第2話 決闘

 二対の魔剣が正面からぶつかると、互いの魔力を削り切らんと果敢に攻めぎ合い、2色のフラクシン発光を伴って悲鳴にも似た雄叫びをあげる。

 アマーリエは、左手で剣の柄を握り、両脚を踏ん張るが、鉄履はジリジリと石畳の表面を滑ってゆく。

 アーメットから覗く首元から、汗が滴った。

 対峙する男の口元には、にんまりと微笑が浮かんでいた。

 アマーリエの体が一瞬浮き上がり、2mほど後退して着地した。

 飛びの退いたのではない。魔力のこもった剣圧に飛ばされたのだ。

 アマーリエは、アーメットを脱ぎ捨てる。

 銀色の髪が、桃色に高揚した額と頬に張り付いていた。

「ロベール…その魔剣は…」

 貴族が好む、ゆったりとした上着に、ぴっちりとした白いタイツに乗馬ブーツ。しかし、その手にあるのは、見たこともない設えの両手持ちの曲刀だった。身幅が狭く、厚みがあり、他の剣のようにしならない。その刃には、雲海の如く白い紋様がうねっていた。

「我が名は、ギスカールだ」

 白い長髪は蛇の尾のようにうねり、女性のような整った顔立ちは青白く、残忍な笑みを浮かべる。

「アマーリエ、こんなところで魔剣を相手にやりあう事はない、下がるんだ!」

 周囲で二人の決闘を見守る両軍の群集の中から、ミュラーは喉を枯らして叫んだ。

 アマーリエの額から垂れた汗が、白いまつ毛に留まって玉になる。

「しつけの悪い犬を飼っているな」

 ギスカールは、刀をくるりと回転させたかと思うと、腰元の鞘に収めた。

 殺気は消えていない。

 その両つま先が、揃う。

 まるで今から、崖底へ飛び降りようとでもしているかのような…不可思議な構え…。

 アマーリエの汗の玉は、まつ毛を避けるようにじわりと移動し…。

 …やがて目尻へと流れた。

 瞬間、ギスカールの身体が、前のめりに倒れた…かのように見えた。

 −下段!?

 石畳ギリギリの軌道で抜き放たれた居合のひと太刀は、アマーリエの股間から下腹までを裂き開く軌道を描き、彼女は咄嗟に、ヴァールハイトの刀身を足で踏んだ。

 閃光が周囲の者たちの目を眩ませた。

 転倒したアマーリエはすぐさま起き上がるが、その手に剣は無かった。

 ややあって…石畳の上にヴァールハイトが落着する。

「驚いたぞ、今の太刀筋を躱わすとは…よもや、お主…今のを知っていたか?」

 アマーリエはゆっくりと、転がったヴァールハイトを拾いに行く。

「魔剣の格が違うんだ!やめろ、アマーリエ!…アマーリエ!」

 辺境騎士団の参謀長の言葉は、団長の耳にはまるで届いている様子がない。

「…ちくしょう、駄目だ、今ので完全に切れちゃったよ!」

 アマーリエが大剣を構えるまで、ギスカールは待った。

「んーさては、その鎧…魔術の産物だな。道理で、身の躱しが軽快なはずだ。そうか、良かろう。ならば、多少強く打ち込んだところで、よもや死にはすまいに…」

 ギスカールが、くるりと背を向けた。

「乗るなっ!」

 ミュラーの声が掠れた。

 突いて出たアマーリエは、何かを感じ取り、その軌道を横薙ぎに切り替える。

 まるで柳のようにゆらりと横に滑ったギスカールの身体は、回転しながら沈み込んでいた。

「春風嫋嫋」

 先ほどの宣言とは裏腹に、その軌道はまるで、春のそよ風の如く…。

 腹部を薙いだ業の使い手を、アマーリエはぎろりと睨み下ろした。

 決闘の成り行きを見守る両軍の兵士たちは、生唾を飲んだ…。

 かくして…、無敗を誇った女騎士団長は、石畳の上に膝から崩れ落ちていった。

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