第4話 Case2 遅い初恋(中編)

「あれぇ? これ、毛玉から7本しか糸が出てないんですけど? 奇数なんておかしいです!」

 ダマになった赤い糸を持ち上げた天使のミウが声を上げる。


 人間の恋愛をサポートする部署で働く、リオンとイブとミウの3天使は今日も任務の為に人間界に来ていた。

 他の部署の天使から、小さな赤い糸の絡みがあるとの連絡を受け、さっき対応に駆け付けたのだ。

 

 そしてその小さな毛玉から赤い糸が7本しか出ていないことにミウが気付いたのだ。


「わぁ、これは珍しいケースね、嫌だなぁ」

 イヴが少し暗い声で言った。

「これは、どういうケースが考えられるか分かるかいミウ?」

 リオンがミウの勉強を兼ねて質問してみる。


「えっと、誰とも繋がってない糸が1本あるんですよね。そして、そういう糸は、普通の糸より静電気に引っ張られるように、糸玉になった部分に引き込まれやすいので注意が必要。これは、そういう糸が引き込まれてしまっているケースです」

 ミウは丁寧に回答を言う。


 リオンはミウの回答を聞き、頷いた。

「そう、正解だよ」

 微笑んでそういうリオンをみてミウがほっとした顔になる。


 リオンはいつものように糸の状況を確認した。

「……この糸、まだ大丈夫だ、引っ張ってみて」

 リオンに言われ、ミウが糸をゆっくり優しく引っ張ると、だまになっている部分からスルスルっと赤い糸が引き抜かれた。


「まだ絡みかけて間も無かったし、この糸を持つ人は意志が強いから、簡単には絡まないようだね」

 リオンはミウが引き抜いた糸を掴み情報を読み取った。


「この女性、わずか13歳の時に交通事故で相手を亡くしているみたいだね。でも、出会う前だったから、相手の事を何も知らず、ただわけも分からずに一人で孤独に耐えて来たんだね」 

 リオンは落ち着いた声で言う。


「13歳からって、普通、相手が亡くなった場合、速やかに保護処理がされるはずですよね。それに、切れた部分が修復され新しい糸と繋がる準備が終わるまで、他の糸と絡まないように先端をカプセルで保護されるはずなのに。これって、また繋ぐ課の怠慢ですか?」

 イヴが少し抗議するような口調で言う。


「いや、どうだろ? もしかすると計画的なのかもしれない。繋ぐ課の優先順位の決め方は、副作用に弱い人優先だから」

 リオンは冷静に判断して言うが、イヴは少し腹を立てているようだ。

「計画的にしても13歳からほったらかしって! 17年近く放置されていたってことですよ!?」

「まあ、確かにね」

 リオンは苦笑いする。


「あ、近くに保護糸があるわ!」

 突然、ミウが声を上げた。

「保護糸って?」

 ミウが知らない言葉を聞き反射的に聞く。


「さっきイヴが言っていた、他と絡まないように先端をカプセルで保護された糸のことだよ。つまり、繋がっていた相手が天命を全うした為に切れた糸さ。ほら、この糸の先端にカプセルを被してるやつだ」

 リオンが指差して言う。

「へえ、始めてみた」

 ミウは少し嬉しそうに言う。

「通常、僕らが扱う事はまずないからね。繋ぐ課が管理している」


「職権発動して繋いじゃう?」

 イヴがそう言い、期待した目でリオンを見た。リオンは微笑む。


「ああ、やってしまおう。魂のレベルも合っていて相性は良さそうだ。それに、どちらも新しく繋がる準備も整っている。わざわざ繋ぐ課の手を煩わす必要もないだろう」

 そう言い、リオンはカプセルで先を保護されている糸を持ち上げた。

 そして、先ほど引き抜いた糸の先を、カプセルの中に差し込む。


「え? それでいいんですか?」

 ミウが驚いたように言う。

「ああ、これで、中で少しづつ繋がっていくはずだ」


「こっちはどうする? 6本が絡んでいるやつ」

 イヴが聞くと、リオンより先にミウが口を開いた。


「これは赤い糸の相手を間違えちゃった人がいて、間違えた2人を中心に、本来の運命の相手の糸が絡んだケースですよね。だから6人分の糸が出てる!」

 僕にもわかるという感じでちょっと誇らしげにミウが言う。


「うん。そうだね。イヴ、ほどけるか?」

「6本だし、なんとかできそう。やってみるわ」

 イヴはそう言うと、糸を滑りやすくするスプレーをかけた、糸をほどくための長い針を出して作業に取り掛かった。


「なるべく糸を傷つけないように気を付けて、傷がつくとその人の負担になるから」

 リオンは作業するイブに向かって言った。

「ええ、分かっているわ」

 イヴは頷き、丁寧に糸をほどいた。


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