第7話 追跡者たち
一方、時を同じくしてアッシュこと、騎士アシュリンドと、女騎士ナタナエルは、クルトを連れ去った蛮族たちの足跡を追ううちに、バヤール平原中部にまで達していた。
先行して足跡を追跡する野伏たちの歩調に合わせ、馬を疾駆させることは出来なかったが、休憩5時間、追跡9時間の強行軍であっても、距離が縮まる兆候はない。
今日もさりとて、朝から歩き続け、すでに夕刻が迫っていた。
「いったい、どこまで連れて行くつもりなんでしょう」
若い二人とはいえ、さすがに疲労したのか、声には覇気が無かった。
「歳も騎士としての任期も君の方が上だ。敬語は使わなくていい」
ナタナエルは少し戸惑った。騎士団長に仕える年数、団長からの信頼は、アッシュの方が上だ。それに、この捜索隊の指揮官は彼なのだ。
「では…そのように。奴らは、大橋へ向かうと見せておき、急に北へ進路を変更して…いる。私が懸念するに、本筋は大橋で、今辿っているのは、囮の足跡なのではないでしょ…ないか?」
「僕らでは、それは想像の範囲を出ない。野伏たちを信じよう。隊をふたつに分けたら、いざクルトを見つけた時に戦力が少なすぎて、詰むかも知れない」
「合流先が、どこかの部族だと、奪還は難しくなりま…」
ナタナエルは、咳払いをして続けた。
「やめましょう。ある程度の敬語は、私の口癖です」
「そうかい?じゃぁ、好きなように」
微笑んだアッシュだったが、その笑みはすぐに消える。野伏の一人が踵を返し、彼の元までやってきたのだ。
「アシュリンド卿、この先で軍勢が対峙しているようです」
二人の騎士は腰を上げて、身を伸ばす。
「そうなのか?…見えないよ」
「もう少し進めば…しかし、身を隠す場所がありません」
「どちらかの軍に、クルト卿が合流している可能性もある。警戒しながら、近づこう」
ほどなくすると、土煙がうっすらと見えてきた。
さらに進むと、音頭をとって自軍を鼓舞する声と、盾を叩いて挑発する音。
大河のある方向、右手に蛮族たち500程度の軍勢と、ハイランドの王都がある方向、左手に人族の1000程度の兵団が睨み合っていた。捜索隊の一行は、そこから2kmほど離れた場所で両軍の様子を伺う。
「軍旗は5つ…良くは見えないが…どれも見覚えのある色使いだ。ハイランドの諸侯たちだと思う」
アッシュの言葉に、ナタナエルは感心した。
「紋章学をご習得で?流石です」
「以前、恐ろしく詳しい人がいてね…俺も少しは学ぼうかと…本当ならば、人となりや、近況まで調べるらしいんだが、俺にはそんな情報源はない」
「一騎、来ます」
野伏が警告した。
ハイランドの軍勢から、単騎で抜け出し、こちらに近づく者がいた。
「このまま待とう。蛮族たちを警戒してくれ。もし、向かってくる者がいれば、この場は後退する…それと、気付かれぬように、もっと近づくことは可能か?」
「クルト卿がおられるか、捜すのですね。試みてみます」
「発見されたら、すぐに戻ってくれ」
しばらく両軍の様子を伺いながら待つと、バシネットという鳥の嘴のようなバイザーと、鎖を編んだアヴェンテイルが特徴的な兜を被った、鎖帷子の騎兵が到着した。彼はまず、一行の周りを遠くから一周し、伏兵がいないことを確認してから、慎重に馬を寄せると、くぐもった声で誰何した。
「ハイランド軍である。貴殿らは何者であるか?そして、来訪の意図もお伺いしたい」
アッシュは彼よりも簡易的な兜、サーレットを脱いでから、所属と目的を正直に答える。
それを聞くと、騎兵は兜を脱いで笑顔を見せた。
「共に戦っていただくご意志があれば、上申いたしますぞ」
「我らはこれからさらに、蛮族が制圧する奥地へと進まねばならないから、体力は温存しておきたいんだ。それに、勝ち戦と見てから参戦するのも忍びないだろ?」
「承知いたしました。先ほどの御仁に似たお方を見かければ、丁重に保護するよう、侯爵殿にお伝えいたします。旅のご無事と、任務のご成功を祈念します」
「ありがとう。貴軍の武運を祈ります。力になれなくて、すまない」
騎兵は軍勢のもとへと帰還して行った。
その姿が見えなくなり、しばらく後に、角笛の勇ましい音色が響き、ハイランド軍は前進を開始した。
ハイランドの騎士たちが両翼から突出し、迎撃のために展開した蛮族たちを突破していく。
「見事なものですね…」
ナタナエルはハイランド軍の統制のとれた、一連の動きに魅入っていた。
中央の歩兵集団が蛮族たちと接敵した時には、すでに両翼の騎兵たちが蛮族勢を左右から圧殺し始めていた。
数の差もあることながら、ハイランド軍の半包囲戦法は実に円滑で、かつ有機的でいて、華麗であった。
「圧巻だな…」
辺境騎士団に長く従軍するアッシュでも、これほどまでに一方的な戦闘を見たことはなかった。
「これほどまでに強い軍勢を持ちながら、なぜ、ここまで後退を余儀なくさせられたのか…どう思う?」
アッシュはナタナエルに問うた。
「大橋は水袋の口のような場所です。よほどの大群で押し寄せられた…としか」
「蛮族の洪水…か」
小規模な会戦形式の戦闘は、小一時間もせずに、蛮族勢の敗走へと推移した。
「アシュリンド卿、戻りました。顔を認識できる距離まで近づきましたが…クルト卿と思しき姿は…」
煤炭で顔を縦縞模様に塗り分けた野伏が、申し訳なげに報告する。
「そうか…念の為、死体を見て回ろう」
戦利品を漁る下級兵士たちに混ざり、散在する死体を巡ったが、クルトの痕跡を示すものは見つけられなかった。
「足跡も消されました。少し離れた場所で、改めて痕跡を探しますが…すでに日が落ちかかっております。努力しますが、今日中には難しいかと」
「わかった、頼む」
野伏たちの姿を見送り、アッシュは天を仰いだ。
青い空に、オレンジ色の雲が浮かび、その合間に猛禽類たちが旋回していた。
「地面に戦利品が散らばっているというのに、君は空が気になるのか?」
パヴァーヌ訛りの呼びかけに、アッシュは振り返る。
アーメットを小脇に抱え、汗に濡れた波打つ金髪を風にあてる騎士がいた。
その騎士の甲冑は、胴鎧と腰当てを革紐で繋ぎ、装甲板を減らす代わりに、鎖帷子を多く用いている。可動域を広く取る事を基本設計とするそれは、パヴァーヌ式と呼ばれていた。
武装については、ある意味、病的と言えるほどに執着するアマーリエの側仕えをしていた故の知識だ。
「パヴァーヌの騎士とお見受けいたします。ハイランド軍と共闘しておいででしたか」
「そういう君は、高みの見物を決め込んでいたね。侯爵殿も、気にしておられたよ」
「それほどに、目立ってしまいましたか…これは迂闊でした」
「心象は良くないだろうが、大した損害もなく済んだ。今はご機嫌だから、気にすることも無かろう。察するに…辺境騎士団ではないかな?…ん?おやおや、そう警戒するな。私の目的は捜索だ。辺境騎士団相手に、どうこうするつもりは毛頭無い」
騎士はクルムドと名乗り、ハイランド軍と離れて夜営することを提案してきた。
「…では、行き掛けの駄賃で、戦に参戦したのですか?」
夜営の準備がひと段落すると、アッシュは干し肉をクルムドに譲りながら、話の続きを始めた。
クルムドは礼を述べてそれを受け取ると、肉をナイフに刺して焚き火で煽る。
「目的の人物がいるかも知れないからな…侯爵に挨拶し、長話に付き合っている内に、蛮族の一団と会敵したのだ。望まなくとも、無視はできまい…君らとは違ったやり方のようだが、これが私流の渡世術だよ。おかげで、数日分の糧食を譲り受けた」
クルムドは荷袋からパンを一つ取り出し、アッシュへ譲った。
アッシュはそれを一切れ千切ると、残りをナタナエルに渡す。受け取った彼女はアッシュに習い、一切れむしると残りを野伏たちに渡す。
「…して、アシュリンド卿とナタナエル卿はなぜ故に、本隊と離れて行動しているのであろうか?よもや、恋の逃避行…という雰囲気でもなしに」
ナタナエルは、カヤネズミの塩煮を吹き出した。
「おやおや、毛が残っていたかな?良ければ使ってくれ、私はハンカチで鼻をかぐことはしない」
クルムドはレースのハンカチを差し出すが、ナタナエルは丁重に遠慮し、手の甲で口を拭った。
「私たちの目的も、あなたと同じです。人を探しているのです」
「ほぅ、詳しく聞いても?」
「…いいでしょう。我が騎士団の勇士で、クルト・フォン・ヴィルドランゲという、金色の短髪で、肌が白く…」
クルムドは手で言葉を制した。
「背が高く、均整のとれた偉丈夫だな。確か、シュバルツシルトの森が出身地だ。彼はジョストが上手でな…差し詰め、私の良きライバルだ…その彼が…失踪?いや、攫われたのか?」
アッシュは頷いた。
「蛮族に?」
「そうです。意図はまだ、不明ですが…殺すつもりがあれば、ここに至るまでにすでに死体があったはず。きっと、これよりまだ先…おそらくは北の方角へと」
クルムドは、腰から下げた、油で煮締めた革のポーチを開く。
「縁とは…不思議なものだな…」
彼はポーチから小箱を取り出すと、さらにその中からペンダントのような物を取り出す。マント留めかコサージュに近い作りのそれは、中央の針で紙片を貫いているようだ。彼はそれを手に吊り下げると、何やら呪文のような言葉を紡ぐ…。
ペンダントは数度回転したのち、不自然な動きでピタリと静止した。
「それは…?」
「周囲の円形の金具に、印が一つあるだろう?探し物は、そちらの方角にある事を示している。つまり、北だ。これは、王より授かった魔法の品物なのだよ。失せ物探しのためのね」
「王からの勅使なのですか…重大な任務なのですね…して、失せ物とは…何をお探しで?」
「これが、厄介なシロモノでな…南端の港町を示していたかと思えば、今度は平原を抜けて北の端を指している。まったく、これが正常に動いているのかさえ、怪しいモノだというに…コイツのおかげで、ただひたすらに、東奔西走の日々だ。君の寛大なる騎士団長と違って、王は私一人だけに、この任務をお命じになられた。言葉の通じる相手と見れば、語りかけたくなるのも頷けよう?」
「…いったい、何をお探しなのです?」
アッシュは両手を軽く開いて尋ねる。
「君と同じだよ。人探しだ。ここに挟まっている物に、ゆかりの強い者を探すようになっている。ゆかりの強さについての優先順位などは、分からん。近い者を優先してくれていると、信じてはいるがね。で、これはその者の愛読書を破いた切れ端だ」
麻でも絹でも羊皮紙でもない、紙だ。それも古いもののようで、かなり厚みがあった。
「だいぶ前にその者の住まいを訪れたが、誰もいなかった。領地を持っていてね、領民たちにも尋ねたが、誰も行く先を知らないらしい。それで、トリスケルの指輪と、机の上にあった本を持ち出して来た。まずは指輪を試した。当然の選択だと今でも思う。だが、このペンダントの示す先にあったものは、無骨な墓だった…」
パヴァーヌの騎士を見つめるアッシュの瞳が、徐々に開かれる。
「私は一度そこで、捜索を諦め、王へ報告した。王からは、報酬としてこのペンダントを授かった。この為に調達した魔法の品だが、もう、用無しと思ったからだろう。売れば、それ相応の金額になると言われたよ。だが、その日の夜に、ひどく落胆した王が不憫でならなくなって、ペンダントを眺めていたら…思い出したんだ。もう一つ、愛用品が残っていたとな…」
クルムドは、ペンダントを握り締め、焚き火が照らすアッシュの顔を覗き込んだ。
「どうやら、ハルトマンはまだ生きているようだな…君の反応を伺いたくて、わざと質問を無視した事を詫びるよ。皇帝軍との戦闘の前、ランゴバルトと、クリューニ男爵軍との戦闘の折…それと思しき騎士を見た…という話を聞いた。ハルトマンは一時、辺境騎士団と共に行動し、そして今は別の動きをしている…そうだろう?」
アッシュは、両手で顔を覆った。
「俺はかつて、ハルトマン卿の従者でした」
「…なんとっ?…まさか」
クルムドはアッシュの言葉を疑ったが、彼の雰囲気から、それが真実だと理解した。
「なんと言う…いや、これはアルノルドのお導きなのか」
「詳細をお話しする前に、お聞かせください。なぜ、その者を探すのですか?王は何故、放蕩癖の強かった庶子を今更になって、そこまでご執心なのでしょう?」
クルムドが口を開くまで、誰も何も語らず、焚き火の音だけが響いていた。
「…どうか…この事は、内密にしてほしい。露見するまで、誰にも言わないで欲しいのだ」
アッシュは、ナタナエルを除き、野伏たちには離れるよう、指示した。
「守護神に誓い、約束します。聞かせてください」
先ほどの饒舌ぶりとは打って変わり、クルムドの口調は重かった。
「実は…王はご子息をご病気で亡くされたのだ。もう、男子は一人も残っていない…正室様はご年齢的に出産の希望は薄く、王はご再婚を念頭に置かれておいでのご様子…」
「それで、庶子を…しかし、その者は…残念ですが…別人です」
突如、クルムドから殺気が噴き出し、剣に手を掛けた。
「ここで偽りを申せば、アルノルドの天罰が下る前に、私が君を切り捨てる!」
立ち上がったナタナエルを片手で制し、静かな声でアッシュは話を続ける。
「お約束通り、詳細をお話しします。どうか、お座りください…」
クルムドは剣の柄から手を離し、座り直した。
「このために、一人で長く旅をしているものでな…察してくれ。さて、まずは話を聞かせてもらおう」
「その者は…カラスと呼ばれておりました。信仰を持たず、街の裏路地で恐喝を働くような、どこにでもいるごろつきの類です。しかし、命の危機に瀕した時、恐ろしい剛力を発揮する…おそらくは、そういう類のギフトを授かっていました。カラスは、その力でハルトマン卿を殺めたのです…」
焚き火の音は、なおいっそうに大きな音を立て続ける。
「…その後、俺は卿を埋葬し、彼と旅を続けることにしました。カラスは卿を殺めたために、その町で生きていくことができなくなったからです。俺はその旅の途中で、いつか寝首を掻くつもりでいたのですが…悩みました…ハルトマン卿が、その今際の際で…なぜか、カラスに俺を託すように伝えたからです。卿に全てを捧げるつもりでいた俺は、その言葉に…悩み続けたんです。街から出たことの無いカラスには、行く宛など無かったので、俺はハルトマン卿の領地である小さな村に、彼を連れて行くことにしました。そこはきっと、あなたが訪れた村です。そこで、カラスは自分が殺めたハルトマンという騎士の人柄を知ることになりました。彼はしばらく塞ぎ込んでいましたが、じきに本を…あなたが持ち出したという、それはハルトマン卿が好んで読んでいた冒険譚です。カラスは俺に文字を教わりながら、時間をかけ、結局それらを全部、読破しました。しかも、内容をすぐ忘れてしまうようで…何度も読み返したのです。しばらくして、一つの事件が、カラスの転機となりました。村の近くに蛮族たちが住みつき、住民たちが犠牲になった事を知った折、彼はハルトマンの代役となる事を引き受けたのです」
「蛮族どもと戦ったのか?」
「はい。村人たちに稽古をつけさせ…彼は短刀しか使えなかったので、主に指導したのは、俺ですが…そして、村人たちと共に戦い、苦戦の後に勝利し、村は救われました。それ以来、彼は村人たちから慕われるようになり…なんと言うか…それからと言うもの、全くの別人に生まれ変わったんです。ハルトマンの名を名乗り、村人たちの面倒を見るようになりました。税金が欲しかったわけではありません。彼が要求したのは、わずかな量の農作物でしたので」
アッシュは火の粉が登っては消えてゆく、夜空の先を見上げた。
「ハルトマン卿の精神は、この男に引き継がれた…俺はそう信じて、彼の従者となる事を決めました」
しばしの沈黙…。
「なぜ、今は別行動を?彼は、何を目的に動いているのだ?」
「あの…変な事を言いますが…」
クルムドは口ごもるアッシュに答える。
「もう、癇癪は起こさない。続けてくれたまえ」
「…彼は、一度…死んだのです」
クルムドは、それはそれは、と腕組みをした。アッシュには、彼が心からこの話を信じているとは思い難かったが、ひとまずは話を全部聞いてしまおう、という腹づもりなのだと理解した。
「マンフリード領の迷宮で…その後に姿を見たのは、クリューニ男爵との戦闘の折、遠目に拝んだのが一度きりで…それが最後です」
「皆、口を揃えて言うその話は、実話だったのだな…なんらかの力で蘇り、今は単独行動をしている…」
アッシュは内心、ほっとした。
「そうです」
クルムドは地面に倒れ込み、夜空を見上げながら感慨に耽り始めた。
アッシュは野伏たちを呼び寄せる。
夜の闇の中から、彼らが参集した頃、クルムドは急に立ち上がると剣を抜き放った。
野伏たちは逃げ出し、アッシュは思わず、尻餅をついてナタナエルを押し倒した。
「偉大なる騎士神アルノルドに、クリシュナの子、クルムドが誓約する。我は謎多きハルトマンを捜し出し、彼が何者であるか、必ず解き明かすであろう!どうか、お導きあれ!」
クルムドは己の剣と、その守護神に任務の成就を祈願した。
「…と言うわけだ。私の旅の目的に変更は無い。ペンダントが示す方角へ向かうまでだ!君の事は、いたく気に入ったぞ。この旅を共に続けられる事を願うばかりだ!」
彼はアッシュの隣に腰をかけると、荷袋を三度漁り始める。
「実は、もう一つ、秘密がある。侯爵より授かったのはまずいパンだけでは無いのだ。ほれ、ここに上等な葡萄酒もある!しかし旅には些か、かさ張るが故、一本はここで開けてしまおうじゃないか!もちろん、お二方もお付き合い願おうぞ!」
新たに騎士一人を加えて16名となった捜索隊は、ペンダントの導きに従って北へ向かう。
野伏が蛮族の足跡を捕捉したのは、それから5日後のことだった。
北へ進むに従って、天候が不安定になり、朝には晴天だったのが、昼には雷雲が広がり、時に激しい雨をもたらし、足跡を見失わせた。クルトの居場所とは無関係かも知れないが、再びペンダントだけが道標となった。
旅を難航させたのは、天候だけではなかった。
蛮族の集団に捕捉され、ついには追い付かれて乱戦となった。
雷鳴轟くなか、アシュリンド、ナタナエル、クルムドの三人の騎士たちは、群がる蛮族たち相手にいずれも劣る事無い勇敢な戦いを繰り広げ、撃退することに成功した。
しかし、この戦闘により、一行はどことも分からぬ土地に、二つの墓を掘ることになる。
野伏を二人失い、捜索隊は14名に数を減らした。
いつ終わるとも分からない、危険な旅は続く。
天気の良い日には、草原の空にたくさんのムクドリたちが集団となってうねるように飛んでいる姿を拝めた。
「唯一の安らぎは、このどこまでも続く、雄大な平原の美しさかな…」
クルムドは、鳥たちを眺めながら、そう呟いた。
野伏たちが、移動する蛮族の大集団を感知し、道を大きく迂回しなければならない時もあった。
やがて、カーテンウォールに囲まれた小さな砦を見つける。
場所を変えてペンダントの示す方向を確かめると、その砦を示していることが判明した。
「この場所にある砦となれば、ハイランドか、東方騎士団のものだな」
クルムドの言葉に、ナタナエルは反論した。
「しかし、軍旗がありません。どちらのものにせよ、いずれかの旗があるはずです」
「そうだな…でも…灯りは見える。誰かはいる」
二人の会話にアッシュが続く。
「昼間だというのに、つけっぱなしなのは…どうだろうか。砦に籠る者たちが、敵性勢力である可能性がある。周囲には身を隠す場所も無いから、用心して夜に忍び込むとしよう」
ナタナエルとクルムドも、アッシュの意見に賛成した。
このわずか1時間後、古の伝承「戦記」に登場する天空の支配者の姿を、この14名が目撃することになる。
それは、炎を纏いし、滅びの神の姿であった。
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