報復戦艦アヴェリオン 地球は滅び俺は2号勇者ロボの体を手に入れた

臼井禿輝

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「――であるからして、我らカトゥムの文化的側面から見ても歴史的重要な本儀式を絶やさないためにも、今年成年を迎える諸君らが――」


 伝統民族楽曲をBGMに、甲殻に覆われ赤黒い染料でペイントした壮年の男がスクリーンに映し出され、長々と挨拶をいていた。そしてそれを聞いているのは、体に思い思いのペイントをした万を超す同じく甲殻に覆われた若い男女の集団だった。


「──テーブルにお食事お飲み物の用意がございます。しばらくの間、ご歓談ください」


 何人もの長い挨拶の言葉が終わり、司会者の挨拶を合図に会場の参加者は思い思いに動き出していった。


「お、もしかしてアーティンか?」


 名前を呼ばれたアーティンと呼ばれる青年は声のした方へ視線を向けると、全身を覆う甲殻は濃い青色、右肩から爪の先だけがくすんだ白色をし、申し訳程度にペイントを入れた男が酒の入ったグラスを片手に立っていた。アーティンの友人トッグラッグだった。その姿に懐かしさを感じつつもアーティンは、久しぶりに遭遇した友人に挨拶を返した。


「おー、久しぶりトグやん。6年ぶり位か?」

「そうだな、お前が中学の時に引っ越してったきりだからそんなもんか。どこだっけ、元気してたか?」

「イレインⅠだよ。今はさすがに馴染んだけど、最初は痛い奴になってたよ。周りが俺らに慣れてたってのと、同星の先輩から懇切丁寧にOHANASHIされてどうにかね。思い出すだけでも恥ずかしい。親に文句言ったら『通過儀礼だよ』って笑われたよ」

「あるあるだな。俺も大学がナナグⅢだから2年位前に星を出たんだが、似たようなもんだ。外に慣れてからの本星のノリ見るとちょっと引くよな」


 彼らの種族はカトゥムと呼ばれ、大銀河連盟の創設にも関わった上位7種族の1つに名を連ね、今も元老院を務めており、甲殻種の筆頭という立場をとっていた。それ故か、上位7種族以外の種族を下に見る事が多く、彼らの母星クラニスにおいては、それがより顕著に表れていた。

 だがそれは彼らの母星限定での話だった。そんな事も知らずに他の惑星に移り、他の種族との価値観の相違に気づかず周りを見下し、えばり散らして恥をかく。何も知らずに星を出たカトゥムには良くある話だった。

 大半のカトゥム達は事実を受け入れ反省し周りに適応していくが、一部の受け入れられない者たちは母星クラニスに戻っていくのだった。

そして、この成人の儀式はそんな一部の者達によって結成運営されていた。


「良かった僕だけじゃなかったんだね。一応会場の雰囲気に合わせてはいたけどチョットね」

「外に慣れるとやっぱな。にしてもよく儀式に参加する気になったな」


 今回行おうとしているカトゥムの成人の儀式とは、脊椎動物の巣を一つ滅ぼすというもので、まだ爪を振り上げ地べたを素足で駆け回っていた時代から、一部では機械文明が現れた辺りまで行われていた。そして一部の歴史好きのみが知っている程度に廃れた近年、選民思想の強い一派が『カトゥム文化伝統保全委員会』という団体を立ち上げ復活させたのだった。

 また時代が大きく進んだことでスケールアップし、大銀河連盟に所属していない脊椎動物が主導権を握っている星を巣と見立て壊すまでになっていた。これは彼らの感覚では池を1つ埋め立てるのとあまり変わらない感覚だった。

 しかし脊椎種からは、未来の加盟星になるかもしれないと非難の声が上がっていた。


「いやー行く気なかったんだけど、父さんの勤め先のエライ人がここのスポンサーやってるらしくてさ、勤め先で『息子さん今年成人でしょ? もちろん参加するよね?』って釘を刺されちゃったみたいで渋々ね。でもまぁ、そのおかげで懐かしい顔にも会えたわけだし、結果的には良かったなと思ってる。トグやんこそ外に慣れたって言ってたのに何で?」

「嬉しい事言ってくれんじゃねぇか、俺の場合は親が参加しろってうるさくてな、たしか向こうに異星大学に進んだ奴らが居たが、多分似たような理由だと思うぜ。それと、前の方の全身赤に白のドット柄で塗ってる奴らには近づかない方がいい。見りゃぁ分かるだろうが素晴らしき伝統を重んじる一派様だ」


 友人が指さした先には全身を明るい赤色の染料で塗りたくり、甲殻のトゲの先を白く塗った集団がいた。それは古来から伝わる成人の儀式の装飾であり、会場の1/3位はこのペイントをしていた。


「熱狂的だなぁ……あんなペイントなんて小さいころの祭りでやったっきりだよ。言われても近づかないさ。そういえばトグやんは今年の獲物見た?」


 アーティンは若干引いた表情をしつつ、彼らの話はもういいとばかりに話題を変えた。


「招待状に載ってる程度ならな、未接触文明の脊椎種で自滅係数がレッドライン超えてるとかそんなだったか、碌な文明じゃなさそうだ」

「そうなんだけど、大学のサークルに重度の未接触文明オタクの先輩が居て、その先輩が言うには一部の界隈ではワリと有名な星らしくて、こっそりあの星に降りてる人も居るらしいんだ」

「まぁ一応警告流してるし、それでもって奴は自己責任ってやつだろ。一応許可なく降りてはいけないって事になってるんだしな」

「未接触文明ルポの番組って割とあるけどね」

「あれな、先に接触してた奴らの事が壁画とかに残ってるの探して、誰でしょうクイズは結構好きだぜ。って、おー軽く調べてみたら色々出てくるな。『環境破壊による星の汚染』は……まぁどの文明も一度は通る道だし置いといて、この『同族同士で戦争を起こし、互いに星を焼き尽す兵器を作り出し、牽制し合う事で均衡を保っている』って部分ヤベーな。狂ってんな戦闘民族かよ、運よく俺らと接触できても、いきなり襲い掛かって来そうだぜ」

「ホントだ、あ、下の方の備考欄のトコ見てよ、多分これが本命だ」


 携帯端末を使い今回の獲物となる星を調べていると、そこには星の半径から生息動物の種類まで様々なデータが載っていた。そしてその最後にある備考欄の一部に書かれていた種族特性についての表記に問題があった。


「これは……、よくこれまで目を付けられなかったな。いや密猟者位は当然いるか」

「未接触文明って数が割と多いしね、もしかしたら他所が目を付けたから選んだのかも」

「うちならやりそうだ」


 二人して端末をのぞき込み、変なもん作ってるなぁ等、話に花を咲かせていると、不意にホールの証明が弱くなり、ステージに立つ司会者がライトアップされ、声を張り上げた。 


「皆様正面のスクリーンにご注目ください! では、本日のメインイベントを行いたいと思います。」


 ホール全体から拍手が上がり、下手に目立ちたくもないアーティン達も拍手をした。


「では準備が整いましたのでカウントダウンをお願いします。10から参りたいともいますので、皆様もご唱和ください。10、9、8――」


 ステージ後方の巨大スクリーンには宇宙空間が映され、その中心に青い星がぽっかりと浮かんでいた。それを見たアーティンはぽつりと声をこぼした。


「もったいないなぁ、こんなに海の広い星なのに」


 カウントダウンが小さくなるにつれてテンションも上がって来たのか会場の声もだんだんと大きくなってくる。


「――3!!、2!!、1!!、0!!!!」


 カウントが0になった瞬間、スクリーン上では光が画面下から走り、中央に映されていた青い星に吸い込まれていき、


 その青い星は爆散した。


 会場は熱気と歓声に包まれ大盛り上がりとなった。



◆◆◆◆



 居酒屋の個室で男(タナベ テツロウ)は久しぶりの充実感に満たされていた。

 大好きなアニメ、『勇者提督キャプテンブレイバー』(略:キャプブレ)という男児向けアニメの話題で盛り上がっていたのだ。このアニメは、テツロウが高校生の時に放送していた『勇者シリーズ』と呼ばれるアニメの1つで、主人公の少年とロボットが、敵と戦いながら友情を育むストーリーとなっていた。そしてそのシリーズ最終作が『勇者提督キャプテンブレイバー』だった。

 当時語り合いたくてもオタクは日陰者で、特にアニメオタクは肩身が狭く、周りに知られないようにヒッソリと過ごしていた。周囲に何人か同好の士は居なくもなかったが、ジャンル違いの為あまり深くは語り合う事は出来なかった。


 そして時は流れ十数年、30台も半ばになったテツロウは語り合う相手に出会い大いに話に花を咲かせていた。

 相手は『プロフェッサー』と名乗る白衣を着た怪しい老人だったがそんな事はどうでもよかった。アニメ全48話はもちろんのこと、劇場版にOVA、ホビー誌で連載されていたスピンオフ小説まで語り合う事が出来たからだ。

 仕事帰りにホビーショップで遭遇し、意気投合そのまま居酒屋に移り映像作品を一気見して語り合い、今は本編では後半に仲間になったスピンオフ小説の主人公、『アヴェリオン』について熱く語っていた。


 そんな中、テツロウはふと何かがおかしいと、違和感に気づいてしまった。

 テレビ作品一気見の段階で約20時間、更に映画にOVAまで見た。しかもその間、感想を語り合っているからそれ以上に時間は経っているハズと。飲み始めたのは金曜の夜だから仕事の事は置いといて、まず眠気が来ない、楽しいとは言えど金曜起きてから30時間は経っている。そして何よりトイレに行ってない。アニメを見ながらずーっと酒を飲みツマミを食べていた。大はともかく小には何度か席を立たなければならない。もしや!? と股間に手を当てるが湿った様子も無かった。


「クックック……気づいてしまった様じゃな」


 さっきまで笑いながら語り合っていたプロフェッサーを名乗る老人が、雰囲気を変え怪しく笑いながら話しかけてきた。


「こ……ここは一体!? 現実じゃない? もしかして!?」


 テツロウは老人の豹変に驚きつつも声を絞り出した。そして一つの想像に行きつく。


「これから異世界t」

「残念じゃが不正解」


 答えを発するテツロウの声を被せ気味にプロフェッサーが答える。


「え?」

「いや、少しは当たっているかの、おぬしが死んだ所は正解じゃ。そうさな、ここは判りやすく言うと仮想空間で今のおぬしは幽霊みたいなもんじゃ」

「俺……死んだのか……でもいつ? トラックには……」

「ブツブツうるさい奴じゃの、これを見るがいい」


 そう言うと、プロフェッサーはさっきまでアニメを見ていたタブレットを操作し動画を再生する。そして「頭の方は要らんな」と動画のシークバーを一気に後ろに持って行った。すると暗い画面の中に青い星が映し出されカウントダウンの叫び声が流れ始めた。そしてゼロになった瞬間、画面下から光が走り青い星に吸い込まれると、青い星は爆散した。


「え? 今の地球? なんで?」

「まぁ待て、まず話を聞くのじゃ、質問はそれからじゃ。今のはカトゥムと呼ばれる種族、そうじゃなカニ星人の成人の儀式の動画じゃ」


 タブレットの映像が切り替わると、そこにはカニを人間の形に組み替えた様な姿の生き物が表示された。そして画面下には『カトゥム』と書かれていた。そしてそのままタブレットを操作しカトゥムの成人の儀式の説明をした。


「なんでそんな酷い事を」

「そうじゃの、ワシ等の所属する大銀河連盟では、連盟への未加入、一般的には大銀河連盟に自力でコンタクトを取ることが出来ない文明は文明とみなされてはいないんじゃ。地球人だって池を埋め立てるくらいするじゃろう? 今回の件は所詮その程度の感覚じゃ」

「そんな……」

「それと狙われた理由じゃが、公式の発表なんぞ無いからワシの見解になってしまうが、一部の地球生物の特性に、肉体が活動停止するとアストラル体になるとういうのがあっての。アストラル体とはおぬしらで言う所の幽霊を指すんじゃが、これが結構稀有な特性での。これが目を付けられた理由じゃとふんでおる」


 プロフェッサーは話を終えテツロウを見ると、テツロウは眉間に皺をよせ黙っていた。


「どうした?」

「冷静なんだ。怒りも悲しみもあるのに涙が出ない。こんな状況に陥ったら、喚いて暴れて怒り狂うんだろうなぁと思ってたのに」


 プロフェッサーの問いにポツポツと絞り出すようにテツロウは答えた。


「む、それはすまなんだ。言い忘れておったが、おぬしが違和感に気づいた段階で、感情の起伏を抑制させる機能を起動させておるんじゃ。発狂でもさえて話が通じ無くなると困るじゃろ?」

「機能? 起動?」


 機械を操作する様な表現にテツロウは訝しんだ。


「ちょうどいい、今のおぬしの状態を伝えておこう。まず地球がはじけ飛びその結果死んだ。そして、どういう経緯かは知らぬが、おぬしは氷漬けのミイラ状態で宇宙を漂っていたのをワシが見つけたんじゃ。しかも、おぬしの死体には霧散しかけているおぬしのアストラル体がくっついておった。これは地縛霊とでも言うんじゃろかの。そこでワシはおぬしのアストラル体を依り代に降ろして安定させつつ、死体から取り出した記憶を使いアストラル体を補強して出来たのが、おぬしというわけじゃ」

「要するに俺は生き返ったって事……ですか?」

「なんじゃ突然敬語なんぞ使いおって、まぁそう言っても差支えないの」

「や、よくよく考えたらどう見ても年配で尚且つ命の恩人て事じゃないですか。敬語にもなりますよ」

「いらんいらん、おぬしの件も……まぁそんな深い意味は無いし、何より同じブレイバー好きに堅苦しい言葉遣いは無用じゃよ」


 微妙に空いた間に何があったかテツロウは聞きたかったが、空気を読むことに定評のあるジャパニーズサラリーマン。そこは流すことにした。


「さて、今後はどうするかと言う事じゃな。おぬしは自由じゃ、なんせ大銀河連盟の法を守る必要はなく、故郷の法は無くなった。縛るものなど何もない」

「いくら法律が無くなっても道徳的にアウトな事はしないって、しかしそんな事を急に言われてもどうしたらいいのか……何をしたらいいのか判らない」

「いい、わるい、の話ではない。何をしたいかじゃ」

「何をしたいかか……」


 テツロウは、テーブルに置かれたままの酒やツマミにまじって置かれた一冊の本に目に留まった。そのタイトルは『勇者提督ブレイバー外伝 ─蘇った幻の船 報復戦艦アヴェリオン零番艦─』、先程まで熱く語り合っていたスピンオフ小説だった。そしてソレに気づいたプロフェッサーが投げかける。


「復讐、報復か」

「地球をボタン一つで破壊する奴らを相手に? それこそアヴェリオンでもなきゃ無理だ。ジャッジメントソードってな」


 プロフェッサーの問いにテツロウは一瞬心を読まれかとギョッとしたが、隠すように苦笑いしておちゃらけた。

 だかそんなテツロウとは反対にプロフェッサーはにんまりと笑みを浮かべていた。


「言ったな?! いやよくぞ言った! いやー無駄にならなくて良かったわい。さっきここは仮想空間だと言った事は覚えておるか? なら現実世界のおぬしはどうなっていると思う?」


 そして待ってましたとばかりに畳みかけた。


「生き返ったんだから体があるのでは?」

「無論あるとも、それもとびっきりの奴がの! 何はともあれ見た方が早い、急げ急げ! 現実に戻るぞ!」


 やたらテンションの上がったプロフェッサーがそう言うと、目の前が真っ暗になりテツロウは気が付くとまぶたを閉じていた。


 そしてまぶたを開くと、どこかの一室で椅子に座っていた。

 テツロウには見覚えがあった。この部屋はキャプブレで見たアヴェリオンの艦橋だったのだ。

 視線を下に下せば黒地のキャプテンコートに白い手袋、黒地のズボンにブーツ、横を向けば窓に反射して映る冷徹そうな男の顔、これも見覚えのある顔だった。キャプブレの31話から登場するアヴェリオンの対地球人用コミュニケーション端末、リオン(キャプブレ主人公のカケル命名)の姿だった。


「は?」


 身を乗り出して、窓に反射して映るその姿を見ようとすれば、反射に移る男の姿も同じ動きをする。テツロウは目を覚ますとアヴェリオンになっていたのだ。

 リオンではなくアヴェリオン。そうリオンはあくまで端末で、本体のアヴェリオンという超弩級宇宙戦艦が操作しているだけなのだ。だが今のテツロウはリオンを体として動かしていた。


「ようこそ現実に、テツロウ。いやアヴェリオン! 気分はどうだね」

「最悪だ、混乱してパニックになりそうなのに、こうして会話を行い冷静に状況を理解しようとしてしまえる。感情抑制機能様様だ」

「ふむ、その様子なら直ぐにでも十全に動かせるようになるじゃろう。実に結構、機体性能はアニメ準拠、火力は十分じゃろう。なら後はおぬし次第だ。なに心配することは無い。船の動かし方からネットワークの使い方、その他もろもろの知識は既に植え込んである」

「これで復讐を果たせと」

「そんな聞こえの悪い事なんぞ言ってはおらん。まるでワシが嗾けている様な言い分じゃな」

「えぇ……、こんな力を未開の惑星の野蛮人に渡しておいて何を。しかも復讐相手まで伝えておいて」


 アニメ準拠の性能が本当ならアヴェリオンは単騎で星を破壊することが出来るのだ。


「別段ワシもカトゥムが憎い訳でもない。が、アレが褒められた行為とも思えん。一般人としての意見はこんなもんじゃよ、他人の意見を知るのは良いが、かと言って影響され過ぎるのは良くない、程ほどにな。じゃぁ終いにするかの、またの」

「ありがとうございます。生き返してもらった事はとても感謝しているし、キャプブレを語り合えた事も最高に楽しかった、多分やるだろうけど、またどこかでお会い出来たらうれしいです」


 一般人と言ったが、こんな戦艦をぽんと寄こす様な人物が一般人なのだろうか? とテツロウは思いもしたが、別れの挨拶はちゃんとしようと返した。そして、最後にプロフェッサーの「フフッ」という笑い声を最後に通信は切れたのだった。

 


◆◆◆◆



『ブレイバー!!!』


 半袖短パンにキャプテンハット姿の少年、カケル君が悲痛な表情で声を挙げた。その視線の先ではブレイバーと呼ばれた巨大ロボットが、戦場となった港町で満身創痍で膝をついていた。今しがた強敵の、宇宙海賊船船長ヤミダークンを死闘の末に倒したからだ。


『大丈夫だ。提督』

『やったね! ブレイバー! ついにヤミダークンをやっつけたよ!』


 興奮気味に喜ぶカケル君の声にブレイバーは反応できないでいた。その視線の先、海の向こうに浮かぶ機影が見えたからだ。そう、全力を出し切って辛うじて倒せたヤミダークンの海賊船と同じような姿の船が3隻こちらに向かってきていたのだった。


『提督、いやカケル、今すぐここから離れるんだ』

『でも、ブレイバーは!』

『私は、少しでも長く時間を稼ぐ』


 よろめきながらも剣を杖にブレイバーは立ち上がった。


『だめだよ! ブレイバーが死んじゃう! 一緒に逃げよう!』


 カケル君が周りの大人たちに抱きかかえられ、避難させられようとしたその時。


『左舷、重レーザー砲、放て!』


 冷酷そうな男の声と共に、上空から5本の光の柱が3隻の船に降り注いだ。この一撃で3隻の内1隻が爆散し残りの2隻にも被害を及ぼした。すかさず残りの2隻は反撃に移り、上空へ向けて攻撃を始めると、先端にバリアーを張った巨大な戦艦が、片方の海賊船に向かって垂直に突っ込んできた。


『ギガ・チェーンジ!』


 再び男の声が響くと、海賊船に突っ込んでいった戦艦が変形を始め人型になるとそのまま海賊船を蹴り潰した。蹴られた海賊船はそのまま2つに折れ、巨大な波しぶきを上げ海に沈んでいき爆発した。そして残った最後の1隻の海賊船に向けて両腕を突き出すと。


『全重レーザー砲、放て!』


 突き出した両腕の砲身となっている10本の指から、10本のレーザーを放つと、最後の1隻は光に飲まれ消え去った。


『あ……あれは黒いブレイバー?』


 カケル君の声の通り、戦艦からヒト型ロボットへ変形したその姿は色や細部こそ違えどブレイバーに似ていたのだった。


『02、無事だったのか』

『06……』


 ブレイバーの方へ振り向いた黒いブレイバーは、永い時を越え再開したのだった。



 そしてポップなエンディングテーマが流れ次回予告を見ると、テツロウはリモコンの停止ボタンを押した。目の前にはコタツ、壁際には40型液晶テレビ、そしてテツロウはベッドに座っていた。アヴェリオン内を探検していた時に見つけた艦長室、その奥にある扉を開くと見慣れた光景が広がっていた。そう生前の自宅(1K、築20年)、窓と冷蔵庫の中身が無いのを除けば、家具から小物、パソコンの隠しフォルダの中まで全く同じだったのだ。そしてテツロウは、プロフェッサーと別れテツロウの体感で2週間、そこに引きこもっていた。


 その間に何もしていない訳でもなく、自室のパソコンは大銀河連盟のネット環境に対応しており、それを使い様々な事を調べていた。

 まず、プロフェッサーは嘘をついていて、本当は地球は破壊されていないのではと調べてみたが、やはり地球は無くなっていたし、カトゥムが破壊していた。

 ならば自分の様な生き残りが居てもおかしくはないはずと調べたら、数万人程は存在している様だった。以前から宇宙人に誘拐されていた者や、破壊直前に地球から脱出した宇宙人が周囲の空間ごと持ち出したり、ここぞとばかりに大っぴらに大規模誘拐したりと、様々な経緯ではあるが脱出しており、そういった経緯を持つ種族を集めている種族によって集められ、自治区を与えられ難民生活をしている様だった。

 次にプロフェッサーについて調べてみると、『本名経歴不明のマッドサイエンティスト』『愉快犯』『理解不能の変な物はだいたいコイツが作った』などから、都市伝説扱いされていたりして要領を得なかった。

 その他にも、宇宙の旅のルールとマナーといった雑学や娯楽サイトなど、むしろ後半はそこいらに入り浸っていた。

 そして今、気分転換に『勇者提督キャプテンプレイバー』を見ており、ちょうどアヴェリオンが初登場したところまで見て一息つ行けていた所だった。

 そして「よいしょ」と声をあげ、なんかオッサン臭いなぁと思いつつ2週間ぶりに部屋から出たのだった。


 とりあえずテツロウは体の動かし方に慣れなければならなかった。まずリオンの体は普通に体を動かすように動かせたので問題は無かった。しかも劇中この体で白兵戦を行うシーンがあり、艦内にある戦闘シミュレーションで動かしてみたらわりとソレっぽい動きが出来た。

 次に戦艦だ、意識を船に向けると様々な情報が一気に溢れ、目を回してしまった。情報を制限してみたりと色々試した結果、原作アニメを真似るという方法に落ち着いた。リオン君状態で館長席に座り、ディスプレイに必要情報を表示させ、各種兵装は音声と思考操作で行う事にした。例えば「左舷レザー砲撃て!」と音声で、船の左側のレーザー砲に撃つ命令を出し、この時に「ここら辺の敵を狙う」という思考を読み取らせ、後は各砲台が指定された区域の敵に対して自動で攻撃を行うというものだ。自動で動くのもどうなのか一時は考えていたが、すべての敵と砲台を把握して動かす事がとても難しかったため、この形に落ち着いた。

 最後にアヴェリオンのロボット形態だが、これは基本動作はリオン君と同じでいけたが、スラスターによる移動には慣れが必要だった。そして各種武装は戦艦時のものを採用した。ちなみに必殺技は出すまでのバンクシーンを再現しないと出ないという設定になっていた。


 そんな体の動かし方に慣れてきたある日、本当に地球が無くなったのか見てみようと、地球に向かっていた。すると、頭髪の生えたカエルのような異星人から一方的に『その船を寄こせ』と通信が入ったと思うと、威嚇射撃が飛んできたのだ。そう、テツロウは宇宙海賊の襲撃に会ったのだ。

 プロフェッサー以外の初の生の異星人との遭遇に、テツロウは聞いてみたかった事もあり、海賊船1隻を残して他を消し飛ばすと、残した船を艦載機によって航行不能にさせ、物理的に武装解除もさせると、海賊船に乗り込んだのだった。

 途中抵抗はされたもの、白兵戦用ドローンや、自身の武装を駆使し突破、艦橋に立てこもる海賊達を制圧したのだった。そして、海賊達にカトゥムと地球の事を聞いてみたが、海賊達から期待していた程の答えは得られなかった。期待外れに終わった尋問は捨て置き、次に海賊達の設備を使って、今まで調べた事を再度調べてみたが特に違いは無かった。

 テツロウはアヴェリオンで調べた事が、もしかしたらプロフェッサーの仕込みなのではないかと疑っていた。これはテツロウの願望もあっての事だった。しかし、別の施設を使っても同じとなると、嘘ではない可能性が高まってしまった。テツロウは、はやる気持ちを抑えつつも地球へ向かうのだった。


 そして太陽系に到着し、まず目に着いたのは、太陽を円で囲うように広がったアステロイド帯だった。そして青い星、地球は何処にも見当たらなかった。アステロイド帯を詳しく調べると、所々に人工物が見え隠れしていて、アルファベットの書かれた何かも見つける事が出来た。

 諦めの悪いテツロウは、そうだと思い立ち火星へ向かった。火星をスキャンすると、所々に打ち捨てられた探査機の残骸を見つける事が出来た。それを調べてみると、部品に書かれた刻印などからも地球産であることがうかがい知れた。

 テツロウのもしかしたらと言う、淡い願望は打ち砕かれた。


 現実に打ちひしがれ再び引きこもるも、事実を目の前にしても大きく揺れない感情に苛立ちを感じていた。そして感情抑制機能の存在を思い出した。テツロウは急ぎ目線の高さに立体映像でシステムメニューの様な物を映し出すと、タッチパネルの要領で操作していき感情抑制機能の項目にたどり着いた。

 その項目を開き機能を止めてみようとするとアラートメッセージが飛び出した。そこには『注意、初回は仮想空間内で5分間のみ機能を停止する事が可能です。この設定は2回目以降に設定を変更することが可能となります』と書かれていた。テツロウは艦長席に座りなおすと、機能を停止すべく仮想空間に意識を移すのだった。


 仮想空間に着くと、そこは殺風景な白い空間だった。何故か周囲には木や壺や壁、そして1/1サイズのカトゥムが居た。さすがにカトゥムは気になって近づいてみたが、ただの3Dオブジェクトだった。そして、気を取り直しテツロウは感情抑制機能を停止してみた。


 気分は最悪だった。今まで抑えられていた感情が爆発し、怒りと悲しみで叫び散らし暴れまわって周囲の物を破壊。カトゥム人形に至っては原型を留めないレベルで破壊してしまった。5分が経ち感情抑制機能が再び機能し始め冷静になった今でも怒り狂っていた記憶は残っており、体にはカトゥム人形の殻を殴りつけ踏み砕き、中の肉質まで到達した感触が残っていた。


 感情抑制機能が回復し怒りと興奮が治まり思う事は、とりあえず報復はしようという事だった。正直、時間が経つにつれだんだん報復が面倒臭く思えてきていたのだ。だからしなくていい理由を探していたというのもあった。しかし、今回の感情抑制機能を止めてみて、反転、報復は決定事項になった。やらない理由が無くなったのだ。

 次に、感情抑制機能を解除したままに動く事は極めて危険だと思えた。様々な経験をし、あらゆる状況において、冷静に対処し判断することが出来る心を持っているとかなら問題無いのかもしれないが、平凡中年サラリーマンなテツロウには土台無理な話であった。

 だが、短時間とは言え、感情をむき出しにすることで、少しは心が軽くなったと感じられたテツロウは、今回と同じ設定でなら、感情抑制機能を解除してみても良いのかもしれないと思った。

 ちなみに殲滅させられた海賊達に対する感情だが、テツロウの中では『向こうから襲ってきた悪い奴』として処理されており余り心の負荷にはなっていなかった。


 報復するとは言え、どの程度するのかテツロウは悩んでいた。

 報復を辞書で調べたら、『攻撃された事に対し、同等の被害を与える事』の様な事が書かれていた。


 感情抑制機能を外していた時は、某大作漫画の主人公のごとく『一匹残らず! ──』と息巻き、叶わずとも『この身朽ちるまで!』と復讐に燃えていたテツロウだったが、機能が回復し冷静になると急に冷め、それはそれで難しいのではないかと考える様になっていた。

 まずカトゥムだが、全人口の約8割が15個の星を主な住処としており、残りの2割が大銀河連盟全域に散らばって生活していた。確かにアヴェリオンには『ジャッジメントソード』という必殺技があり、それは星を破壊することが出来た。しかし、それには問題があった。

 テツロウは何度か練習でジャッジメントソードを使った事があり、その時に少し気になる事があった。それは、時間がかかる事と連発は出来ないという事だった。

 まず、ジャッジメントソードを発動させる為には、アニメで使われていた約30秒の必殺技のバンクシーンの動きを再現しなければならなかった。テツロウ自身、その動きを再現することは特に苦では無かったが、約30秒無防備にポージングを決めると言うのは、間違っても戦闘中に行える行為では無かった。さらに、ジャッジメントソードを使用するには、アヴェリオンのメインエンジンである、恒星エンジンを暴走させる必要があった。そして、恒星エンジンを一度暴走させてしまうと暫くは50%程しか出せなくなるため、ジャッジメントソードの連発は出来ないのだった。

 ゆえに確実に決めるのなら、奇襲で初手必殺技という使い方位しかテツロウは思いつかなかった。だが、それを15回も繰り返すためには結構な時間が必要だという事が予想された。

 相手だって馬鹿ではない、時間が経てば経つほど防衛戦力は増えていくだろうし、対策も講じられる。さらに時間をかけ過ぎれば、テツロウ対カトゥムの争いから、テツロウ対大銀河連盟の争いになってしまう可能性まで出てくるのだ。


 事前情報が必要だと色々調べている内に、テツロウは興味深い制度を見つけた。それは大銀河連盟に接触し加盟を果たすと、それ以前の罪は大銀河連盟内では無かった事にされる制度があった。もとより、加盟前と後で法律が異なるというのもあるが、これは、ファーストコンタクトでいきなり未接触文明が戦闘を仕掛けてきて、それが収まり加盟を果たした際に、いきなり負債から始まるのはどうなのか、それが文明の先駆者のやる事なのだろうかと議論があり制定されたものだった。

 実際、やっとの事で大銀河連盟と接触出来た程度の文明では、一方的に攻撃できたとしても大銀河連盟側にはさしたる被害が出ることは無い。これは、大銀河連盟内での派閥争いの一環で制定されたものだった。

 しかし、そんな中にも例外はあった。それは『星砕きラーハ』と呼ばれる巨大な魚の様な姿の生物が、大銀河連盟に加盟する前に、惑星を1つとその守備艦隊を破壊したのだ。これはラーハの卵を破壊された惑星の住民が、知らずとは言え盗み持ち帰ったかだ。

 だが詳しく調べてみると、実際は追加で派遣された討伐艦隊すらもラーハは全滅させ、対応に追われた大銀河連盟は方向転換し、意思の疎通を図れそうな種族をかき集め、コミュニケーションを取ることに成功し手打ちにしてもらったと言われている。

 実際は何であれ、表では星1つの被害が容認されたのだ。前例があるのは大きい。


 一回の戦いで一度しか使えない必殺技、理由があれば星1個位なら容認された前例、そして報復とは同等の被害を与える事。その他にも色々考えた結果出したテツロウの答えは、『カトゥムの母星を破壊後、即加盟』だった。感情抑制機能を停止していた時とはいえ『この身朽ちるまで!』の気概はどこ行ったとなるのだが、それには理由があった。

 地球人の生き残りの存在だった。

 機械の体という地球人離れした姿になったテツロウだが、『地球を破壊された事に対する報復攻撃』という大義名分を掲げる為、せっかく生き永らえた彼らに飛び火する可能性があったのだ。それを防ぐために、事に及んだ後は速やかに加盟を果たし、事を無かった事にしようと考えたのだ。ちなみに加盟申請先は、カトゥムと同じ上位7種族でカトゥムと犬猿の仲のコフスと呼ばれる種族にしようとしていた。


 テツロウは、カトゥムの母星クラニスが辛うじて視認できる距離まで船を近づくと、アヴェリオンをステルスモードにし、更に周囲の浮遊物を集め囲いカモフラージュした。



◆◆◆◆



 惑星クラニスの地方都市の一角にある古びた雑居ビル、その一室に吹けば飛ぶような弱小ネットワークテレビ局『チャンネル2982.194』はあった。そこで編成局長と書かれたデスクを構える黒地に深緑のグラデーションの甲殻の男が、普段なら読まずに捨てる様な差出人不明メールをたまたま開いてしまった。そこには、『お前たちに報復しに来た、理由を知りたければ取材に来い。条件は生中継出を流せる事。時刻は今から20時間後、座標は──』と書かれていた。

 何か琴線に触れたのか、編成局長は他局に務めている知り合いに連絡を取ると、暫く考え込み周囲を見渡して暇そうにしているリポーターを見つけると呼び出した。 



「あんなの絶対イタズラメールよ、あんな所に行ったって何もないに決まってるじゃない! しかも無かったら無かったなりに尺を埋めれるモノを撮ってこいだなんて馬鹿にしてるの?」


 謎のメールに記された座標へ向かう高速艇の客室で、薄い赤に白の斑模様の甲殻のカトゥムの女性は毒づいていた。


「アルピエさん、もうすぐ指定された場所が見えて来るっスよ」


 機内放送で操縦室から声がかかった。それを聞いてアルピエは愚痴を止め、鏡の前で身だしなみを整え始める。


「聞こえてますか? 寝てるんスか!? 起きてくださーい!」

「ちゃんと聞こえてるわよ! 今向かうとこ」


 そう声を張り上げると、アルピエはヒールをカツカツ鳴らしながら操縦室に向かうのだった。


 テツロウはアヴェリオン艦橋でレーダー画面を眺めていた。白い小さな点が少しずつ近づいていたのだ。その小さな点から発せられている信号情報で、クラニスにあるテレビ局『チャンネル2982.194』所属の高速艇であることが判った。

 この事にテツロウは少し残念に感じつつも安堵していた。多くの報道機関が来た場合を踏まえて、格納庫の一角に会見会場の様な物を用意していたのだ。しかし今向かってきているのは一隻、折角用意したのに出番は無くなってしまったのだ。だがもう一つの懸念、誰も来ないんじゃなかろうか。という心配は解消された。一応誰も来なかった場合の計画も立ててはいたが、使わずにすんで良かったと感じていた。

 そろそろ距離も時間もいい感じになって来たので、テツロウはアヴェリオンに施したカモフラージュを崩し、ステルスモードを解除すると、来るのが一隻なら向こうの船で取材を受けるのもいいなぁなどと考えていた。


「うわ……本当に居るし、あまり見ないタイプの船ね」


 指定された座標に近づくにつれアルピエの目に映ったのは、浮遊物に囲まれた一隻の角ばったデザインの戦闘艦だった。その声に運転席のロンスァルが続く。


「艦船登録番号は無し、あまり見ない形状の船ッス、大きさ的には駆逐艦ッスかね? 武装の形状も結構古そうなデザインしてるッスよ」

「番号無し? それって海賊ってこと? 他に何かセンサーに映ってないの?」

「海賊以外にも未接触文明の船の可能性もあると思うッスが……。あと周囲に他の機影は無いッスね、あの一隻だけッス……逃げるッスか?」

「そうね、未接触文明の船が、連盟の中心部近くのこんな所まで入ってこれるとは思えないわ」


 艦船登録番号が無いのは、テツロウは未接触文明のため船の登録が出来ていないだけなのだが、大銀河連盟内では、一般的に登録番号が無い船は宇宙海賊として認識されている事が多い。そして、アルピエもその判断に従って、逃げようと判断を下そうとしていた。

 その時だった。ピピピ……ピピピ……と通信回線の呼び出し音が鳴ったのだ。二人は目を合わせ頷くと、アルピエがマイクを取り、恐る恐る声を出すのだった。


「……はい」

「メールを受け取った者か?」

「はい、私『チャンネル2982.194』のアルピエと申します。本日は取材に来て欲しいという事でお伺いしました」

「よろしい、ではそちらの船向かおう」

「いえ! 出来れば、このまま通信でお願いしたいのですが!」


 アルピエはとっさに反応して返事をした。海賊の可能性がある人を、いきなり船に乗せるなど恐怖でしかなかったからだ。そしてそのまま続ける。


「未接触文明の方とお見受けします。だとするとお互いに未知のウイルスを持ってる可能性があり、双方において危険と思われますので、通信越しでお願いさせていただければと思います」

「そうか、それではお互いに映像を繋げよう」


 まくし立てる様にとっさの言い訳を放つアルピエに、テツロウは言われてみればそうだなー感覚で真に受け感心すると、了承したのだった。

 そしてアルピエたちの船のメインモニターに映ったのは、若い脊椎種の男と思われる姿だった。


「さて、改めて、私はアヴェリオン。報復戦艦アヴェリオン、諸君らが未接触文明と呼ぶ者だ」

「チャンネル2982.194所属のリポーター、アルピエです。こちらがアシスタントのロンスァル」

「どもッス」


 ロンスァルの挨拶に対して、アルピエは横目にキッと睨み、ロンスァルは縮こまった。そんなやり取りを画面越しに見つつテツロウは、サブモニターの一部にチャンネル2982.194を表示させると、リオンの姿の自分が映っており、軽く首を動かすと画面上でも同じ動きを見せた。内心では中継始めるなら始めるって言えよなーと毒づきながら、中継が始まっている事を確認した。


「告げる。地球が破壊された事に対する報復として、クラニスを破壊する」

「は?! 何故──」

「理由は、今期初頭に『カトゥム文化伝統継承委員会』によって行われた成人の儀式だ」


 一瞬反論しかけたアルピエだったが、その後に続いた内容でピンときた。一部の頭の古い連中が何をやっているのか。そう『脊椎種の巣の破壊』だ。そしてテツロウの話はまだ続いていた。


「故に報復として『甲殻種の巣の破壊』を行う。これより1時間後、報復を開始する」

「どうして1時間の猶予を用意したのでしょうか?」

「何故自分たちが害されるのか、その理由を知らなければ、自らの行いを悔いる事ができないかだら。無論、逃げ出すのも自由だ。以上」


 これはテツロウの考えた小細工で、聞かれずとも答える予定だった。カトゥム達の文明レベルからすれば、自家用機で数十分もあれば星を出る事位造作も無い事を知った上で、1時間の猶予を与え、更に『逃げてもいいよ』と言ったという証拠を残すことで、少しでも無かった事にしてもらう為の判断材料になればとの行いだった。

 そして言い終わったテツロウは、一方的に通信を切ったのだった。

 一方、通信を切られたアルピエ側は一瞬あっけに取られたものの、『現場からは以上です』と取り繕い強引に中継番組を終わらせたのだった。


「ふう、どうにかなった……かなぁ?」


 安堵のため息を漏らすテツロウの目の前のモニターには、何パターンもの劇中のアヴェリオン特有の言い回しを使った会話の原稿が表示されていた。もっと他にも言いたいセリフはいくつもあったのだが、いざ話し始めるとボロが出そうになり、結局最低限の内容を伝え終えると強引に回線を切ってしまったのだった。そして横目にチャンネル2982.194を見ると、アルピエが中継を終えようとしていた。


 中継を終えたアルピエたちは本社と連絡を取っていた。


「編成局長、未接触文明の船が一隻いて言いたい事言い終えたら切られちゃいましたよ」

「切られちゃいましたよじゃねぇ、繋げ直せ! まだ尺残ってんだ」

「やってみましたけど繋がりません。でも本当に未接触文明なのか怪しくないですか」

「確かに。普通に回線繋げてきて、普通に会話も出来ていたからな。どっかの暇な脊椎種の嫌がらせの線もある」

「それと、クラニスの防衛艦隊になにか動きはありましたか?」

「公式発表はねぇな。悔しいがウチの発信力じゃ、ネットの一部界隈でざわついかせる程度の事しか出来ない。その程度じゃ動かないだろ」

「はー、とんだ無駄足でしたね、これから戻ります」

「ダメだ。まだ目の前に例の船居るんだろ? 1時間後にそいつがどう動くかまで撮ってからにしろ」

「えー、でも──」


 その後も言い合いは続いたが、アルピエの意見は通らなかった。



 テツロウは、カトゥム駐在の防衛艦隊や、他の戦力はここまで来ないと踏んでいた。巡回中のパトロール艦はもちろん、近くにワープ用の巨大ゲートも無く、どんなに急いでも1時間ではたどり着けない位置を選んだからだ。なにより、カトゥムに未接触文明の一隻の小さな船に脅威を感じろというのが無理な話なのだ。


 そして一時間が過ぎた。テツロウは頬を叩き気合を入れると、「ギガチェーンジ!」と叫び、そしてアヴェリオンは変形を始めた。

 キャプブレは低学年男児向けのアニメであり、その商品(おもちゃ)の販売コア層も同じに指定されていた。なのでアヴェリオンの変形手順も至ってシンプルだった。アヴェリオンの戦艦形態は、他にも細かい動きはあるが大まかに説明すると、ロボットが両足を真っすぐ前に出して座り、両手は小さく前ならえをし、背面のバックパックを90度後ろの回転させ、接続位置を背中から腰に変えるだけである。

 その変形も劇中の変形バンクシーンを再現しており、細かいポーズやパーツが光ったりなどしていた。そして変形を終えポーズを決めると、テツロウはすかさず必殺技に入る。


「ジャッジメントォ!ソーーーードッ!!!」


 大声で叫び胸を張るアヴェリオン、胸部パーツが上下に開き、中から棒状のパーツが回転しながら飛び出した。それは剣の柄だった。勢いよく回るソレを右手で掴み取ると、左手も柄を握り胸元に掲げる。すると柄から光の刀身が生み出され、一本の大剣となった。それを振り回しながら横に1回転し、両手を顔の横へ『霞の構え』をとる。その剣先はクラニスを向いていた。


「恒星エンジン! フルドライブ!!」


 更に叫ぶと、光の刀身の輝きが一層強くなり、また切っ先の少し先に黒い渦の様な球体が作り出される。


「一閃!」


 掛け声と共に、光の剣を突き出す。突き出された光の剣は黒い渦に飲み込まれていき、刀身全てを飲み込むと黒い渦は消滅した。そして、後ろに振り向き柄のみとなった剣を血を払うかの様に振ると、そのはるか遠くではクラニスに一瞬赤いヒビが全体に走り、一泊置いて破裂した。


 感情を爆発させたくても出来なくて、感情抑制機能を停止させたいとはやる気持ちを抑えながら、テツロウはゆったりと余韻を持たせ柄を胸元に収める。そして、再び「ギガチェーンジ!」と叫びアヴェリオンを戦艦モードにすると、ステルスモードを起動させその場を去っていった。

 そして、恒星エンジンが落ち着つくと、黒い渦を使ったワープを行う。これを何度か繰り返し、コフスの勢力圏内に入ると大銀河連盟への加入を申請するのだった。

 その道中に、テツロウは仮想空間に居た。再び感情抑制機能を止めようというのだ。設定は前回と同じままに、レーダーの圏内に何か入った場合は中止するという項目を追加して及んだ。未だ怒りもあったが、吹き出し、笑い、泣き、爽快でもあった。強い解放感を感じたのだ。報復をしなければという思いは、自分で思ったよりも強く圧し掛かっていたようだった。そのまま時間いっぱい笑って泣いて過ごしたのだった。


 そして、少しはもめるかと思われた申請はとんとん拍子で進んだ。カトゥム側からの横やりが想定より弱かったからだ。これはカトゥム側の混乱がまだ落ち着いていなかったというのと、タカ派の重鎮の多くがクラニスと運命を共にしたからだった。

 そして、テツロウは『宇宙船を依代にした地球人のアストラス体』ではなく、『アストラル体を宿した単独種の機械生命体』として登録したのだった。

 そして今回の一件は、宇宙を彷徨う滅びた文明の機械生命体が、破壊された地球跡で地球人のアストラル体から話を聞き、それが亡き製造者とリンクしてしまい報復行為に及んだ。という筋書きとなった。

 そのほうが色々都合が良かったからである。

 またこの時、コフスの役人にプロフェッサーと名乗る人物について聞いたところ、『自らをプロフェッサーと名乗っており、その卓越した科学力でアストラル体に至り、上位次元に到達したマッドサイエンティスト。という存在なら聞いた事がある』という答えが返って来た。そしてテツロウは、変な物が付いてないか改めて艦内を捜索しようと心に決めたのだった。


 申請は受理され、無事クラニスの破壊も容認された。意外とカトゥムの敵は多かったようである。



 そして1年が過ぎ、テツロウは宇宙海賊に襲撃されていた。調べてみると裏でカトゥムが賞金を懸けている事がわかった。

 テツロウは書類上は前科無しとなっているが、カトゥムからしたらそれは容認できない事だったようで、海賊や犯罪者を使ったり、装ったりして何度も襲撃を繰り返していた。

 最初の内は隠していた手の内も、アヴェリオンが『勇者提督キャプテンブレイバー』の登場人物だと知られ、その性能が作品に準拠している事が判明すると、今はまだ性能で凌駕しているからいいものの、いずれ効果的な対策が講じられてしまうだろう。その前にどうにかしないと、と頭を悩ますのであった。

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報復戦艦アヴェリオン 地球は滅び俺は2号勇者ロボの体を手に入れた 臼井禿輝 @usuihageteru

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