竜王と千年の恋

らな

第1話 プロローグ

 龍華帝国りゅうかていこく、初代皇帝・香蘭こうらんは不治の病に侵されていた。

 人間誰しも死を迎えるものであるし、自分の死は受け入れていた。ただ、心残りは後に残していく子供達、そして何より不老不死の竜王・龍将おっと・りゅうしょう


 ある日、香蘭は龍将を枕元に呼び寄せた。

 「龍将、今までありがとう。あなたが大好きだったから夫婦になれて幸せだった。私はずっと一緒に居てあげられないけど、輪廻転生の輪をくぐってまたいつかきっと会えるわ。私があなたを覚えていなくてもいつか私を見つけてね。」

 転生を信じているわけではなかった。ただ、残される夫に少しでも心の拠り所を残したかったのだ。

 香蘭は微笑みながら龍将に語りかけた。

 「こうらん・・・。」

 悲愴な顔をして返事を返さない龍将に香蘭は念を押した。

 「ね、龍将。約束よ。」

 「ああ、わかった。約束する。お前を見つけるから・・・。」

 普段何事にも動じない龍将の焦燥をはらんだ声に、香蘭は仕方ないなあという風に優しく微笑んだ。

 「子供達とこの国も頼んだわよ。私と再会した時、国がなくなっているなんてことがないようにちゃんと見守っていてね。」

 龍将は頷いた。


 それを見届けて、香蘭は眠るようにこの世を去っていった。


 

 龍華帝国建国より約千年。


「オギャー、オギャー」


龍華帝国りゅうかていこくの北西のはずれにそびえる天林山脈てんりんさんみゃくに囲まれた山奥の村に、小さな赤子が誕生した。元気な女の子だ。

しかし、赤子をとり上げた村の女性と赤子の父親は産まれた子供を見て言葉を失った。


「どうしたの?赤ちゃんに何かあったの?」

たった今子供を産みおとしたばかりの若い母親は不安そうに二人に尋ねた。


龍聖りゅうせいだ・・・。」

父親の明翔めいしょうが茫然とつぶやいた。


「えっ?」

「髪の色が金色だ。この子は龍聖だ。」

この国の民はみな黒髪黒目で、他の色はほとんど産まれない。

母親の玲々れいれいは驚いた顔で夫を見上げた。


「私たちどうしたらいいの?」

「この村でも龍聖は老師以来300年ぶりのことだし都にいらっしゃる寿峰老師じゅほうろうしに連絡を取ってみる。老師に指示をあおごう。」

玲々は夫の言葉に頷くしかなかった。




 赤子が産まれて1か月が経過したころ。

 龍華帝国の皇都・竜安りょうあんでは、代替わりしたばかりの第49代皇帝の明誠めいせいが、

長らく宰相を務めた老人につめよっていた。

「寿峰。なぜだ?なぜこのタイミングで宰相を辞するなどと申すのだ!」

「最近、急激に身体の衰えを感じていました。龍聖として生を受け300年の長い時を生きてきましたが、そろそろ寿命を迎える時がきたのかと。」


 明誠は驚いて寿峰を見た。


「そう漠然と感じていた折、故郷の天竜村てんりゅうむらより連絡がきたのです。村に龍聖の赤子が産まれたと。」

「新たな龍聖が!」


 竜の血がその体に濃く出た者は龍聖と呼ばれた。

竜王と同じく金色の髪を持ち、寿命も一般の人が60歳くらいであるのに対し、150~300歳と長命であった。

火や水など自然を操る仙術を使える者もいる。

1000年前の建国以来、5人の龍聖が記録されており、そのうち2人は天竜村出身である。


「新しい龍聖の誕生を聞いて、残りの私の人生は次代の龍聖の育成にそそぎたいと思ったのです。」


すっかり心を決めてしまったような寿峰の様子に明誠は黙り込むしかなかった。


鳥伝ちょうでんは飛ばせるようにしておきますので、何かあればご相談いただければと思います。」

明誠はうなだれながら頷いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る