大久保屋敷の客人
新六郎がその女に会ったのは、霧雨が着物をゆっくりと
その夜の
──まるで
空気が張り詰めている。
そして、
〈天下の御意見番〉
新六郎と小平次を門前から座敷まで案内した最古参の
そして通された二十一
「ようこそお越しくだされた。
彦左衛門は、やけにあらたまった様子で二人に声をかけてきた。
「新六郎で良うござる」
「小平次で願いまする」
相手は、ただの
それに、
──もしも必死の戦ともなれば。
この老人は、作法など振り捨てて怒鳴り回るに違いないのである。
新六郎の
慶長の世に生まれ、戦の経験は少ない新六郎だが、今でも
「
戦乱の世の残り火のような老人が口を開いた。
「もちろん申し上げておくつもりではありましたが」
やはり、重要な話があるらしい。
今夜は長四郎も非番だったが、彼は招待を辞退した。彦左衛門に対して何か思うところはありそうな男だが、今夜は本当に多忙だったのだろう。ここ数日、
「明日にでも、それがしが伝えまする」と新六郎は
「
彦左衛門はうなずき、「
将軍の側近六人のみに伝えておくべき話だということか。
いや、
「
「先日、
〈
〈
最上位の
「雅楽頭様におかれましては、
「見て、とは何を」
「当家の
よくわからないことを言いながら、彦左衛門は次の
立ち上がった喜内は屋敷の奥へと去り、すぐに一人の女を連れて戻ってきた。
「お初にお目にかかりますわ! パレオとお呼びくださいまし!」
新六郎も小平次も、とっさには
なんとも、
空色の
数十年前の
──これは
「太田、新六郎にござる」
「阿部小平次と申すっ」
新六郎は頭を下げたが、どのていど下げてよいものかわからず、見苦しく上下に波打たせることになってしまった。小平次は、胸が膝についてしまうほど深く頭を下げている。
──いったい何者か。
服と髪に気をとられ、中身を見ていなかった。
新六郎は顔を上げ、もういちど女の姿を眼に焼きつけた。
女にしては背が高い。
服のせいでわかりにくいが、
力がありそうには見えない指だが、小さな手で大猿のような力を出す者もいる。油断はできない。
とはいえ、武芸の
髪の色と衣服の異常を脇に置いても、やはり
「パレオ様、こちらへ」
彦左衛門が己の右斜め前を示した。パレオはそこに
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