第5話 小さな幸せが大きな幸せ

 ――オースティン魔法学校 男子寮


 ま、まずい。これは非常にまずい


 いつぶりの出来事だろうか。俺は自分の命の心配をしている。


 温泉が気持ち良すぎるーーー!


 俺は、青く澄み、ほのかに柑橘系の香りがするお湯に浸かりながら、心の中で声を大にして叫ぶ。


 初めての寮の部屋にテンションを上げ、ルームメイトと夢と恋の話に夢中になり、気付けば朝っていうのがお決まりパターンらしいが、俺はそんな決まりは無視して、ご飯も食べずに入浴室にダッシュ。


 まだルームメイトも帰ってきてなかったしね。しょうがなくさしょうがなく。


 でも、いい温泉とは聞いてたけど、想像以上のものだった。

 内装は石造りで、天井と壁は幻影投写魔法により、美しい風景と星が広がっている。

 更に浴室自体に 自動清掃 温度保持 効能保持 などの便利な魔法がかけられているため、常にベストなコンディションで準備されているのだ。実に結構!


 とは言っても、これ以上入ると流石にまずい。

 そう思い俺は、湯船から出て頭と体を洗い、仕上げに脱衣所で牛乳を飲んで、入浴を終わらせる。


 寮内では制服のポンチョは着用しなくてもよく、中に着ていた薄手の黒色のオーバーサイズのシャツとズボン、最後にブーツを履き浴室を後にする。


 オースティンの男子寮では、各部屋2〜3人部屋で、基本的に同学年の生徒との部屋となっている。学年毎に階数が分かれており、2年生の俺は5階らしい。


 階段を上がり廊下を抜け、自室へと着く。


 扉を開けると、男の子がなにやら1人でぶつぶつと呟いている。


 髪は黒色で、身長と体重は俺と変わらないくらい。なんか親近感!!


 その男の子は目を瞑り 

「初めまして……いや、やあとかの方が爽やかでいいのかな…」


 ああ、まあ確かに初対面って緊張するよね…


 俺は足音と気配を消し静かにその男の子に近づく、真後ろに立った俺はその子がこちらに振り返るタイミングに合わせて


「やあ!! 初めまして!」


 男の子は「ひっ!!」といい、腰を抜かす

 地面に尻餅をついたまま


「よ、よろしくお願いします…」


 俺は思わず爆笑


「練習した意味ないじゃん」

「ええ! き、聞いてたの?」

「そりゃあ、中にいたんだから聞こえないわけないでしょ」


 男の子は耳まで赤くする。可愛いなこの子。


「俺はイブ・レッドパール。君は?」

「僕は、ミハイル・レイスハット」

「おっけー! よろしくねミハ。ミハはどこのクラスなの?」

「ええ。イブくんと同じアルバスだよ。ずっと教室にいたけど……」

「おっと。それは失礼。人の顔を覚えられないで有名なんだ俺」

「そんな誇らしく言われても…」


 自己紹介を終え、入学のために持ってきた荷物を魔法 格納庫 から取り出して、整理整頓を進める。

 そいえば、

 ふと気になりミハに質問をする。


「うちのクラスのアリアって女の子、本当に5つ星魔法使いなの?」

「うん。本当だよ。2年生で5つ星なんて彼女が初って先生も言ってた」


 そりゃそうだそんな何人も出てきてたまるものか。


「イブ君は3つ星だったよね?」

「そうそう。ミハは?」

「僕はまだ2つ星。せっかくアルバスに入れたのに周りと差が開く一方でさ」

「まだ2年だろ? そんな焦る必要はないさ」

「あは、そうだね! まだまだこれからだよね!」


 ミハは笑いながらそう返す。


「そういえばミハ、さっきこの学年ではって言ったけど上の生徒達はどうなの?」


 2年生のアリアはともかく、4年生以上の生徒は参加せずとも戦争中には在学していた。俺のように軍学校からの編入もひょっとしたらいるかもしれない。


「んーと、確か5つ星が4年生に1人、5年生に3人、6年生に2人いるはずだけど……」

「へぇ、6つ星はまだ出てないんだ」

「6つ星なんて出たら、大ニュースになるよ!! それこそ、外でも取材とかされるだろうね」


 まあちょっと安心した。


「僕たちも頑張ろうね」


 と、ミハは笑顔で言う。






 ――荷解きを終え、明日の準備をすると、あっという間に消灯時間になっていた。


 ミハに一言声をかけ部屋のライトを消す。


 ベットに横になりながら、改めて、普通の暮らしっていうのは素晴らしいものだと感心する。

 終戦後3年間旅という名の旅行をしていたが、ほとんど意気消沈。燃え尽き症候群を発症してしまい。特に何もせず1日を終えることが多かった。


 でも今日は、色々な人と話し お風呂に入って、美味しいご飯を食べる。なんで幸せで恵まれていることなのだろう。

 明日からもこの生活が続くと思うと気持ちが昂る。

 思わず、「明日も楽しむぞーー」と声が出てしまった。


 ミハが飛び起き、2人で笑った。

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