第21話

「お久しぶりです。姉さん。」


「え?クドゥスか?何でお前が此処に?」


「私も負けたという事です。」


 それを聞いた女王の姉は察した。あれから何年、何十年、いや、もう何百年経ったのかは分からないが、妹が女王の座を着いた事は知っていた。

 どっちから攻めたのか知らないが、自分も同じく抵抗虚しく敗れたのだろう。

 ボロボロになりながら決して屈する事なく最後まで王族として誇り高く足掻いている妹の姿を想像して涙を流す姉を見てクドゥスは余力を残しまくって綺麗な姿で降伏したなんて言い出せるわけがないと気まずくなったが、無言で姉を抱きしめる事でこの場を誤魔化した。


「アキファ姉?誰か来たの?」


「あぁ、私の妹が来たんだ。皆」


 森の中からワラワラと多くの女性のエルフが出て来た。

 中にはクドゥスも知っている顔もいたが、皆、姉と一緒に敗戦後に連れ去られた者達だった。


「こんなにたくさん・・・」


「えぇ、まだ懲役が終わっていなくてこっち来れてない子もいるわ。」


「懲役?」


「え?」


 クドゥスは此処がエルフが連れ来られる監獄の代わりだと思っていた。自然と一緒に一生を終えるエルフにとって森林の無い場所で生きるのは苦行でしかなく、徐々に弱まって身体の弱い子は衰弱死してしまう程である。

 だから、懲役が終わっていないというのはどういう事なのか?疑問に思ったのである。

 その疑問を聞いたアキファは別の疑問を浮かび上がった。


「そう言えば、何でクドゥスは此処に来れているの?此処は懲役が終わっている子・・・いや、ちょっと首輪を見せて。」


「えっ?なに、ぐぇ!ちょっと姉さん!」


 何かを思い出したアキファはクドゥスが着けている此処に来る前にウスから着ける様に言われた首輪を無理矢理引っ張って内側を見て驚いていた。


「やっぱり、貴方、専属なのね。しかもまだ有力な童貞の。」


「専属?童貞?いや、何を言っているの?姉さん。」


 いきなり意味不明な事を言い出した姉を見たクドゥスはこの繁殖生活で頭がおかしくなったのかと心配し出した。

 周りに助けを求めようと他のエルフを見ているとびっくり仰天な表情を浮かべて固まっていた。


「・・・何も聞かされていないようだから。教えておくわね。此処はね、繁殖懲役が終わった女エルフが入る余生を過ごすこの国唯一のオアシスなのよ。」


 繁殖懲役とは繁殖、種馬として連れて来られた者達がアマゾネスが定めた子供の数まで産まされ続ける懲役の事である。

 エルフなどの長命種は懲役が終わっても元気な事があるため、このような余生場所が用意されているのである。

 但し、この場所にはそれ以外の者も連れて来られる場合がある。

 例えば、エルフのように自然がないといけない種が療養の為に来たりするが、かなりレアケースだが、専属繁殖or種馬を連れて来る事もある。


「まぁ、殆どが自分の家に置いておくんだけどな。アンタみたいのはレアケースさね。」


 ふぅーとタバコを吸いながら教えてくれるお婆ちゃんはアキファより遥か昔から此処に住んでいる御局様である。

 大抵のことはこの人に聞けば分かる程、この国を知り尽くしているのである。


「特に何もされず此処に来たのはアンタが初めてだよ。アマゾネスは好きな男のアマゾネスの童貞は自分で散らしたい癖だから。当分はアンタがお勤めに向かう事はないだろう。」


「あぁ、そう言う事ね。」


 余程気に入られたんだねとクドゥスの見た目を見ながらお婆ちゃんは言った。

 何かの間違いで大好物童貞を繁殖雌に奪われるわけにはいけない為に滅多な事に専属繁殖を付けるなんてないのだが、余程好かれたんだと思ったのである。

 そんな事を思われているとは思ってもいないクドゥスは此処に来るまでにウスに頼まれていた事を思い出しながら納得していた。


「多分、すぐにお勤めは来ると思います。」

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