第2話 ソレは小人ではなく

「なんなのよ、もう!」


 ドアが閉まるという行為は、その一回では終わらなかった。

 事態はむしろ、加速の一途をたどる。


 初めはお風呂場の窓だけだったのが、開いている全てのドアがまるで自動ドアのように閉まるようになった。

 そしてそれはドアだけに留まらず、開けっ放しの冷蔵庫や電子レンジ、タンスなど全てのものが目を離したすきに閉まるようになる。


 気にしない。気にしないと何度も自分に言い聞かせていた私も、さすがに限界を迎えていた。


「うーーーー。っもうヤダ。勝手に閉めないでよ!」


 ほとほと困り果てた私はキッチンにへたり込み、大きな声を一人上げた。


「うううう。せっかくマトモな家に引っ越したと思ったのに」


 蓋を開けて見れば、実家と同じくらいの嫌さがある。

 しかも見えるや感じるのとは違って、あのドアが閉まる音でノイローゼになりそうなほどだ。


 寝ていても、ご飯を作っていても、ドアが勝手に閉まる音が耳から離れない。

 まるでと嫌味でも言われているのではないかとさえ、思う。


「お姑さんとかと同居したら、こんな感じなのかな」


 もっとも、彼氏すらまだ私にはいないのだけど。

 自分の考えに、自嘲じちょうする。

 ただまた次の瞬間――


 バタン


 寝室のドアが閉まる音が響いた。


 私の中で何かが弾けた気がした。

 大きな足音をたてて、そのまま寝室のドアを開ける。


「もうなんなのよ! 勝手に閉めないで!」


 ドアノブを掴んだまま、私は声を上げた。

 誰もいない暗い部屋。

 もちろん答えなど返ってくるわけもない。

 それでも叫ばずにはいられなかった。


「だいたいバタンとか、ドアの音うるさすぎでしょう。騒音で苦情入ったらどうしてくれるのよ‼」


 まくしたてるように吐き出すと、どっと疲れが湧いてくる。

 こんなこと言ったって、どうしようもないのに。

 私、何してるんだろう。

 誰に言ってるのかな。


「なんかもう疲れちゃったな」


 ため息を一つついた後、私は視線を床に落とした。

 するとこそに、小さな人……、そう小人のような人がいることに気づく。

 

 なになになになに、小人?


 人はあまりに驚いた時に声が出なくなるものだと、生まれて初めて知った。

 

「……」


 私は突如現れたソレを見てようやく、今までの出来事が腑に落ちる。

 この子がドアを閉めていたんだ。

 

 もちろん理由は分からない。

 いたずらなのか、親切なのかも。

 だけどこの家に住んでいたのがお化けとかではなかっただけ、マシだと思えた。


「……小人さん、いたんだ」


 私の声を聞いたソレがゆっくりと振り返る。


「ん? 小人……」


 薄くなった髪を隠すようにバーコードにしてある髪型に、脂が乗ってテカテカする肌。

 でっぶりとしたお腹に、体形は二頭身であり、小人と表現するには何かが違う。

 加齢臭すら香って来そうなその人は、どう見ても小人なんかではない。


「いやいや、オヤジじゃん!」


 私の大きな声に、ソレはニタリと笑った。

 思わず背筋にぞっとしたものが駆け上がる。

 

 よりによって小さなオヤジと一緒に暮らしていたなんて。

 あり得ない。絶対にあり得ない。


「ちょっとぉぉぉぉぉ。まさかの、おやぢってどんなオチやねん。そんなことより、他人の家で勝手なコトしないでよ! 家賃払ってるの私なんだからね!!」


 その日から、音が鳴るごとに大きな声で文句を言うように私はなった。

 端から見れば、かなり頭のおかしな人になっていたかもしれない。

 しかし言い聞かせるうちに、ソレは静かにドアを閉めるようにはなってくれた。


 だた閉めるのを辞めないあたりが、どうもドアの開けっ放しが気になる性格らしい。

 向こうが私を言うことを聞いてくれた分、私も閉めるという行為自体は諦めることにした。


 そう、引っ越すその日まで。


「ああ、やっぱり引っ越しは慎重にしないとダメだなぁ」


 最後の日玄関を出ると、きっちり玄関のドアが閉まった。


 バタン



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この度は本作品をお読みいただきまして、ありがとうございました。

★や感想、ブクマなどいただけますと作者は感激のあまり

ツイッターにて飯テロを行うようです(〃艸〃)


ぜひぜひ、作者のダイエットを皆様で阻んでいただけると幸いです。


またカクコン短編部門にまだ数本出させていただきます。

ぜひそちらもお立ち寄りいただけたら嬉しいです♡

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【実話】家に住み着いた小人 美杉。節約令嬢、書籍化進行中 @yy_misugi

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