第5.5話 逢瀬もどきのその後に

 沢渡さんに手を振って別れ、自室へと足を進める。

 部屋には入るや否や備えつきのベッドに飛び込み……


 「うあああああああやっちゃったあああああってかやりすぎたあああああ!!」


 枕に向かって叫びながらイルカ宜しく足を振る。そう、私はイルカ……私はドルフィン……


 落ち着け、落ち着かねば何も始まらない。


 沢渡さんに私の事を意識させちゃおう大作戦はある程度の成功裏に終わったと思う。顔真っ赤にしてたし。あれで中々可愛い所もあるのだ。


 けどあまりにも距離の詰め方が唐突過ぎた。名前呼びはともかく唐突なあーんのフリは完全にヤバ女だと思われても仕方ないようああああああああああん!!


 いやけどどうすれば良かったんだ……?あの人どうみても朴念仁だしアレぐらいやらないとアピールできないのでは?いやそうは言ってもアレはいくらなんでも……


 ぐるぐる同じところをループする思考。

 悔恨と言い訳が何度も何度も閃き続け……


 「はぁ……寝よ……」


 過去は消えない。過ぎたことは変わらない。

 

 もうどうにもならないのだ。明日どんな顔して沢渡さんに会うかなんて明日の私が考えるだろう!もう知らない!


 「けど、笑ってたな……」


  それだけは、一片の曇りも気恥ずかしさもなく、良いことだろう。そう、思えた。


    ◆


 ウィンと、小さな音がして自室のドアが閉まる。

 そのまま俺はベッドのへりに腰を下ろし……


 「いやアレなんだったんだ……」


 そのまま頭を抱えた。


 そりゃ当然だろう。

 憎からず思っている女の子からあーんされたり名前呼びを要求されたりしたのだ。頭も抱えたくなるというもの。

 こんな血生臭い仕事に身を置いているとなると忘れそうになるが、俺だって一応年頃の男子なのだ。その、とても、困る。


 というかなんなんだ。

 あの娘は俺のことが好きなのか?好きじゃないと出来ない言動だろうアレ……けど自意識過剰の勘違いだったら恥ずかしいなんてもんじゃないし期待しないほうがいいのか……?

 けどこれで「ガチ」だったら気づいてないフリし続けるのは無礼じゃないのか?そもそも俺は天音さん……いや雨衣ちゃんの事が好きなのか?好きでもないんだったらああだのこうだの考えるのは間違ってるんじゃないか?


 分からない もう何もわからない


 回しすぎた頭から煙が上がる気配がする。正直戦闘中より頭使ってる気がする。


 というか俺はどう話しかけたら良いんだ……助けて磐さん……助けて親父さん……うぅ……


 視界が狭まる。意識が消える。有効な解決策など何一つ思いつかぬまま眠りの帳が降りてくる。


    ◆


翌朝。


「あっ!?……あのッ!」

「え゛っ゛」


両人は思考放棄のツケを支払うことになるのだった。


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