第21話 <タイタニア型>討滅並びにJ-51地区奪回作戦 ⑧
「これはまた……随分と……」
俺の傷だらけの<Ex-MUEB>を見た装備科の整備士が感嘆したかのような声を漏らす。
「あぁ……こっぴどくやられちまった」
「よく生きてましたね……えーと、二時間後の総攻撃までにということでしたよね」
「そうだな。代替機か何か出せそうか?」
疑問を呈すると整備士は尋常ならざる早口で返答し始めた。
「いや、厳しいですね。
一応すぐに出せる予備機体は手元にあるのですが、フィッティングや電気信号伝達システムの個別設定とかの初期設定をしなければならないことを考えると、流石に二時間では厳しいとしか……というか逆にこの機体の装甲パーツを一旦全部引っぺがして新しいのに取り換えるほうが多分早いです。
それなら総攻撃までに間に合うと思います」
「お、おう……そうなのか?」
「はい。普通だったらどの装甲を残してどの装甲を直すかという吟味をしなきゃならなかったり、補修が効きそうなパーツは時間かけて補修したりするんで乗り換えのほうが早いんですけど、ここまでボロボロだと吟味するまでもなく再利用する部分はないですし、補修でどうにかなるダメージでもないので総とっかえです。
なんで今回に限ってだけ言えば修理のほうが全然早いです」
「なるほど……」
どんだけボロボロなんだ俺の機体は。実際問題ボロボロなのは一目瞭然ではあるのだが……
「それで、もうすでに出来合いの物を出すんじゃなくて、修理という形をとるならある程度要望を取り入れることもできるんですけど、何かありますか?」
「ふむ……」
<タイタニア型>との戦闘を考える。
バリアは……まぁ作戦続行を決断した以上向こうになんか考えがあるのだろう。とりあえず無視。
あの巨躯を相手取るならヤツの体躯によじ登るしかない……が振り落とされる可能性がある……これは一年前も先ほども変わらぬ問題点だった。だから状況に依存しない単独での高度確保、まぁ要は飛行能力か。これは欲しいな。
後は甲殻を貫徹してダメージをきっちり与えられるだけの火力は絶対に必要だし、一年前仕留め損ねた原因であるふざけた回復力……これを潰す為に一撃で心臓部に攻撃を叩き込める「ナニカ」が欲しい。
その「ナニカ」をどのようにすれば実現できるかはちょっと思いつかないのだが……
「そうだな、飛行能力と状況に左右されずに甲殻を貫徹できる火力、後はまぁ一撃で<タイタニア型>の心臓部に攻撃が届く装備が欲しいな……」
「………………………………」
なぜか静寂。
「沢渡さん、さすがにその要求が無茶だっていうのは全然詳しくない私ですら分かります……」
雨衣ちゃんすら若干ドン引きの表情である。
そっか~無茶か~無茶かこれ?俺はヤツを殺すために必要そうなものを挙げただけなんだがな……
「……ま、まぁ一応手持ちのパーツで実現できないか頑張ってみますけど、あんまり期待しないでくださいね……」
引き攣った笑みを浮かべたまま、整備兵は俺の<Ex-MUEB>と共に装備類を積んであるのだろうトラックの荷台の奥に消えていった。みんなひどいや。
◆
小一時間ほどたっただろうか。
「な、何とかなるもんなんですね……いやなんで完成したんだこれ……」
そこには大きくシルエットを変えた<Ex-MUEB>があった。
各部には小さく翼のような意匠が追加されている。
カラーリングはデフォルト色であるこれまでのダークグレーでも、雨衣ちゃんが装着しているような新兵用の漆黒でもなく、照り映えるような純白と差し色の赤。
そして何よりも目を引くのは背部に畳まれた状態で装着されている二対四枚の大型バインダー翼だろう。
「え~と一応説明をしておきますね。着装しながらでも聞いといてください。
こいつは中尉の<Ex-MUEB>をベースに、各種装甲の総取り換えと機能の追加を施した現地改修機です。ウィングパーツの積載によって大気圏中を最高速度350km/hでの飛行が可能だと試算されています。
武装は『BS-423 形状可変型非実体剣』と『BR-375 12mm光子式速射小銃』、それとこれは変更なく『腕部積載型パルスマシンカノン』です。これまでの実弾寄りの構成から、ビーム兵装に集中した構成に変更しています。
特に『形状可変型非実体剣』は最大解放時には刃渡り13mにも及ぶ高出力刃を展開します。おそらく一撃で<タイアニア型>の心臓部に致命打を与えられるかと。
戦闘種別は<近距離格闘戦>と<中距離射撃戦>のままです。
そして、ここからが大切なのですが、注意事項……というか率直に言ってしまうと欠点が何個かあります。
一つ目、基本的に飛行型<Ex-MUEB>には特殊戦闘種別である<高高度機動戦>をインストールして使います。
ですがこれには前述のとおり<高高度機動戦>はインストールされていません。
偏に急な注文でこのバインダー翼を無理やり取り付けた結果システム的には違法建築いい所のエラーパーツになってしまったせいですが……なので飛行中にシステム的な補助は一切入りません。
中尉、あなたの感覚と技術のみで飛行してもらうことになります。
二つ目、燃費が異常に悪いです。地上で普通に戦う分には大したことはないのですが、一番エネルギーを食うであろう飛行と『形状可変型非実体剣』の最大開放モードを組み合わせた場合、ジャスト10秒でENが尽きます。
それとこれはこいつ固有の問題というわけではないのですが、所詮未テストの現地改修型に過ぎないので未知の弱点がある場合があります。
……正直な話ね、こんなピーキーかつ不完全な機体、他の人には渡せやしないですよ。危なっかしくて仕方がない。それでも、常々噂でその武勇が聞こえる沢渡中尉だったら、まぁ何とかするだろうということで、信頼して渡すんですよ。
理論値的には間違いなく優秀なんです。頼みましたよ、こいつを。ポテンシャルの一滴に至るまで、存分に絞り出してやってください。」
知らなかった。
自分に『死神』という悪評以外の噂があったとは。増してや見ず知らずの人間からこうも信頼されるほどだったとは。
自分の味方は精々磐さんぐらいのものだろうと思っていた。皆して俺を忌み、不吉の象徴にしているのだろうと。俺自身も己は「そう」なのだと思い込んでいた。
少し、心が軽くなった気がする。
「……ありがとう。アンタ、名前は?」
「大崎って言います。<タイタニア型>討伐の暁には、機体を俺が修理したってこと、宣伝頼みますよ?ボーナスが出るかもしれないんで」
「あぁ、考えとくよ」
悪戯っぽく微笑を浮かべる大崎に背中越しに手を挙げ、雨衣ちゃんと共に前線装備課を離れた。
◆
「体の痛みはどうです?」
「あー待ってる間に効いたのかな、全然感じない」
「あくまで応急処置だって軍医の方も言ってたんで、作戦が終わったらちゃんと検査受けてくださいね?」
「はいよっと。その前に、生きて帰ってこなくちゃな。」
「約束、ですよ?」
「あぁ、約束だ。絶対に無事にこの作戦を戦いぬく」
「よく言えました」
「そりゃどうも。……雨衣ちゃんもこの後の攻撃について来るんだろ?」
「当たり前ですよ!傍で見張ってなきゃ沢渡さんそのままどこか行っちゃいそうだし、それに、私も同じ部隊員なんですからね?」
「そりゃそうだ」
成功するかどうかも分からない無謀な作戦まだというのに、どこか晴れやかな気分で笑いあいながら並んで歩く。
日が傾き始めた廃墟の世界は、橙色に燃えるようで、言いようも無く美しかった。
「この辺でいいんじゃないですかね?」
「じゃあ、始めるか」
<Ex-MUEB>メインシステム・戦闘モード起動。戦闘種別<中距離射撃戦>。
俺の新たなる愛機が、産声の起動音を上げた。
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