第8話 死闘
さっくりと切られた二の腕を見て苦笑いがでる。綺麗にやられたものだ。
何だったか、旧時代の民間伝承。かまいたち?にやられたらこんな感じなのだろうか。
大地を蹴り進行方向を変える。
敵の圧倒的な速度を正確にとらえることは難しい。というか不可能だ。なのでタイミングと推量で防御し、反撃を叩き込む!
ガイン!と金属を激しくぶつけたような音とともに、衝撃。そのまま山勘でナイフをその方向に突き立てる。
手ごたえなし。躱されたか。
再び加速を入れる。
動きを止めればたちまち嬲り殺されるだけだろう。
奴の動きをとらえるのが先か。こちらの体にガタが来るのが先か。
砂埃とザッザッと鳴る音から敵の位置を推測する。
甲高い電子音を鳴らしながら、左腕からパルス弾をまき散らす。
ザン!とひときわ大きな音。
気配が消える。当たった手ごたえもない。
……飛んで避けたか!
咄嗟に気づき身を捻った。際々を掠める冷たい爪の存在を感じる。
崩れかけた体を整える時間すら惜しい。不格好な姿勢でナイフを叩きつける。避けられたが関係ない。
ナイフを手元に引き戻し再び切りつける。
「ラァァアアッ!!」
右に左にと畳みかけるラッシュで敵の体に無数の傷をつけていくがどれも致命的なダメージにはならない。クソ、こいつ……!
焦りのままに蹴りを打ち放つ。
だが。
ふるった右足はヤツの右手で器用にも絡めとられ、止められていた。
そのまま持ち上げられ叩きつけられる。さらに凄まじい速さの蹴りが俺を襲う。
「オゴッ……!」
冗談みたいな勢いで素っ飛んでいく俺の体。
空中でどうにか体を捻じり、手で地面を引っ掻くようにしてどうにか体を制動する。濛々と立ち上る土煙。
それを突き破り、奴が吶喊を仕掛けてくる。
「ぬあぁッ!」
意地で首を捻り奴が繰り出す一撃を躱す。頬が切れた。
ナイフを振るうがこれも外れ。一度は捉えた敵の姿が掻き消える。
「ハァ……グッ……」
傷ついた体を無理やり起こす。
蹴りをまともに浴びたが表示を見る限り臓器は無事。
まだやれる。
まだ戦える。
痛む体にムチを打ち走り出す。
思うように動かない体を振り回し、致死の一撃を紙一重で躱し続ける。
轟、と唸る大気が首筋を撫で回す。
埒が開かない。このままでは体力を削られて詰むのみ。
飛び上がる。
「……かかった。」
読みは当たり。
ヤツは空中にいる俺に直線的に突っ込んできた。
その短絡的な軌道を渾身の力で受け止める。バーニアを下方向に全開。もつれ合うようにして地面に落ちる。
<Ex-MUEB>式疑似パイルドライバー。即席だったが割とうまく行ったものだ。
流石に10m程の中空から落ちれば双方ともにノーダメージとはいかない。
しかし、ヤツをクッションにして着地した俺より敵のほうがダメージはデカい。
「グるガあァぁア!」
不協和音が鳴り響く。
大層お気に召したらしい。
「ようやく化け物らしい態度になってきたじゃねえか、えぇ?」
パルスカノン発射。
先程と同じ様に掻い潜りながら詰めてくるが、明らかに動きが悪い。
数発ヒットし、末端部に小さな穴が開く。
遅くなった、しかし依然として重たい腕を受け止める。渾身の力で思いっきり引き寄せ、勢いを生かしたまま全力の蹴りを叩き込む。
内心喝采をあげる。さっきのリベンジだ。
ヤツがゆらり、と起き上がりこぼしかなにかのように立ち上がるときには、俺は既に至近距離まで肉薄している。
先程のゼロ距離での格闘戦。俺はヤツに有効打を与える事が出来ず無用なダメージを負ったが、全くの無駄というわけでもあながちなかった。
分かったことがある。
どうにも<エリアル型>は、その奇妙な腕が邪魔し、極近距離での格闘戦は得手としないらしい。
それでも攻撃が飛んできにくいというだけできっちりガードはしてくるし、身を翻す速度も据え置きなので、そのレンジを維持しながら正確に攻撃を叩き込む事は困難を極めるのだが……
しかしラッキーパンチとは言え、動きを鈍らせた今なら。
「グがぁッ!」
「シャアッ!」
無理な体勢で放たれた右腕の一撃を弾き飛ばし、無防備な胴体に一撃をくれてやる。
ステップで反撃をかわし二発目。
二発目の勢いを殺さぬまま縦に切りつけ三発目。
怯んだ相手の胸板に左腕を押しつけ……
「グぎガぁぁァぁッ!?」
パルスカノン起動。
秒間200発というおぞましい速度で放たれる光弾が肉を焼き切りながら奴の体を吹き飛ばす。
旧時代のビルの残骸の中まで吹き飛ばされた奴を追い、駆ける。
バキッ!バキッ!という轟音を鳴り響き、内側からビルが崩れる。
野郎、心柱かなんか壊しやがったな?
嗤う。
「ノってやるよ。」
刹那。急加速。
空中に舞い散るビルの破片に飛び乗る。
飛び乗るや否や体を動かし投げつけられる瓦礫を回避し、周辺に舞い散る瓦礫を跳び伝い、接近する。
振るった一撃は受け止められ上に弾かれた。
だが
外した。着地のディレイをかき消す様に蹴りを当て、再びナイフでのインファイトに移る。
右!左!上!弾いて一閃!
逆手から順手に握り変えての突きはスカされた。一撃が滑り込んでくる。
装甲と装甲の継ぎ目、防御の薄いところに当たり、肉が削がれ鮮血が吹き出す。
関係ない。左胸に迸る痛みを無視しナイフを不格好な腕に突き込む。
動きが鈍った状態かつ不得手な接近戦でこれだけ一進一退の攻防となるのだ、あまりといえば余りの無法な強さ。
ナイフを引き抜き、首筋を斬りつけるが、カウンターで甲殻に覆われた膝蹴りが入る。
「ギイいィいぃいぃ!」
「ゴガッ……!」
今のは効いた。
鋭い痛みより単純な衝撃のほうがキツイ。
追い打ちで振るわれる打突をどうにか受け止め捌く。踵落としめいた一撃を見切り、腱を断ち切る。
バックステップを踏み後ろの瓦礫に飛び乗る。追撃と言わんがばかりに飛んでくる欠片を撃ち落としつつ着地。
お返しだ。
奴が乗る瓦礫にパルスを当て破壊。次の破片に飛び移ろうとする体に弾丸を当て地上に弾き落とす。続けて俺も飛び降りる。
空中に踊らせた身をスカイダイビングの要領で制御し、相手の真上に到達した時点でナイフを突き出す。
「ラアァァァァァァッ!」
「ギりィいィぃっ!」
刃はしっかりと敵の体に突き刺さる。
「もう一丁!」
突き刺さったナイフの柄をブン殴り更に深くまで突き刺す。
位置エネルギーと<Ex-MUEB>の尋常ならざる膂力の一撃の合算で凄まじい速度で下に落ちる敵。
ズン!と腹の底に響くような音とともに地に伏す敵とそこから5mほどの距離にバーニアで安全に着地しパルスカノンを構える俺。
時間にして1秒にも満たぬ超高速機動戦。先程までの足場が地面に落ちる音を聞く。
なんともギリギリの戦いだったが……勝負有りだ。
◆
エリアル型には一つだけ、リーチ外の敵に対する攻撃手段がある。
三節の異形の腕部による、則を破る速度。
それは、一時的に完全なる「真空」を生み出し、大気を切り裂く、
超広範囲の 斬撃となる
或いは平常時の沢渡京中尉であれば、動物じみた本能と他を寄せ付けぬ圧倒的な反射速度でこの不意打ちの一太刀すら回避せしめていたかもしれない。
だが激戦で負った疲労と手傷、そして僅かな慢心が、彼の思考と判断を鈍らせる。
然して。
超高速の大気断層が、彼の体に襲いかかった。
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