第20話
「おまえは!なんなんだ!??」
「はぁ、はぁはぁ、まるで人を化け物みたいにエルフって差別主義者ですか?」
戦闘はウスの圧倒的な劣勢で進んでいた。当たり前であるが、騎士や大臣連中だけなら然程問題ないが、女王は格違いだった。
他のエルフ達のバフに適切な防壁による防御で自分は一歩も動かずにウスをボロボロにしていたが、ウスは顔色一つ変えずに一人一人エルフを倒していっていた。
気絶したエルフはまるで猛獣の檻に肉を投げ入れる様に窓から外にいるアマゾネス達に投げていた。
この中で一番若い騎士はウスの姿に発狂していた。
魔法や剣でウスの肉は部屋中に飛び散り、骨は飛び出ては折れ、抜かれ、砕かれているのに何もなかったかの様に平然と殴りかかるのである。
その上、傷が次々と治っていくのである。
回復能力が高いアマゾネスでも明らかにおかしいレベルである。
「まさか?!女王様と同じ!先祖返り?!」
「そんな訳あるか!アイツは!男だ!アマゾネスが男で先祖返りなんて!あり得ない!!」
「その通りです。あれには何かトリックがあるはずです。」
騎士や大臣はウスの異常な回復能力を最初は先祖返りによる種族特性活性化の影響だと思った。
先祖返りとは今の種族の特性に今の進化の影響で退化した昔の能力を上乗せ、強化、進化する遺伝子的な恩恵である。
エルフだったら自然との親和性が上昇、魔力量上昇などがメジャーである。
女王は天魔法と呼ばれている天候を操る強力な魔法を使える。
まぁ、あまりにも広範囲の魔法なせいで味方が巻き添え確定魔法のため、女王についてからは使っていないボッチ限定魔法ではあるが、今は関係ない事だ。
しかし、この説は一瞬にして否定された。
なぜならアマゾネスは男が先祖返りするなんてあり得ないからだ。
それは絶対であり、どんな秘術や実験でも覆すのは不可能な遺伝子の絶対条件である。
それなら何か小細工をしていると女王は考えた。
「では、魔道具ですか?それか、アマゾネスなら気とも親和性はあった筈です。それなら・・・」
「いえ、あり得ない。私の知覚は自然の力を見逃さない。気は使っていてもそれは常識的な範囲。魔道具も使っていない。」
自然との親和性が高い女王には魔法による隠蔽も自然の力も察知が出来る。その女王が断定するからには間違えない。
最も可能性が高いのは気による自然治癒効果アップであるが、これはないと女王は分かっていた。
ウスが操る気は惚れ惚れするほど洗練されたまるで美術品を見ている様な美しさがそこにはあった。敵じゃなかったら自室に一日中飾って眺めていたいと欲してしまう程だった。
アマゾネスの王族や一部貴族にはウス並の回復能力を持つものがいたというより、女王は昔そんなアマゾネスと対峙して苦い思いをした為、その者が操る気の練度も量も質も覚えていた。
それに比べられたらウスの気は格落ちぎみである。美しさのみにしたら圧勝だが、実用性で言ったら完敗である。
言ってしまえば、気だけでこんな芸当出来るレベルではない。
そうなると考えれるのは一つ。
「奇跡ですか。相変わらず歪んだ愛ですね。」
「アマゾネスにとっては正常な愛ですよ。」
女王の発言に他の者は馬鹿な!と驚いていた。
奇跡とはその名の通り、物語でよく起きる主人公が窮地に立った時に起きる覚醒イベントの事である。
よく起きると言ってもそれは物語だからである。
奇跡が起きたから物語として残っているという話である。その物語の下には物語にならなかった屍の山が沢山積もっているのである。
それがこんな若さで奇跡を起こした上に、奇跡を起こさないといけない死亡率100%の死闘を繰り広げたという事である。
そんな事あり得ないと思っているのである。
そんな中、アマゾネスの事をよく知っている女王はアマゾネスの伝統的な愛と言うなの試練の全貌を知っていた。
獅子は子を崖に落とし這い上がらせる様に、アマゾネスは最愛の子を魔物の巣に叩き落とし、全滅させると言われている。
それが終わると更に難易度が劇上げさせて間髪入れずに落とす。
この試練をクリアしたら更なる愛情を注ぐ。
それがアマゾネスの愛情表現である。
「イカれてますね。それに・・・」
「それ以上何も言うな。」
女王が余計な事を言おうとした為、ドラゴンすら何とは言わないが漏らす程ビビる殺気をエルフ達にぶつけた。
それを見た女王は戦意喪失しかけの味方を城から叩き出した。
「・・・良いんですか?味方でしょう。今頃、飢えた獣達に喰われていますよ。」
「良いんですよ。あの様子ならどうせ使えません。それにこの戦争は負けが見えました。私が此処から天魔法を使っても死を先送りするだけだ。それなら良い条件を引き出す為に今のうちに取引するしかないでしょう。」
「そんな取引を受ける理由はありません。」
「あなたの秘密をバラしますよ。」
「・・・・・・・・・・条件によります。国の害になる条件なら此処で殺します。」
ウスとしては秘密がバレるのは面倒な上にバレたくない理由がある為、出来る限り秘密にしておきたかったが、国に損害になるくらいならバラされても良い秘密だった。
それは女王も分かっている事だった。
「大丈夫です。私が要望するのは姉さんに合わせて欲しい。それだけよ。」
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