第7話 悪魔の子供
「イブ君、イブ君!」
朝のホームルームが終わり、賑わった教室の中で、ルームメイトでもあるミハイルが俺に話しかけてくる。
「ん? どうしたんだミハ」
「今日の朝、イブ君とアリアさんが中庭で一緒にいるところを見たって人がいて」
「ぶっっっ」
まじかよ、見られてたのか!辺りに気配はなかったはずだけど……
「まあ普通に話してただけだよ」
「あ、そうなんだ! イブ君が昨日アリアさんの事聞いてたからもしかしたらって思ったんだ」
「もしかしたら?」
「アリアさんのこと気になってるとか」
「それは絶対にない!!!」
気にはなっているが、ミハイルが考えている "気になっている" とはまったくの意味違いである。
ん、ちょっとまて
「ミ、ミハそれは誰から聞いたのかな?」
「え?隣のサーバントのアイリスさんから……」
ミハイルの言葉が言い終わる前に俺は走って隣のクラスへ向かう。
扉を開け廊下に出ると、あからさまにざわつく。
おいおいどんだけ広まってるんだよ。
取り敢えず、これ以上広まる事だけは避けたいのでアイリスと話をしに行く。
隣のクラスのドアを開け、中の生徒達が一斉にこちらを見る。
入り口の近くにいた生徒に
「アイリスさんっている?」
その生徒が答える前に、後ろから
「あら? 噂の編入生さんじゃありませんの。どうされまして?」
向こうから、こちらに向かってきた。
長い黒髪、長いまつ毛、品のある所作。
身長は……羨ましいなちきしょう。
「アリアとはたまたま会って少し話していただけなんだ。それをいちいち広めるとは趣味が悪いんじゃない?」
「どうしてですの? 何かやましい事でもあるのかしら?」
「やましいこともなにも普通に迷惑だって言ってんだよ」
よく、悪気なく噂を広めてる子もいるが、この子からは悪気たっぷりで広めてる空気が出てる。
こういうことからアリアは周りと距離を取り始めたのだろうか。
アイリスはまた喋り始める
「あら、ご迷惑でした? 低学年唯一の5つ星を編入直後の貴方が捕まえたとなれば泊がつくんじゃなくて?」
「そんなものに興味はないよ。とにかく金輪際こう言ったことはやめてくれ」
「不快に思われたのでしたら失礼致しました、まさかあの方に話しかける生徒がいるとは」
「どう言う意味だよ」
「あの方の父親は 悪魔 でしてよ?」
は!?悪魔?
悪魔から子供は生まれないはずだ。それは間違いない。一度死ぬか望んで依代にならない限りは不可能だ。
第一、悪魔なんてこの国において数体しか確認されてないはず。
俺が戸惑っているとアイリスが続けた。
「あら、知らなかったのですか?」
「知らなかったものなにも、なんの根拠があってそんなこと言ってんだ」
「私達が入学して間もない頃、アリアさんは自宅登校組でしたの。ある日の授業中に彼女が呼ばれたかと思うと、そのまま早退。その日、彼女の家周辺には軍警務隊が集まっていて、次の日には彼女の家は更地になっていたとお聞きしましたわ」
「それだけでなんで悪魔になったって分かるんだよ」
「あら、野暮な質問ね。この国において1日で家が無くなることの意味。知らないのかしら?」
彼女の言ってることはもっともだ。悪魔がいたということは空気中の魔素やオーブ、精霊達ですら汚染されてしまう。そんな家を1日も残すと新たな悪魔誕生の原因になりかねない。でも……必ずしも悪魔とは言えないはずだ
「それだけじゃあ、根拠としては弱いんじゃないの?」
「勿論、だから聞いたのよ。彼女に直接」
「は?なんてだよ」
「貴方の家で悪魔が出って本当なのかしら? って。そしたら彼女 父親が悪魔になって母親を殺したって話してたわ」
抑えなきゃいけないのはわかる。でもこの女は人の気持ちを心を何にも考えちゃいない。ただ自分が楽しければいいんだ。
俺は全身に魔力を貯める。
ピアスとしてつけていた抑魔結晶が割れるほどの魔力。部屋が震え、あちこちに亀裂が入る。目の前のアイリスも腰を抜かす。
次の瞬間。
ブーーーーーーーーーーーー
魔力感知ブザーが鳴った。
そして脳内に直接声が届く、
「落ち着け! 馬鹿者が!!」
アレフ校長の声だ。
周りの反応からするに、声は俺にしか届いていないようだった。
アレフ校長は続けて
「直ぐに校長室に来い」
と続けた。
まだ怒りは治らないが、格納魔法により新たな抑魔結晶を取り出して、目の前のアイリスを一瞥し校長室へと向かった。
俺が出た後、サーバントの教室には、4人の先生が入って行った。
校長室に着くとアレフ校長が呆れた顔でこちらを見ていた。
ふぅーーと長いため息を吐き、言葉を発する。
「なにがあった?」
と、聞かれたので俺はあの教室であった出来事を包み隠さず話した。
俺の話を聞き終え、アレフ校長は目を瞑り、何かを考えているようだった。
パッと目を開くと
「こちらから家族の情報を話すことはできないので、その情報の真偽を答えることはできない。たとえ君であってもだ」
「事情はわかったが、どんな理由であれ、校内で君は魔力を使い相手を威圧した。あまつさえ、私が止めなかったらどうなっていたのかすらわからないだろう」
「はい」
「取り敢えず、今日は寮に帰れ、アイリス君にもあとで校長室に呼び注意をしておく」
「分かりました。お願いします」
「他の生徒達には、君が威圧魔法を使ったと説明をしておく。なにかしらの処分を下すことになるかもしれない」
「分かりました。申し訳ございませんでした」
と言い校長室を後にした。
今回のことは本当に反省しなければならない。自分の感情すらコントロールできないとまだまだ半人前だ。
しかも約束していたのに、わずか2日でそれを破ったのも事実。
ふぅーーーーーーーー
俺は長いため息をつき、寮へと向かって歩き出した。
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