第3話長い夏休みの日中

「他に兄弟は居ないの?お父さんは離婚したって聞いたけど…離れ離れになった兄弟はいる?」

リビングのソファで三姉妹に囲まれた僕は質問攻めを受けていた。

「いないです。子供は僕だけだったので…」

「そっか。なんでお父さんの方に着いていこうと思ったの?」

「母は…僕らを裏切ったような行為をしてしまったので…」

「あぁ〜…そっちもそういう感じなんだね」

「えっと…お姉さんたちの父親も?」

「そうだよ。原因は色々とあったと思うけど…それが決め手みたいだね」

僕はわりかし岬とは話しやすいと感じていた。

何故なら彼女は大学二年生で僕らよりも遥かに大人に感じたからだ。

年が少しだけ離れているような世代が別と言うか…。

大人に構ってもらっている様な感覚がして素直に甘えられると言うか他の姉妹に比べると話しやすさを感じていた。

「その御蔭で私達も恋愛に奥手になってるよね。簡単に男性を信じられないし」

成海が話に割って入るようにして口を開くと呆れたように首を左右に振った。

「ホントにね。何の関係性もない男子から告白されても全然嬉しくないし…付き合う気になんてまるでならないから…毎回断るの面倒だし困っているんだ」

港も同意見と言うように話に割って入るとウンウンと頷いていた。

「やっぱり…沢山告白されるんですか?」

何故か僕は敬語で質問をすると彼女らは薄く微笑んで答えをくれる。

「合コン、飲み会、デートの誘いは夏休み中だって言うのに毎日誘われるよ」

岬はスマホを取り出すと僕に画面を見せてくる。

そこにはいくつもの男性からの誘いの文言が表示されていた。

中にはチャットで告白をしてくるような男性もいて僕は顔をしかめた。

「皆…友達なんですか?」

「全然。殆ど話したこと無いよ。私の女友達から勝手に連絡先を聞いて…勝手にチャット送ってくるって感じ。殆どやり取りもしないんだけどね。正直に言うと顔と名前が一致しないし。何処の誰かもわからないんだよね」

「えぇ〜…それなのに告白されるんですね…凄いなぁ…」

正直な感想を口にしてほぉ〜っと息を漏らしていると対抗するように成海も僕にスマホの画面を見せてきた。

「これ全部告白してきたチャットだよ」

成海のチャット欄には未読のものが数百件存在しており僕はゾッとする。

「え?待って…これ全部が告白ですか?」

「そうだよ。酷い人は毎日返事もないのに告白してくるからね。それでこんな数字になっているんだ。ブロックするのも怖いから未読でシカトしている」

「シカトも怖くないですか?学校でなにかされたり言われたりしないんですか?」

「いやいや。こういう人は大抵ネット弁慶だから。リアルでは何も言ってこないし直接告白してくる勇気もないんだよ。ってかちゃんと話したこと無いのに私が付き合うって思われているのが不快」

「そうですね。でも男子の気持ちは少しだけ分かるような気もします」

「どうして?」

「えっと…付き合ってから距離を近づけようとしているんじゃないでしょうか?自分は既に好意があるので…相手がもしも了承してくれたら…付き合ってからスタートっていうか…本気出すみたいな感じじゃないでしょうか」

「そういうものなの?」

「全員とは限りませんが…友達関係をすっ飛ばして…って考える人は少なくないと思いますよ」

「ふぅ〜ん。そうなんだね…」

成海は僕の意見を一応聞き入れてくれるとスマホを机の上に置く。

その瞬間に通知の音が聞こえてきて僕らは苦笑せざるを得なかった。

男性からの告白のチャットだったらしく成海は既読にせずにそのままスマホを机の上に置いたままだった。

「お姉ちゃんたちほどじゃないけど…私も結構ひどいものだよ」

港はそう言うとスマホの画面を僕に向ける。

「運動部の男子は大体告白してくる。特に先輩が多いかな」

それにウンウンと頷いて応えるとスマホの画面に目を通した。

「港ちゃんはしっかりと断りの返事をしているんだね」

「うん。こういうのはちゃんと断らないとストーカー化するって何かで読んだから」

「しっかりしているんだね」

「うん。面倒なのは勘弁だから」

「そっか。何かあったら言ってね?怖い思いする前に」

「ありがとうっ♡でもそんなことは起きないよ。ニュースの中の出来事じゃあるまいし。アニメや漫画の中でもないんだから。私達の現実に危機なんて訪れないでしょ?」

「それはわからないよ。一応気を付けておいてね?」

「わかったよ。お兄ちゃんは心配性だなぁ〜」

僕らはそこからも他愛のない会話を繰り返して長い夏休みの日中を過ごしていくのであった。

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