第5話白井円も動く
目を覚ましてスマホを手にすると珍しく通知が届いており、それを確認することとなる。
「宿題って終わってる?」
相手はクラスメートで隣の席の白井円だった。
「うん。大体ね。あと少しって感じ」
返事をするとすぐに追加でチャットが送られてくる。
「良かったら一緒にやらない?今日は珍しくバイトも休みなんだ」
「そうなの?僕は良いけど。何処でやろうか?」
「えっと…駅前の喫茶店は?」
「あぁ〜。良いね。何時頃に集合にする?」
「正午で良いかな?」
「わかった。じゃあ準備するから」
「了解」
そこでチャットのやり取りを終えると僕は階下に降りていく。
洗面所に向かって身だしなみを整えるとリビングに顔を出した。
「おはよう。今日は何処か行くの?」
岬は僕の様子を見てその様な言葉を口にするので一つ頷いて応えた。
「もしかして…デート?」
成海は少しだけ誂うように僕に問いかけてくるので首を左右に振る。
「そんな良いものではないですよ」
「否定しないってことは女の子と遊ぶんだ!?浮気だ!」
港は嫉妬のような言葉を口にすると食って掛かるように僕の元まで向かってくる。
「やっぱりあの娘とデートなんでしょ!?好きなの!?」
「デートってわけじゃないけど…夏休みの宿題を一緒にするだけだよ」
しっかりと事実を言って応えると彼女らは顔を見渡して苦笑していた。
「定番な口実だよね」
「それ。私の友達もそれを使って夏休み中に付き合ったみたいだし」
「私も聞いたことある。一番手っ取り早い方法だって」
三人は意味深な言葉を口にすると僕に向き直る。
「お姉ちゃんたちもついて行くからね」
岬が断定的な言葉を口にするので僕は否定の意味で首を左右に振る。
「困りますよ。相手だってびっくりすると思いますし…」
「わかった。じゃあお姉ちゃんたちもたまたまそこに用事があった体で尾行するから」
成海も提案というよりも断定的な言葉を口にして三姉妹は頷いていた。
「お兄ちゃんに拒否権は無いからね!?」
「………。もう好きにして」
彼女らに受け答えするのにも疲れてしまい僕はもう一度しっかりと準備を整えると鞄に荷物を詰め込んで家を出るのであった。
もちろん後ろからバレないように僕を尾行する影は三つ存在している…。
目的地の喫茶店に辿り着くと席を確保していた。
鞄を机の上に置いた辺りで白井円も店を訪れた。
「早いね。こんにちは」
「こんにちは。まだ何も頼んでいないんだ。一緒に行く?」
「うん。ちょっと待ってね」
白井円は鞄を対面の椅子に置くと財布だけ持って僕の後を付いてきた。
「何頼む?」
「んん〜。脳を使うから甘い系かな」
「じゃあ僕もそうしよう」
そんな他愛のない会話を繰り返して店内の隅の席に目を向ける。
そこでは三姉妹が飲み物を飲みながらコソコソと僕らの様子を眺めている。
もちろん彼女らなりに変装のようなものをしているみたいで三姉妹の存在に気付くものはいなかった。
大きなため息のようなものを吐いて注文をすると商品を受け取った。
僕と白井円は席に戻ると宿題を広げていく。
「家ではどう?」
白井円は急に僕の私生活を伺うような言葉を口にしてくるので軽く首を傾げた。
「だって…三姉妹と一緒に過ごしているんでしょ?疲れない?」
「まぁ。もう慣れ始めてきたかな。皆僕に優しくしてくれるし」
「そうなんだ。珍しいね」
「何が?」
「いや…三姉妹が男子と仲良くしているのが」
「あぁ〜…義理でも姉弟だからかな」
「そういうものなんだね…なんかちょっと怖くない?」
「怖い?」
「うん。企んでいるんじゃない?」
「そんなわけ無いでしょ」
適当な会話を繰り広げながら僕らは宿題を進めていくのであった。
喫茶店には正味三時間ほど滞在していただろう。
「何処か行かない?もう少し一緒にいて最後は夕食とかどう?」
白井円は僕に問いかけてくるのだが僕は首を左右に振って断りの言葉を口にする。
「家に帰って皆で夕食取らないといけないから。父も再婚したてだから…夕食ぐらいはみんな一緒に食べたいっていうんだ。だから…ごめんね」
「うんん。良いの。我儘言っただけだから」
「ごめんね。また今度何処かに行こう」
「良いの?」
「もちろん」
「ありがとう。じゃあ行き先考えておくね」
「うん。僕もそうするよ。じゃあまたね」
「また」
喫茶店の前で別れると僕はそのまま帰路に就く。
少しすると三姉妹が僕の元までやってきて誂うように口を開いた。
「良い感じだったね」
「相手は絶対に好意があるわよ」
「ちゃんと断ってよ!」
三者三様の言葉に適当に頷いて応えると僕らは揃って帰宅する。
本日も十九時過ぎに家族が全員揃ってから三姉妹が作った夕食を食べて過ごしていくのであった。
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