<タイタニア型>討滅並びにJ-51地区奪回作戦 前半部

第10話 <タイタニア型>討滅並びにJ-51地区奪回作戦 ①

 <タイタニア型>。

 古伝承における妖精女王の真名を冠するその<N-ELHH>は、現行確認されている位階の中で最強とされている。


 今から10年前の<最終戦争>の初確認より撃破事例は一切の零。

 人間の足搔きや悪知恵を虫けら同然に巨体で踏みつぶす様は、人類の絶望の象徴だ。

 不定期的に人類の前に姿を現し、その度に壊滅的な被害をもたらす。

 他の<N-ELHH>同様思考原理は不明。敵意だけがそこにある。


 予測することも抗うことすらできない終局。もはや災害と言って差し支えない。


    ◆


 相変わらず慣れない司令官室。


 「先日、雨衣くんが持って帰ってくれた情報から<タイタニア型>の再出現の予測が立った話まではしたね?」


 キリリと持ち上がる形の良い眉の角度はいつにも増して厳しい。


 「あぁ。」

 

 「はい。」


 「当然、我々も死力を尽くしてこれに対抗しなければならない。

 総力戦、いや、はっきり言おうか。だ。タイタニア型の撃破報告は未だ一件もない。相対した部隊は高確率で殲滅されている。」


 「そんなヤバイ敵とやり合うんですか!?」


 雨衣ちゃんが青ざめる。


 「逃げ場は無いよ、雨衣くん。ヤツを留められなければいつか殺されるだけだろう。それどこか地下街の市井の民草まで危険に晒すことになる。

 逃げられない。逃げてはならない。私たちが最終防衛ラインであるということを自覚してほしい。どれだけ薄っぺらであろうとも。」


 「……!」


 「怖がらせてしまったようだがね。私は実の所、そこまで悲観してはいないのだよ。もちろん、手ごわい敵にあることに変わりはないが、一年前の出現時、我々の大エース様がコア部分の露出まで漕ぎつけているからね。」


 「大エース様って……」


 「隣の彼だよ、もちろん」


 「すごいじゃないですか!」


 「いや、コア部分を露出させてからが本当に厳しい。撃破直前でもなんでもなく、アレは、第二ラウンド開始ってだけだったな……」


 生命の危機を感じるのか手数が無茶苦茶に増えるし、再生能力を全力で回し始めるので攻撃が通らないのだ。クソゲーが過ぎる……


 「………。」


 「当たり前だ。。」

 

 「……?なんの話です?」


 突如交わされた、主語を敢えて伏せた会話雨衣ちゃんが目を瞬かせた。

 ……それでいい。あんなこと、知らなくてもいいのだ。

 混ぜっ返す。


 「んーにゃこっちの話。それはそれとして、勿論無策で挑む訳じゃないんだろ?」


 「当然だ。突発的な出現で対策が立てられなかった今までと違って、今回はある程度日時がわかるからね。

 戦力を全力で整えさせてもらっているよ。基本的には<UN-E>本部から供与されるタンクと戦艦にメイン火力を任せようと思う。

 <Ex-MUEB>装着者には大量に湧くであろう雑兵の処理と最終段階のコアの破壊を任せたい。

 特に君たち私直属の特務実証部隊は遊撃部隊としての運用を想定している。好きに暴れ給えよ。」


「了解。」


 <Ex-MUEB>の開発により歩兵の戦術的価値は跳ね上がったが、それでもなお瞬間的な火力は戦車や戦艦に軍配が上がる。その分小回りがきかないが、そこを縫うのが俺たちの役割ということだろう。


 「そして、これは<タイタニア型>の撃破に成功した時の話だがね、J-51地区の奪還作戦を実行する。」


 「……それはまた、大きく出たな。」

 

 <最終戦争>以後、人類は敗北し続けた。

 地上は<N-ELHH>に制圧され、天上の地獄と化した。

 昏い穴蔵の中で逼塞と縮小を繰り返す行き止まりの世界。それをひっくり返すのだと、この女傑は高らかに謳い上げたのだ。


 「<タイタニア型>の出現時には、散開している周辺の<N-ELHH>が集結する。これが<タイタニア型>の撃破難易度を上げている訳だが……逆に言えば『掃討』という面に置いて、これだけの好条件はそうそうない。」


 「成功確率は?」


 「甘めに見積もって、三割と言ったところかな。」


 「上々。」


 勝ち目が極小でも確かに在るというだけで重畳。

 今までは確率を見定めることもできず蹴散らされるばかりだったのだ。



 「やってやるよ。」


 リベンジマッチと洒落こもうじゃないか。








 「巨大影、海中より迎撃ポイントに接近!測定結果、全長約100mの<N-ELHH>!今回の作戦目標、<タイタニア型>と推測されます!」


 「レーダーに感あり!各方位より<N-ELHH>接近!<シルフ型>、<エリアル型>、<スプリガン型>を確認!数、測定不能です!」


 『こちらNT-67型タンク隊より指令室へ、会戦準備完了しています!いつでもどうぞ!』


 『海上部隊、現在展開中だ。迎撃ポイントには10分後到達予定。』


    ◆


 「弾薬足りてねぇぞ!積み込み急げ!」

 「ありったけかき集めろ!奴らに通じる武器はすべて!!総力戦だ!!」


    ◆


 「必ず……殺す……見ててくれよ……父さん……!」


 「アイツとやりあうなんて、正直ビビるなぁ……生きて帰れるかなぁ……」


 「地上地区奪還なんて、達成できたら、俺も、英雄に……!」


    ◆


 「凄まじい騒ぎだね。」


 駆け巡る怒号と伝令で揺るぐ基地内。

 その中で奏栞は、艶然と、超然とした微笑を絶やさずにいた。

 足取りに迷いはなく、気負いもない。

 ただ戦い、殺し、勝つ。

 その確信めいた決意が全身を満たすのみだった。


 目指す先は演壇。


 「私の本分じゃないんだけどなぁ……」


 そう呟きつつも、凛然とした態度は崩さないまま、

 そこに、立った。


 「兵士諸君!……先ずは最初に、礼を言おう。


 ありがとう。この戦いに、よくぞ協力してくれた。渋々かも知れない、一秒先に戦々恐々とし、震えながら、怯えながらかも知れない。それでも、今ここに立ち、戦いを見据える君達に、最大限の敬意と感謝を。


 敵は<タイタニア型>。人類を嘲笑い、幾度となく打ち負かしてきた、最強最悪の<N-ELHH>。


 だけど、私はそんなモノの打倒はこの戦いの本質では無いと考えている。そんなものは然したることではないんだ。


 私はこの戦いを、未来を知ろしめす為の戦いだと捉えている。未来につながる「選択」のための戦いだと捉えている。


 <N-ELHH>の発生確認から25年、<最終戦争>から10年。人類は地下に追いやられ、永遠の縮小再生産を繰り返す。

 ……先がない、未来がない。行き止まりの世界だ。そこに選択肢はない、あるのは逼塞というどん詰まりのみ。


 私は選択肢、可能性が欲しい。世界の辿る道が「それ」だけではなく、結末は我々の手の内にあるのだという確信が欲しい。

 ……極論だけどね、人類の行く末なんかどうでもいいんだよ。自らの選択の果てに朽ちるならそれもまた良いだろう。


 だがその結末を化け物に、環境に決められるなんて冗談じゃない、それだけだよ。

 

 自分たちの運命ぐらいは、自らの手で決めさせてもらおうじゃないか。

 

 これはそのための最初の戦いだ!始まりの狼煙だ!

 自らの結末を自らの手に取り戻すのだという宣言だ!

  

 ――自分語りが過ぎたかな?まぁでも……その顔を見る限り、想いは伝わったようだ。


 では行こうか。

 勝つよ、みんな!」


 「「「「「「「「了解!!!!」」」」」」」」


    ◆


 『目標迎撃ポイント到達!!目標浮上開始!海面到達まで後30秒!!』


 『海上戦力、撃ち方〜ァはじめ!』


 『タンク部隊、戦列を貼れ!!』


 轟く鬨と指令。

 海上より現れ来たる怪物の咆吼を合図に。


 ――決戦が始まった。

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