第6話 天才の葛藤
朝食と身支度を終え、ルームメイトであるミハイルが起きたタイミングで部屋を出た。寮から学校までは渡り廊下を使えば2分ほどで着くが……
昨日の朝のような出来事に遭遇しても面倒臭いので、少し回り道をして庭園を散策してから向かうことにする。
オースティンは庭園にもこだわっているらしく、見えるだけで何百種類の薔薇があるのがわかる。遠くには範囲も見えるし。
どんだけお金かけてんだよ。すげーな。
まだ始業前ということもあり、庭園には魔法により動いている箒や ジョウロ 剪定をするハサミ 更には精霊達が空を駆け回っている。
危害を加えようとする精霊はオースティンの結界で弾かれるため、ここにいる精霊は自我が付与されていない精霊かお手伝いのための精霊だろう。
自我が付与されていない精霊を結界が許可している理由は 邪気 のない空間で精霊を育てると自ずと良い精霊に進化するからである。
噴水の近くまで行くと、なにやら鼻歌が聞こえる。
この数の精霊がいるということは妖精もいるのかもしれない。俺は興味津々で歌の聞こえる方まで歩みを進める。
すると、植物で見えなかったのだが、ベンチに人影が見える。
別に隠れているわけではないので、足音は消さずに近づく。
白っぽい金髪の髪が見えた瞬間に俺は戻ろうとするが、声の主もこちらに気付き驚きながら声をかけてくる。
「あんた! こんな時間になにしてるのよ!」
おいおい……
鼻歌の主はクラスメイトのアリアだった。
俺はとんでもないデジャブを感じながら返答をする。
「朝の散歩だよ。貴方様もこんな時間に鼻歌なんて平和で素晴らしいことですね」
「なっ、なに盗み聞きしてんのよ!!」
「人聞きが悪いな! 散歩してたらたまたま聞こえてきたんだよ!」
「あらそっ、2日連続で同じ時間に会うなんて、貴方ひょっとして私のこと着けてきてないわよね」
「つけるわけがないだろう。なんで今日もこんな早くきてんだ?」
「ただの散歩よ」
「とか言って、そっちの方が俺の来そうなとこに先回りしてるだけじゃな……」
アリアは文句たっぷりと言わんばかりの顔でこちらを睨んでいた。なんだよ!軽口のお返しじゃないか。そんな嫌がることかよ!傷ついちゃうぞ!
「嘘嘘、冗談だよ。まあ鼻歌の邪魔しちゃなんだからもう行くよ」
「鼻歌はもう良いでしょ!!」
ははっと軽く笑ってから振り向きその場を後にしようとする。
すると
「待って」
「ん?」
「私も一緒に行くわ」
「は!? 会いたくなかったんじゃなかったのかよ」
「会いたくなかったなんて一言も言ってないでしょ?良いから行くわよ」
そういうとアリアは俺の前まで行きそのまま学校へと歩き出す。
どうなってんだよ。
歩き出したは良いものの、もう3分は無言で歩いている。
き、気まずい……
耐えきれず
「なんか用あったわけじゃないの?」
「ええ。まったく。ただ逃げられるような態度が気に食わないの」
「なんだ、結局人から避けられるのは気にしてないわけではないんだ」
アリアはくるりと振り返り、睨みながら顔を近づけてくる。
「だから!昨日言ったでしょ!私が別に避けられるような態度をとっているわけではないの!」
「でも、避けられないような態度をとっているわけではないんだろう?」
別に説教がしたいわけではないが、俺も軍学校時代は優秀だったということもあり、周りの同期や先輩達からよくは思われていなかった。無愛想だったしね。
当時の俺はそれでよかった。人と仲良くしたところで、生き残る確率が上がるわけではない。
でも今のアリアは違う。昨日と今日の同じやりとりでここまで激昂するということは少なからず気にしているのだろう。
確かに周りからしたら同学年初の5つ星。でも結局は周りのみんなと同じ女の子なのだ。
俺は続けてアリアに言う。
「仲良くなりたいなら話しかけてみなよ。向こうからは話しかけづらいだろうけど、こっちから話しかけたら意外と大丈夫かもよ?」
「あんたになにがわかんのよ」
「まあ、俺に言われてもって思うよな。でも、壁を作ってるのはひょっとしたら君の方かもしれないってこと」
「そんなこと……」
「そりゃその年で5つ星なんてすごいよ。誰しもが憧れるし妬むものもいるだろう。確かに才能なのかもしれないけど、それを開花させたのは自分自身だろ?」
・
・
・
沈黙が続く。
少しして
アリアが再びこちらの目を見て
「あんたには、絶対わかんない」
「そりゃ、君の気持ちも、事情も全部わかるかって言うとそんなことはないけ」
俺が喋ってる最中に、アリアは息を吸い
「知りもしないのに偉そうなこと言わないで!!」
アリアは、大きな赤っぽい瞳に僅かに涙を溜めながらそう怒鳴った。
アリアは振り返りそのまま歩き出した。
ふぅ。でも流石に反省だ。
昨日会ったばかりの、アリアからすれば未知数ではあるものの周りからすれば平均的な俺が上から目線で偉そうな説教、そりゃ怒るよな。
なんか理由があるのは間違いなさそうだ
が……
まあ頼まれてもいないのにこれ以上首を挟む訳にもいかない。
アリアはもう見えなくなっていた。
俺も後を追うように教室へと向かう。
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