第11話

 ピッピッピッ!!!ピッピッ!

 軽快なアラーム音がアリセシアの自室に鳴り響いていた。

 

「うっ!うん?」


 アリセシアの自室に時計はない。

 いつも人型時計と呼ばれるほど時間に正確なウスが側にいる様になってから時計が壊れた時から置かなくなったのだ。

 だから、久しぶりに聞くアラーム音に懐かしみを感じながら不思議に思っていた。


「おはようございます。アリセシア様。」


「おはよう。ヤマ。ウーーン。良い朝ね。」


 昨日のライクと違ってヤマの時間は平均睡眠時間をキッチリタイマーで測って起こした為、少しスッキリした朝を迎えることが出来ていた。


「それでノロの朝の習慣って何?」


「はい、ノロ様は毎日その日の気分にあった音楽を流しながら朝の身支度から食事まで行っています。」


 ヤマはそう言うとCDを取り出すとCDをセットして音楽を流し始めた。

 前もってウスにアリセシアの好みの曲を聴いていたのか、聴こえてくる曲は聴いたことのない曲だったが、かなり好みな曲だった。


「良い曲ね。それに音質も良いわね。こんなスピーカー?城にあったかしら?」


「ノロ様が屋敷から持っていく事を許可してくださいました。曲もニュージナル王国で今、人気絶頂中のシンシアの曲です。」


「シンシア・・・確か、無名から一気に成り上がった天才ピアニストね。確かに素敵な曲ね。」


 ニュージナル王国は芸術と魔法が盛んな国であり、三大大国と呼ばれるうちの一国である。

 ちなみにアマス王国は軍事大国な為、芸術はあまり発展していなかった。歌なども軍歌的な曲が多いのだ。


「貴方は凄くキッチリしているのね。態々、タイマーまで使って私の睡眠時間を測るなんて。」


「これくらい従者として当然のことです。」


 従者を変わるのだ。その従者と同等の仕事をするなんて当たり前、それ以上の満足を主人に与えてこそ従者としての実力を示すことが出来るのである。

 ヤマはウスの従者としての実力を尊敬すると同時にライバル視をしていた。

 元々、同世代で筆頭従者をしていたのはライクだけだった。

 そんな幼馴染に追いつく為努力に努力を重ねてヤマは今の地位に就いたのだ。

 ライバルに追いついたと思ったらアリセシアの従者選定で全くの無名から圧倒的な実力で筆頭従者に就いたのがウスだった。

 男性でありながら筆頭従者になったのは過去を見ても片手で足りるくらいしかいなかった。

 王族の従者となるとウスが初めての快挙だった。


「うん。ご飯も美味しいわね。栄養バランスもよく考えられているわ。でも、貴方が欲しいのはこんな並な賞賛ではないわよね。」


 ヤマが欲しいのはウスを超えていると言う賞賛だった。

 ウスが自分より戦闘能力が高い事はローズネス戦で理解していた。

 なら、従者としてなら自分の方が上な部分があるのではと思ったのである。

 誰よりも優れた従者を目指しているヤマとしては大切な事だった。


「正直に言うとウスの下位互換ね。」


「・・・・・・」


 アリセシアの客観的に見た辛辣な意見をヤマは正面から受け止めていた。


「ウスの従者として最も優れているのは相手への理解力の高さよ。相手が誰であっても1時間でも一緒にいたら相手が欲していることが分かってくるのよ。そして、栄養管理も睡眠管理も相手の様子を見ただけで何が足りないのかも手に取るように分かるの。」


「・・・・・・」


「貴方の従者としての長所は正確さと安定性ね。でも、それだけね。ウスに勝っているのは芸術系ね。芸術好きのノロの従者だけあって芸術の目は養われているわね。」


 だが、それも主人であるアリセシアが特に芸術が趣味じゃないから。従者のウスもあまり好きではない為、ヤマに負けているだけだった。


「まぁ、自分のスタイルを見つけることね。」


「スタイルですか?」


「そうよ。主人に全てを捧げない従者はゴミだけど、自分の意思も流儀もない従者じゃ一流にはならないわよ。」


 親友の従者の為、余計なアドバイスかもしれないがお節介がやめられないアリセシアだった?

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