第5話 幼馴染みとは理不尽なものである

「こういうのでドキドキするなんて鉄板だもんね~」


 顔を横に向けると、再びこちらに顏を近づけ耳元にふぅ~っと息を吹きかけてくる。


「ふぁ!?」


 変な声が出てしまったので急いで口を抑えると、周りが変人みたいな目で僕を見てくる。

 恥ずかしがっているのを見て、紅羽は笑いを堪えている。


 性格悪いな、こいつ。


 やられっぱなしはムカつくので、隙を突いて彼女の柔らかい頬を再び引っ張る。


「ひゃぁ~! 頬引っ張らないへ~、ごへんってば~」

「許さん」

 

 周りからはバカップルだと思われようが、関係ない……一矢報いてやる。


ひひはへんにひほいい加減にしろ~!!」


 瞬間僕の顎に彼女の頭が直撃する。


「いってぇ~!!」「いったぁ~!!」


 互いに互いの負傷部分を抑える。

 一部の他校の男子生徒以外は温かい目を見てきていたのに気が付いた。

 因みにその男子は今にも血涙を流しそうだった。


 リア充には死を……っと物騒な声も混ざって聞こえている気がするが、聞かなかったことにする。


 他校の男子生徒は紅羽の事を知っているからか、僕を睨みつけてくる。

 この状況は不味いかもしれない。

 だが、紅羽に一矢報いれた代償としてこの程度で済んだのは安い方だ。

 彼女は「うぅ~」っと頬をさすりながら僕をジト目で見てくる。


「全く、女の子の頬を引っ張るなんて……重罪だよ?」

「すまん」


 よくよく考えてみれば、少し、ほんの少しやりすぎだった気がしたので謝った。


「これは、今度何か奢って貰わないとな~」

「何言ってんだよ」


 君が悪いんだろう。

 口に人差し指を当てて悪魔の笑みを浮かべながら、意味の分からないことを言いながら理不尽な事を言ってくる。


「僕、さっきからおちょくられてたんだが?」

「当然でしょ~、私が学校でなんて呼ばれてるか知ってるでしょ?」

「オタクで僕を巻き込む貧乳台風娘」

「歯を食いしばれ」


 拳を彼女が顔の前でキュッと握っているのを、どうどうっとなだめる。

 学校の三大美少女

 僕の通う学校には何故か他校からそう呼ばれる三人の美少女がいる。

 一年生の綾辻あやつじ 紅羽くれは、二年生の 一色いっしき あおい先輩、三年生のひいらぎ ゆかり先輩の三人だ。

 それぞれに親衛隊がおり、特に紅羽のファンクラブは体育会系の奴が多いので、紅羽がしょうもないことを言えば、もれなく親衛隊に酷い目に合っている。


「私の親衛隊に話したら貴方、どうなるかしら?」


「はい、奢らさせてもらいます!!」


 彼女の頬を引っ張るなど万死に値する! とか言われて、今度は何されるかわかったもんじゃない……。 


 前回なんか、屋上からプールに投げ込まれた。

 理由は、なんかしょうもなかった気がするので思い出せないが、酷い目に遭ったことだけ覚えてる。

 なので、反射的に彼女の提案に同意してしまった。

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