第10話

「良いね。次は槍か!面白い!」


「くぅ!さすが王族。格が違う!」


 ライクとアリセシアの模擬戦は終始ライクが押される結果になっていた。

 模擬戦の力試しとあって魔力なしの純粋な力と技量の勝負となったが、力も技量も剣ではアリセシアの方が一枚上手と判断したライクは態と大剣がアリセシアの目の前で壊れる様に耐久調整して一瞬の隙を作った。その間にレイピアへと持ち替えて突撃したのだ。

 レイピアも通じないと判断すると次は隠し持っていた短剣に瞬時に切り替えて奇襲した。

 それを避けられた瞬間に短剣を投げて近くにあった槍を持って今、戦っているのだ。

 相手の弱点を探り、それに最も適した武器で攻めていくのがライクの戦闘スタイルだった。


「中々な速度ね。」


「そんな余裕で避けられても嫌味にしか聞こえないです!」


「でも、甘い!器用にどんな武器も使える様だが、それゆえに一つ一つ技量が緩い!」


「なっ!ガハッ!!」


 ライクの鋭い槍の刺突を長剣で難なく弾かれて耐性を崩したライクの腹に蹴りをお見舞いしたアリセシアは追撃する事なく、ライクが起き上がるのを待っていた。


「力も技量も流石筆頭従者って感じだけど、まだまだね。全てが平均以上だけど、それだけね。」


「手厳しいですね。はぁ、はぁ。」


 全身に流れる空気を全て追い出される様な強烈な蹴りに酸欠状態になっているライクは辛口評価するアリセシアをなんとか見返せないかと考えていた。

 ライクが弱い訳ではない。それどころかそこら辺の騎士になら難なく勝てるだろうが、相手が強すぎるのである。


「今日は此処までにしましょう。」


「え、私はまだ!」


「言ったでしょう。怪我をさせる気はないの。これ以上やったら貴方を怪我させて今日の仕事に支障が起きるわ。それだと困るのよ。」


「くっ!分かりました。」


 悔しそうにライクは渋々アリセシアの言う事に従った。

 圧倒的な力の差にアマゾネスの負けん気の本能が刺激されたのだ。


「精進する事ね。今度は貴方の本気を見たいわね。」


「何を言っているんですか。私は本気ですよ。」


「いいえ、貴方は遊んでいるだけよ。」


 アリセシアはライクが本気を出していない事に気がついたのだ。

 ライクは強く否定しているが、アリセシアは根拠があった。


「だって、貴方、ローズ姉様に似ているもの。」


「・・・・・・・」


ローズは遊んでいる時は色んな武器をその日の気分によって使うのだ。

 それは有り余る才能と力から来る強者の遊びだった。

 ライクにローズネスと同格の強さは感じないが、本気ではない遊びの感覚は似ていたのだ。


「ライアー家の事は知っているわ。貴方が自分の強さを己の主人にも見せる事は出来ない事もね。でも、遊ばれている模擬戦程ストレスが貯まるものもないわ。」


「・・・・・・・・」


「自分の運命に向き合う事ね。」


 アリセシアは運動して汗かいた為、浴場に行った。

 一人残されたライクは悔しさに唇を噛み締めていた。


「私だって思いっきりやりたいですよ・・・」


 ライクの頬には一筋の雫が流れ落ちていた。

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