第9話

「起きて・・・・・・・ください・・・・・・」


「うぅ、ウス。今日は学園も休みだ。もう少し寝させてくれ。」


 アリセシアの一日はいつもこうして始まる。

 朝が強くないアリセシアの体調を加味した完璧な睡眠時間を徹底しているウスの起こしはいつも最高なのだが、今日は何故か少し早いとアリセシアの寝惚けた頭は考えていた。

 まぁ、そんな時もあるかと頭の中のウスがまだ起きるには早いと囁いていると二度寝を決め込もうとしていた。


「っ!!!」


 そんなアリセシアの大きなベッドがガタゴトと揺れるほど身体ごと揺らされたのである。

 これにはアリセシアもびっくりした。

 いつも試合以外で異性の身体をあまり触るべきではないという意味不明な理論で己の身体を極力触らない方向で仕事を進めるウスがいきなり触ってくる上に揺らしまくる暴挙に出ているのである。

 明らかに異常である。

 急いで起きて医務室に連れて行かねばと急激にアリセシアが起き上がった事によって揺らしている相手とぶつかってしまった。

 むにゅっとした感触がアリセシアの頭に伝わった。


「むにゅ?」


 男性のウスから感じ取れるわけがない柔らかさにアリセシアの脳は急激に目が覚めた。


「おはようございます!アリセシア様!」


「ライクだったか?マリアの従者だな。それが何故私の自室で私を起こしている。」


 起こしていたのはライクだった。

 通りで可笑しかったのかと納得する一方で何故、ライクが此処で私を起こしているのだと疑問が浮かび、そして、自己解決できた。


「そうか、今日だったな。従者交換会は。」


「はい!今日一日宜しくお願いします。ご主人様!!」


 従者交換会とは例年学園入学から少し経った後に行われる行事であり、その名の通り、仲の良い者同士で従者を交換して他者間の交流を図る者である。


「ライク、私は朝が弱いのだ。もう少し優しく起こしてくれ。」


「はい!分かりました!あっ、これ目覚めのハーブティーです。」


「うん、ありがとう。」


 ウス以外からお茶を飲むのも久しぶりだなと感じながら恐る恐るライクが淹れたお茶を飲んだ。

 この典型的な元気っ子が繊細なお茶を出せるとは思えなかったのである。


「ぁ、美味しい。」


「ありがとうございます!!」


 ウスが淹れたお茶と遜色ないレベルであるが、少し個性的な味になっていたが、それがお茶の味を邪魔する事なく、よりこのハーブティーを飲みやすくしていた。

 どっちが美味しいかと聞かれれば迷う事なくウスのお茶と答えるくらいウスのお茶は完成させられているが、このお茶も中々美味しかった。


「どうですか?ウスさんが教えてくれたアリセシア様用の目覚めのハーブティーに私なりにアレンジとしてキッチンに余っていた今流行りのビーターチョコとかを淹れてみました!」


「とかの部分が気になるが、美味しいよ。ハーブティーの香りも何故か損なっていない。よく出来たお茶だ。」


 てっきり戦闘能力重視の子なのかと勝手に思っていたが、そんな事はなかったな。ライクの実力に感心していた。


「それではこれを!」


「なんだ?これは?」


「運動着です!」


「それは分かっている。なんで、寝巻きから部屋着じゃなくて運動服を着ないといけないんだと聞いているのだ!」


「マリア様はいつも目覚めの運動をされるからです!!」


 この従者交換会はただいつもの世話を他の従者が変わるだけではない。

 その主人が毎日やっているルーティンも世話の中に折り込むのも内容に入っていた。


「はぁ、全くマリアは訓練が好きだね。朝くらいのんびりして良いだろうに・・・」


 朝が弱いアリセシアはあまり朝練というものをしない。ましてや寝起きにするなんて気分は最悪である。

 そんなアリセシアの気持ちはお構いなしに運動の用意をするライクにアリセシアは少し遊んでやろうと思っていた。


「ライク、マリアはいつも朝はどういうメニューでやっているんだ。」


「マリア様ですか?そうですね。朝は大体基礎練や素振りが中心にその日毎に違う事をしています。」


「そうか、なら私の今日のメニューは模擬戦だ。」


 ウス以外の従者の実力も気になっていたアリセシアにとしても良い機会だと思ってライクを試す事にした。


「さぁ、そこの訓練用の武器を好きに使ってくれて構わない。」


「へぇ、朝から怪我しても知りませんよ。」


「ふふ、心配するな。従者の仕事が出来なくなる程痛めつけるつもりはない。思う存分掛かってこい。」


 ライクは自分の後ろにあった大剣を掴んだ。

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