手を伸ばしても届かないほどに太く、蹴られた程度ではビクともしない。

 だけど蹴られた衝撃で、表面の皮がパラパラと剥がれ始めてしまっている。



「お、お兄様!? おやめください! 他国の使者ですよ!」

「はぁ、はぁ……おいドライアード。エルフ王の妻となるトラスは、我が国が丁重に送る。その代わりそのゴミを連れて、この場から早々に立ち去れ!」


 お兄様に何度も蹴りつけられ、剥げてしまった肌がとても痛々しい。


「うわわ、ちょ……ちょっと!?」


 ドライアードはお兄様の言ったことを理解したのか、枝を伸ばして私の腰を巻き付け始める。そしてそのままヒョイっと持ち上げると、出口に向かって器用に運び始める。



「ふふふ。見てくださいよ、お兄様。あの無様なお姿を」

「ヴェルデ。お前はトラスを迎える準備をするよう、エルフ王にしっかり伝えておけ」


待って……私はまだあの人たちに聞きたいことが……!!


「あぁ、そうだ。お前が持つ、あの忌々しい能力は秘密にしておけよ。バレれば、今度こそお前の居場所が無くなっちまうからな。ははは!!」


 私は必死に手を伸ばすけど、それは虚しく空を切るだけだった。


 ドライアードは足が速く、お兄様たちの姿がみるみるうちに小さくなっていく。最後に見たお兄様の顔は、悪魔のようなおぞましい笑みを浮かべていた。


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