第2話 竜珠の継承
龍華帝国は初代女帝・
香蘭亡き後、龍将の加護の元で二人の間に生まれた子供やその子孫が帝位を引き継いでいった。
帝位は龍将から受け継いだ
継承者は竜珠が選び人々の意志や希望は反映されず、皇帝の直系の子の中からしか選ばれない。
龍神の加護を得た帝国は、周辺の国々を取り込み巨大な大国へと発展し、他国に脅かされることもなく平和な時代が長らく維持された。
皇位継承から25年。第49代皇帝・明誠の時代も特に争いもなく安定した治世が続いていた。
そんなある日。
「うっ!」
明誠が胸を押さえてうずくまった。
「陛下!どうなさいました!」
側近が駆け寄り明誠の身体を支えた。
「胸が苦しい・・・。」
明誠はそのまま意識を失い、廊下に倒れこんだ。
皇帝の寝台を囲んで側近たちは難しい顔をしていた。
「心臓の病ですな。脈が弱ってきています。」
明誠を診察した筆頭医師が苦し気な表情で告げた。
「そんな!・・・回復する可能性は?」
側近が尋ねた。
「今すぐということは無いでしょうが、おそらく後、半年から1年程かと。」
「半年!」
「瞳孔の診察をいたしましたが、陛下の右目の竜珠がわずかに欠け始めています。」
「なんだと。竜珠が!」
それから皇宮は騒然となった。
しばらくして意識を取り戻した明誠の元に明誠の4人の子供たちが呼ばれた。
第1妃の子で長男の
第2妃の子で長女の
第3妃の子で次男の
泰誠は明誠が皇帝になる前、皇子時代の時にできた子で28歳。
子供達の中では、一番知力に秀でており、性格も温厚で
第二子である麗蘭は25歳。
優れた美貌を持ち、高位貴族出身の母の実家の権力もあり、自由気ままな生活を謳歌していた。
第三子の頼誠は23歳。
武人家系出身の母方の血のためか、武に優れていたため軍に所属しており、現在副将軍の任についていた。
半面、政治などは不得手で、本人も帝位にさほど興味がないのではないかと噂されていた。
第四子の陽誠は14歳。
泰誠とは母を同じくする年の離れた弟である。母である第1妃の
竜珠は皇帝の直系の子にしか受け継がれないため、順当にいくとこの4人の誰かに受け継がれるはずである。
しかし。
「父上。筆頭医師より竜珠が欠け始めたと報告を受けましたが、我々4人の誰にも竜珠を継承した徴候を認めておりません。」
長男の泰誠が、やや顔をこわばらせながら皇帝に声をかけた。
「私たちの他にお父様の子供がいるってことですの?」
麗蘭が強い口調で病床の父に詰め寄った。
「麗蘭。父上は病人だぞ。ひかえろ。」
泰誠が妹を諫めた。
「父上。姉上のおっしゃる通りです。隠し子がおられるということですか?」
頼誠が後ろから尋ねた。
目をつぶり俯いていた皇帝が顔を上げた。
「子がいるかはわからない。会ったこともない。しかし、皇子時代にそういう関係になった女性はいた。」
やや疲れた表情で明誠は子供たちに告げた。
そこにいた4人の子供達と側近たちはみな息をのんだ。
「女性とは?」
泰誠が尋ねた。
「私が治政の勉強のため北都州の北寧に視察に行った時だ。田舎ゆえ皇子としての束縛もゆるくなり、町にくり出していた時に町の食堂で出会った給仕の女性だ。」
「!!!」
一同が絶句した。
「お相手は庶民ということですか?」
泰誠が信じられないというようにつぶやいた。
明誠は頷いた。
「名は
「もともと北都州から帰る時に玲々を連れて帰るつもりだった。しかし・・・、竜珠の継承により私は厳重な警備のもと城から抜け出せなくなり、珍しく竜王陛下まで動いてくださり、即日竜安に強制送還され帝位についた。」
明誠は苦し気な表情になり、手で顔を覆った。
「帝位について半年ほどたち少し落ち着いた頃に、私は秘密裏に玲々のことを探させたが・・・。村から婚約者の男が迎えに来たから食堂を辞め田舎の村に帰ったと聞いた。そこで私は彼女を追うことを諦めた。」
「その方は父上の身分をご存じだったのですか?」
「身分は明かしていなかった。皇都から遊びに来た貴族の子息と思っていたのではないか。」
「その方の村の名前は?」
泰誠が尋ねた。
明誠は首を横に振った。
「
「子ができたという報告はなかったのですか?」
「食堂の主人にも、村から婚約者が迎えに来たから辞めるとしか言ってなかったようだ。妊娠したとも聞いておらず、私も恋仲になって間もないことで、子ができたということを考えたことは全くなかった。」
「その女性以外に可能性はないのですか?」
頼誠の質問に明誠は首を縦に振った。
「では、竜珠はその玲々の子に引き継がれた可能性が高いということですね。父上が皇帝となられた時期の子ということは、年齢は25歳くらいで性別は不明、おそらく北都州のどこかに在住していると。」
兄の言葉に麗蘭が顔をゆがめた。
「庶民に竜珠が引き継がれるなんて!」
「麗蘭。その子も父上の子だぞ。お前にとっても血を分けた兄弟だ。」
兄に諫められ、麗蘭は悔し気な表情で黙り込んだ。
「つまり、僕たちはその兄上か姉上にあたる人を探し出して、竜安に連れてくる必要があるということですね。」
末の皇子が明るい口調で声をあげ話をまとめた。
「まず玲々の子供を見つけるのが最優先事項だ。北都州知事に
泰誠の言葉に、一同頷いた。
そこで明誠が口を開いた。
「寿峰老師にも鳥伝を。300年生きる
皇帝の体調のこともあって、そこで話し合いは一旦中止となり、兄妹4人と皇帝の側近達で別の部屋に移り、今後の相談を行うこととなった。
「全くお父様も、若気の至りとはいえ何ということを!直系皇族の自覚がなかったのかしら?」
麗蘭がいまいまし気に言い捨てた。
「全くだよ。僕は泰誠兄上が帝位につく日を楽しみにしていたのに。」
「あら、その子がいなくてもお兄さまが継ぐかどうかなんてわからないじゃない。私かあなたかもしれないし。」
陽誠と麗蘭の会話を聞きながら、泰誠が口を開いた。
「竜珠が決めた後継者だ。賢人であればそれにこしたことはないが、田舎育ちで学がなければ私たち兄弟で支えてやればいいだけだろう。・・・北都州知事と老師への書状が早急に必要だ。それは私がやろう。竜王陛下には父上からお願いいただこう。私は執務室に戻るぞ。」
泰誠はそう言うと部屋を出て行った。
「兄上が一番悔しいはずなのに・・・。」
陽誠がつぶやき、唇をかんだ。
「ねえ。みんなでそいつを先に見つけて殺っちゃわない?そうすれば竜珠は新しい後継者を再選定するだろうし。」
末っ子の言葉に麗蘭が反応した。
「そうねえ。魅力的な申し出だけど、まずはその子を見てからかしら。田舎者だったら私の美貌でメロメロにさせて言うことをきかせるのも楽しいかもしれないわ。」
「男子とは決まってないでしょう。」
頼誠があきれたように姉に言い、言葉をつづけた。
「まあ姉上のおっしゃるように、まずは本人を見てからだろうな。あまりに愚王になるようなら陽誠の意見もありかもしれないが・・・。俺も一旦武官宿舎に帰る。捜索に軍人がかりだされる可能性が高いしな。」
頼誠がそう言って出ていくと、麗蘭は末っ子をちらりと見た。
「気持ちはわかるけど、焦らない方がいいんじゃない?相手は何の後ろ盾もない平民だもの。見てからでも遅くないわよ。」
そう言って麗蘭も部屋を去っていった。
一人残された陽誠は暗い笑みを浮かべ、つぶやいた。
「母上に相談しよう・・・。」
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