2.流星
「もう、捨てるものだからって神様がくれたの。」
そう言って開かれた彼女の手の中には、仄かに輝く星のカケラがあった。
死にかけのホタルのような、今にも滑り落ちそうな光が私たちを照らす。
地面にも届かない微かな光が、私たちを見守るようだった。
「これはあなたが持っていて。」
星のカケラを私の手に乗せて握り込ませる。
彼女の体温が沁みたそのカケラは睡夢の残り香のように、刻一刻とぼやけていく。
彼女がいつか言っていた言葉を思い返していた。
流れ星は、消えるその一瞬に願いを叶えるのだと。私は墜ちるために生まれたのだと。
悲しみに満ちたその言葉をあたためる術を私は知らずに、滝のごとく過ぎる時間を、両手で受け止めようとするだけだった。
「生きてくれないか。私が君のそばで、願いつづけるから。叶わなくたっていい。君がいてくれれば、それで───。」
塞がれた唇が、朝を告げる合図だった。
私のことを覚えていて。と言って目を閉じた彼女の諦めを、私はただ焦燥にまみれて聞く。
心にわだかまった言葉の糸が、絡まって一向に形を持たない。言いたいことは無限にあったのに、それは声にならない。
地平線に、光のもやがわずかに浮き出る。
明るさと形容することすらできない暗さが、眠る気配を見せる。
その瞬間、彼女は、私の瞬きと同期するようにかき消えた。まるで、最初からそこにいなかったのではないかと錯覚してしまうほどの一瞬。残像すら残さずに、彼女はどこかへ行ってしまったのだ。
漏れ出る涙を抑えることができなかった。
星のカケラを抱きかかえて、震える指を、確かに握る。このわずかに残る温度は、私の体温だろうか。それとも、彼女のものだろうか。
この身が灰になっても、私だけは彼女のことを覚えていられるだろうか。
空の言葉 @ka_mony
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